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虚構から現実へ… シンゴジ実況 は時代が『宇宙戦争』から一周したことを知らせる記念すべき鐘だ

最悪の事件が起こってしまった。
既に各報道機関が大々的に伝えているように、2016年11月3日午前8時30分ごろ、東京湾羽田沖にて水蒸気爆発が発生。東京湾アクアラインは上下線で全面通行止めになった後、崩落となった。東京湾沿岸には緊急避難勧告が発令されている。

 

これらはすべて、『虚構』である。
11月3日は、映画『シンゴジラ』の劇中でゴジラが東京に現れた一連の出来事が始まった日。それに合わせ、劇中のタイムラインに合わせて、さも本当に東京湾にゴジラが現れたかのようにTwitterで実況しようという企画が、#シンゴジ実況だ。

ツイートには必ず #シンゴジ実況 のハッシュタグが付けられているわけで、一目見ればこれらが『虚構』であることは察することができる。しかし、あまりにも多くのユーザーが同時多発的に事故状況を異口同音ツイートするものだから、一見本当に事故が起こったかのように思わされてしまう。まるで、想像力をデジタライズした『シンゴジラ』という虚構が、現実の東京に片足を踏み降ろしたかのような情景を、Twitterという流れるプールから混沌と共に見上げているようだ。

フィクションの世界の脅威を、さも現実に発生した事実のように伝え、すっかり信じ切った群衆がパニックに陥る…この構図、どこかで聞き覚えがないだろうか。

1938年のパニック

「放送の途中ですが、音楽を中断してニュースをお知らせします。」

1938年10月30日の夜、ハーバード・ジョージ・ウェルズ原作のラジオドラマ『宇宙戦争』の放送が開始された。この番組は、通常の音楽番組の途中で、あたかも本当に緊急事態が発生したかのように、臨時ニュースのような形式で始まった。数分おきに「ただ今入った情報によりますと…」と小刻みに実況を繰り返してく。やがて郊外の村に巨大隕石が落下すると、どうやらそれは宇宙船で、中から大きなクモのような未知の生物が次々と出て来ていると生々しく伝える。この謎の化物の集団は今プリンストンの街に向かっており、間もなく街を襲うであろうと。
化物は熱光線を発射し、街を炎の海で変えていくという身の毛もよだつ情景を克明に実況する。全米の各家庭リビングに置かれたラジオのスピーカーからは、爆発音や人々の悲鳴、ただひたすらの恐怖を物語る音声が一様に流れていた。

もちろん、これも虚構であったわけである。放送されている内容は、ただSF小説『宇宙戦争』をニュースっぽく朗読しただけだ。これがラジオドラマであることは予め新聞の番組欄にも記載されていたし、番組冒頭でも伝えられていた。しかし、全ての人が事前情報を知っていたわけではないし、途中からラジオを付けた人だって沢山いる。

1938年、マスメディアは絶対であり、もちろんネットもTwitterもない。当時のアメリカ人らはこの凄まじく生々しい宇宙人襲来のニュースを信じ、パニックに陥った。警察には電話が殺到し、パニックでヒステリーを起こした男女15人が病院送りになり、マンハッタン島の中央公園には数千人の人々が集まって避難したそうだ。各病院からは、赤十字隊に参加するという志願の申し込みが多数あったという。この騒動で、全米で述べ120万人の人々がパニックに陥ったと言われている。

虚構から現実へ、それらはファンの手へ

それから78年、日本のTwitterユーザーの間で2016年に起こった #シンゴジ実況 はこの『宇宙戦争』パニックを思い起こさせる。SF作品内で描かれる虚構の脅威をさも現実のように取り扱い、リアルタイムでパニックを起こしていく。(#シンゴジ実況はパニックっぽく楽しんでいるだけだけど。)
このふたつの現象が決定的に異なる点といえば、それを仕掛ける人間の立場である。

『宇宙戦争』パニックは一種のマーケティングであり、演出だった。どうすればこのラジオドラマを風変わりな番組に仕上げられるかと考えた末に立案された企画だ。演出を手掛けたオーソン・ウェルズという当時24歳の青年が、かくも深刻なパニックを引き起こすことをどこまで予測していたかはわからないが、結局マーケティングという意味では大成功を収めたと言える。今で言うバズとかでは測ることのできないほどの単位で、超強力な拡散をやってのけたわけである。

一方、#シンゴジ実況はマーケティングでもなんでもない。後にソフトリリースが控えているとはいえ、劇場上映はとっくに終えている作品である。(※訂正:一部劇場で引き続き上映中との情報を頂きました。失礼致しました。)この企画の主導と拡散は無数のファンたちであり、所謂『公式』ではない。それこそが筆者が『時代が一巡した』と思わせるポイントだ。

ネット回線がライフライン化してからもう何年も経つ。テレビはともかく、ラジオ・新聞はもはや「懐かしアイテム」であり「そんな時代もあったらしいね」の象徴と化している。2ちゃんねる創始者のひろゆき氏が「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」と発言したのはもう16年前、2000年の出来事だ。虚構新聞は定番ネタとなった。ユーザーのネットリテラシーってやつも随分向上しているし、ネットのおかげでありとあらゆる事象を多面的に検証することもできる。

そんな時代において、ポップカルチャーの世界では無数のファンが作る集合知と摩擦熱が無視できないものとなってきてる。ファンたちは、上辺だけのマーケティングや話題性先行のプロモーションこそが『虚構』であると簡単に見抜くことのできる審美眼を備え、自分たちだけで作品の中に『現実』を見出そうとしている。虚構に見出した現実を共有する事でファンたちはつながっていき、集合知と摩擦熱をより高めていく。そのつながりは、薄いつながりであることも、濃いつながりであることもある。ネットでのつながりのことも、リアルでのつながりのこともある。整理できぬほど複雑につながったファンたちの想いは海中から地上へ、地を這い、核分裂を繰り返しながら急激に進化し、二本の足で立ち上がるのだ。

フィクションにリアルを見出してリアルタイムで共有する…マスメディアが全てだった『宇宙戦争』から時代は変わり、SNS時代の『シンゴジラ』は#シンゴジ実況を産んだ。というべきか、自然発生的に産まれたというべきか。

ファンたちの無限の想像力の中で、虚構のシンゴジラは118.5メートルの現実の怪物となり、今も東京を襲っている。テレビ東京は、今日も呑気に旅番組を放送しているらしい。

#シンゴジ実況 タグにてシン・ゴジラ映画内タイムラインに合わせた実況祭り開催中!

Source:http://togetter.com/li/1044116
http://ww5.tiki.ne.jp/~qyoshida/jikenbo/034kaseijin.htm
http://enigma-calender.blogspot.jp/2014/04/space-war-panic.html
http://www.siruzou.jp/utyuu/6982/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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