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セバスチャン・スタン、自宅待機生活で感じる希望と怒り ─ コロナ禍に「普通の日常が幸せだった」

セバスチャン・スタン
Photo by Nina Hellebakken Hagen https://www.flickr.com/photos/bflyw/47071656624/

マーベル映画のバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー役や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)などで知られるセバスチャン・スタンは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受け、早くから公に呼びかけを続けてきた俳優のひとりだ。手洗い動画を公開し、外出制限を無視する人々への怒りを隠さず、SNSでも自身の思いを時折語ってきたのである。

現在、セバスチャンも自宅待機=自主隔離のまっただなかにある。米VarietyのInstagram Liveに登場したセバスチャンは、「Instagramでインタビューを受けるのは初めて」と笑顔を見せた。情勢を受け、新作映画『Ending, Beginnings(原題)』が米国でデジタル配信となったことには、「スクリーンで観てほしかったですが、すごく感謝しています」と話した。「今は普通の時じゃない。毎日が試練だと思っていますから」

現在、セバスチャンは自宅での日々をどのように過ごしているのだろうか。この質問に、セバスチャンは「独り言を言ってますよ、ずっと…」と笑顔を見せ、「そういえばニューヨークに住んでるんですか?」と逆質問。インタビュアーが“ニューヨークです、近くにいるんですかね?”と答えると、「僕もニューヨークですよ。あと10分で夜の7時ですね」と応じた。

厳しい外出制限下にあるニューヨークでは、毎週金曜日の夜7時に、医療従事者や警察官、スーパーの従業員、地下鉄やトラックの運転手など、最前線で働く人々(エッセンシャル・ワーカー)に拍手を送るムーブメントが続いている。これは「CLAP FOR NYC」として2020年3月27日に始まり、いまや各国に広がったもの。取材が行われたのは4月17日(米国時間)、ちょうど金曜日の夜だった。

「夜の7時になると、家の窓を開けたり、そうじゃなくてもいいんですけど、いま働いている人たちにみんなで拍手するでしょう。彼らが仕事を交代するタイミングでね。僕はあの瞬間、とても心を打たれるんです。みんなが同じ意識なんだって思うから。どこにいようと、どのアパートに住んでいようと、少なくともあの時間は誰もが繋がっている。それってすごく特別なことだと思うんですよ。」

自宅待機の日々を送る中で、セバスチャン自身は「毎日、なにか生産的なことをするようにしている」という。「自分がしていることを書いたり、読書をしたり。これほど長く家にいたことがないので、家にいるって良いなと思います。避難みたいなものでも」。その一方、俳優としての日常を失った現在、おのずと思索にふける時間も増えているようだ。

「自分が当たり前だと思っていたことについて、とにかく考えています。それがいかに良いことだったかって。普通の日常を送れていたことは本当に幸せだった。そんなふうには思っていなかったですけどね。だから今の時間が過ぎても、そういうことを僕らが忘れないよう願っています。僕たちは、お互いを受け入れることを学べるかもしれない。よりよい自分たちになれるかもしれない。(以前なら)お互いに近づくことができました。誰かに触れることもできたし、母親を抱きしめることもできたし、会いたいときに電話をかけて会いに行くこともできた。だけど、今はできないんです。」

今回、セバスチャンはしばしば声を詰まらせながら──まるで涙をこらえているように見える瞬間さえあるほどだ──現在の心境を語っている。インタビュアーがニューヨークの状況に触れた際には、抑えた怒りをにじませた。“誰もがソーシャル・ディスタンスを大切にしているわけじゃないですよね”との言葉に、セバスチャンは一瞬沈黙し、「どこにでもある問題なんだと思います。残念ながらニューヨークだけじゃなくて」と返したのだ。

最悪なのは、そういう行動が、すべてを長引かせることに繋がるということ。もちろん、いい天気の日もあるし、自分の心をケアすることも大切ですよ。だから、もし散歩に出かけたくなったとしたら、良い時間帯があると思います。すごく早い時間なら(街は)まだ空いているし、人との距離も取れると思う。だけど、いくらやりたくなっても、今は公園でピクニックする時じゃない。つまり、まだそういうことが起きてるってことですけど。」

そしてセバスチャンは、わずかに強まった語調を再び抑え、「だから僕にもわからないし、難しいですけど、ここから誰もが学べることがきっとあると思うんです」と言い添えた。

ちなみに、しばらく時間が流れ、過去作品の話題に移ったあと、セバスチャンが話の途中で「ところで拍手する時間ですよ、急いで拍手しましょう!」とインタビュアーに求めたのも、彼の人柄と問題意識がうかがえるところ。しばしインタビューを中断して2人で拍手を送る様子は、なぜセバスチャンが「あの瞬間に心打たれる」のか、その理由を画面越しに伝えてくれているかのようだ。

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Source: Variety

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。