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DC映画『シャザム!』主人公、かつては「キャプテン・マーベル」だった ─ ややこしい名前の歴史を総ざらい

シャザム!
「シャザム!」(C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. SHAZAM! and all related characters and elements are trademarks of and c DC Comics.

見た目はオトナ、中身はコドモ。DCコミックス原作映画『シャザム!』が2019年4月19日(金)に日本公開となった。主人公の少年ビリー・バットソンは、とある魔術師からスーパーパワーを授けられ、魔法の言葉「シャザム!」を叫ぶだけで筋肉隆々、稲妻を発する能力を持つ大男に変身する。さらに怪力や超高速移動を操り、空を飛ぶこともできる“最強の”ヒーローとなったのだ。

コミックの世界にビリー・バットソン/シャザムが初めて登場したのは1940年。実はこのヒーロー、すでに80年近い歴史をもっている。しかしその歴史には紆余曲折あり、かつては「シャザム」ではなく「キャプテン・マーベル」という名前だった……と書けば「おや?」と思われるだろうか。つい先ごろ、そんなタイトルの映画が公開されたではないかと。ただしその映画、ブリー・ラーソン主演『キャプテン・マーベル』の主人公はビリー・バットソン/シャザムとは別人。DCコミックスとはライバル関係の出版社、マーベル出身のスーパーヒーローである。一体どうなっているのか……。そこで本記事では『シャザム!』と『キャプテン・マーベル』、名前にまつわる複雑な歴史を駆け足で紐解いていきたい。

シャザム!
©2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

1940年代:大人気ヒーロー誕生

『シャザム!』の主人公である少年ビリー・バットソンは、1940年、DCコミックスではなくフォーセット・コミックスから刊行された「ウィズ・コミックス(Whiz Comics)」#2で初登場した。1938年にDCコミックスがスーパーマンを誕生させ、アメリカでヒーローブームが巻き起こっていたころ、それに追随する形で生み出されたのだ。孤児の少年が洞窟に住む魔術師に出会い、後継者として能力を与えられるという設定は現在と変わらない。魔法の言葉「シャザム!」で変身するのも同じだ。ただし異なるのは、変身前と変身後の人格が別物であったこと。そして当時のヒーロー名は、先ほどから触れているように「キャプテン・マーベル」だった。

「ウィズ・コミックス」で大人気となったビリー・バットソン/キャプテン・マーベルは、1941年に個人誌「キャプテン・マーベル・アドベンチャーズ(Captain Marvel Adventures)」を刊行。のちに『深夜の告白』(1944)や『アパートの鍵貸します』(1960)に出演するスター俳優、フレッド・マクマレイからインスピレーションを得たというルック、大ヒットを記録したスーパーマンの要素を研究し尽くして生まれた設定などで見事に大当たりし、1944年には年間1,400万部を売り上げる

Public Domain https://en.wikipedia.org/wiki/File:WhizComicsNo02.jpg

なお個人誌が刊行された1941年には、全12章からなる連続映画『キャプテン・マーベルの冒険(原題:Adventures of Captain Marvel)』も公開されている。主演を務めたのは、『駅馬車』(1939)などに出演していたトム・タイラー。ビリー・バットソンは25歳のジュニア・コーランが演じた(余談だが、ジュニアは1974年にドラマ版「シャザム!」にカメオ出演している)。

1950~1960年代:裁判と打ち切り

表向きは絶好調だったキャプテン・マーベルは、そのさなかにもトラブルを抱えていたタイトルだった。個人誌が初登場し、映画化もなされた1941年、DCコミックスが「スーパーマンとの類似点が多い」としてフォーセット・コミックスを訴えたのである。スーパーマンを研究し尽くしたうえに誕生したがゆえ、そこに足下をすくわれてしまった形だ。

「もちろん」というべきか、「しかしながら」というべきか、フォーセットはDCの主張を認めず、キャプテン・マーベル関連タイトルの刊行を継続。両者が和解しないまま裁判は12年間にもわたって続けられた。最終的にフォーセットは、DCに対して40万ドルを支払うことで和解。今後はキャプテン・マーベルの関連作品を発表しないことを約束した。1953年6月、「ウィズ・コミックス」の終了を皮切りに、フォーセットは関連タイトルを随時終了。コミック部門そのものが消滅し、従業員も解雇されたという。

次にキャプテン・マーベルがコミックの世界に戻ってきたのは、それから20年が経過した1973年。しかしその頃、「キャプテン・マーベル」を取りまく状況は大きく変わっていた。

シャザム!
©2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

1970年代:復活、タイトルを『シャザム!』に

1960年代中頃から、アメリカにおいてコミックは再び大きなムーブメントとなりつつあった。そんな中でキャプテン・マーベルを蘇らせたのは、奇しくもフォーセットと12年間の争いを繰り広げたDCコミックスだったのである。1972年、DCの世界に新たなキャラクターを登場させたいと考えていた編集長のカーマイン・インファンティーノは、ビリー・バットソン/キャプテン・マーベルの復活を決意。フォーセットとライセンス契約を結ぶことで、自社のヒーローとして新たに登場させることを実現したのである。

ところが当時、すでにコミック界にはキャプテン・マーベルというヒーローが存在した。1967年、マーベル・コミックスが「キャプテン・マーベル」というヒーローを誕生させ、ちゃっかり商標登録まで済ませていたのだ(ブリー・ラーソン演じるキャプテン・マーベルはこちらのキャプテン・マーベルである)。

キャプテン・マーベル
映画『キャプテン・マーベル』より © MARVEL/PLANET PHOTOS 写真:ゼータイメージ

したがって、DCが1973年2月にキャプテン・マーベルの個人誌を刊行する際、タイトルは『シャザム!(Shazam!)』へと変更を余儀なくされた。グッズなどにもキャプテン・マーベルという名前を使えなくなったため、この頃からビリー・バットソン/キャプテン・マーベルは、「キャプテン・マーベル」ではなく「シャザム」として認知されるようになっていく(作中で「キャプテン・マーベル」という名前は変わらず使用されていた)。

ちなみに当時、DC編集長のカーマインは『シャザム!』のサブタイトルとして「オリジナル・キャプテン・マーベル(The Original Captain Marvel)」という言葉を添えることを試みた。しかしマーベル側は停止通告書をもって対応したといい、1974年12月からのサブタイトルは「世界最強の人間(The World’s Mightiest Mortal)」に変更されている。

1980年代~現在:ヒーロー名「シャザム」へ

かくしてDCコミックスへと合流したキャプテン・マーベルだが、当時のDCコミックスは複数の世界観を並行して存在させる「マルチバース」システムを採用していた。スーパーマンなどDCの著名ヒーローが「アース1」で活躍する一方、フォーセットからの合流となったキャプテン・マーベルは「アースS」の所属となっている。そうした状況の中、前述のテレビドラマ版が製作され、アニメ化もなされるなど、再び大きな人気を獲得していく。

1985年、DCコミックスに存在する複数の世界観が統合されるという大事件が起こった。大型イベント・シリーズ『クライシス・オン・インフィニット・アース』(邦訳版:ヴィレッジブックス刊)をもって、すべてのヒーローが「ニューアース」という単一の世界観に勢ぞろいしたのである。キャプテン・マーベルのオリジン(起源)も変更され、ここにきてようやく、変身前と変身後の人格が同じものとして描かれるようになった。もちろん映画『シャザム!』にもこちらの設定が採用されている。

シャザム!
©2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

そして2011年、DCコミックスの世界観はふたたび一新された。バリー・アレン/フラッシュを主人公とするイベント・シリーズ『フラッシュポイント』(邦訳版:ヴィレッジブックス刊)で「ニューアース」から新たな世界観「プライムアース(アース0)」への移行がおこなわれ、「The New 52!」と呼ばれるシリーズが始動したのである。このタイミングで、ついにビリー・バットソンのヒーローとしての名称は「シャザム」に変更された。新たに織り上げられたオリジン・ストーリーは、『シャザム!:魔法の守護者』(ShoPro Books刊)にて日本語で読むことができる(ヒーローの歴史は同書解説がさらに詳しい)。

映画『シャザム!』と『キャプテン・マーベル』

こうした歴史をもつ「ふたりのキャプテン・マーベル」が、2019年春、ほぼ同じタイミングで映画化され、劇場公開されることは、やはり両者の因縁を改めて感じさせるものだろう。映画『シャザム!』のベースになっているのは、前出の「The New 52!」版のオリジンである『シャザム!:魔法の守護者』。ざっくりと歴史を押さえたあとは、そちらもぜひご一読いただければ幸いである。

ところで、こうした関係性ゆえだろう、映画『シャザム!』と『キャプテン・マーベル』は、いわゆる「マーベル vs DC」という対立関係を強調する材料として(当事者たちの意向とは関係なく)用いられることが多かった。米国では『キャプテン・マーベル』に対して攻撃が加えられることがしばしばあったが、一部のDCファンによる同作へのヘイトがみられたことに対して、『シャザム!』主演のザッカリー・リーヴァイはブリー・ラーソンをフォローした上で、「『キャプテン・マーベル』は観ずに『シャザム!』を観る、ではなく、『シャザム!』を観たいんだと言ってほしい。どちらかを貶める必要はないんだから」コメントしている。

映画『シャザム!』は2019年4月19日(金)全国ロードショー。『シャザム!』も『キャプテン・マーベル』も、こちらも同時期公開となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』も、せっかくだから全部観てほしい…!

『シャザム!』公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/shazam-movie/

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[参考文献]ジョーンズ,ジェフ(作)・フランク,ゲイリー(画)(2015)『シャザム!:魔法の守護者』(中沢俊介・内藤真世訳)小学館集英社プロダクション

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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