「SHOGUN 将軍」広松役 西岡德馬インタビュー ─ 「最後のあれは俺が作ったセリフなんだ」

「SHOGUN 将軍」第8話の出来事について言及されています。
あそこで最後に「今生のお別れにございまする」って言うのは、あれは俺が作ったセリフなんだ。
──えぇっ!そうなんですか!
うん。あれを言わせてくれって。脚本にはなかった。今生のお別れでございます。この世では、お別れにございます。でも私、先に行って、見ております、待っております、という意味を込めて、「今生のお別れにございまする」。
これを言わせてくれないか、と聞いたら、プロデューサーが「うーむ」と考えて。どういう意味だ?っていうから、「今、この世ではお別れだけど、僕は先に行って待ってます」という意味だと言ったら、「OK」って。
──そして、文太郎が「拙者も後を追いまする」と言うと、「ならん、生きるのじゃ。さすればお前も、死を許されぬ者の気持ちがわかるじゃろう」と。そこには文太郎と鞠子の物語が繋がってくる。
そうそう、よく覚えてるね(笑)。それでね、文太郎と鞠子についてね、ちょっと語っているところがあったんだけど、カットになってるんだよ。もえか(藤役)に遺骨を渡すところ(第7話)で、「この先に勝利があるのでございましょうか?」「こちらには文太郎様がおります」と(藤が)言うと、広松が「あいつも不憫なやつよな、俺はよくわかる」というセリフがあった。
広松は、文太郎と鞠子の関係をわかってるし、鞠子とブラックソーンの関係もわかっている。雨がダーッと降る中で、弓矢がバサっと刺さってる柱を見て、「あいつも不憫なものだ」と言うんだ。カットかぁ、と思ったけど、映画ってそういうことがあるんですわ。尺の問題もあったのかもしれないけどね。

鞠子の立場もわかる、文太郎のこともわかる。日本人の、腹の中はわかっているっていうシーンだった。日本人は思っても、すぐには口に出さない。これを俺が言ったら、こいつはどう思うだろう、っていうこと考えちゃうから。でも、虎永はあそこでいろんなことを考えてるんだよね、どうするかって作戦をさ。
──あの切腹シーンを見た後に、第一話の虎永と広松の会話シーンを見直すと、二人の関係性にシビレます。
虎永は、徳川家康にインスパイアされている。家康は策略家だ。関ヶ原だってさ、圧倒的に負ける予定だったよね。東軍の家康、勝てる人数じゃないのよ。俺も、原田眞人さんの『関ヶ原』(2017)もやったんだけど。小早川のあれ(寝返り)によって、グンと変わっちゃうわけじゃない。そこまで持っていくために、どれだけ裏から手を回してやってるか。知力っていうかさ。力で勝てなかったら、こっちからこう回してっていうことを、相当考えてる人だと思うよ。

──西岡さんは、第8話のあの切腹のシーンでクランクアップでしたか?
そのシーンの後にね、一日撮影があった。長門の葬式の時に、ずーっと歩きながら、藪重に鉄砲と大砲を持って石堂のところに参れと伝えるところがある(第8話前半)。ラストはそのシーンだった。終わった時に、「今日は広松が終わりです!」っていって、わぁってみんながお祝いしてくれて。「センキュー!」って言って、ちょっと演説して。へへへ。拙い英語でね。
──どんなことを話されたんですか?
僕は8ヶ月、単身赴任で来てたけど、こんな楽しい仕事はなかった。みんな、アイ・ラブって言ったよ。みんな愛してるよって。みんなすごく親切だった。小道具のおじさんなんてさ、刀をくれる時に、俺に(跪いて献上するように)こうやって渡してくれるんだよ。自分もすっかり、なりきっちゃって。「ああ、かたじけない」って感じで(笑)。なんでも、カナダの軍隊にいたんだって。で、退役してきたから、もう兵隊になっちゃってんのよ(笑)。刀を渡す時も、位が上の人に渡してると思って。「かたじけない」「ドウイタシマシテ」みたいな感じで(笑)。小道具のおじさんのおかげで、(役に)入っちゃうんだ。あれがすごく印象的だった。
──切腹の直後に広松の首が転がりますが、あれは実際に作られた?
作ったのよ。一緒に撮った写真もあるよ。それで、切腹する時に、ブワァって血が出てくるじゃない。あれ(撮影用の装填具)を作るのに五時間かかった。
石膏の中で五時間正座して、ビニールシートを敷いて。(左右に)ポールが立ってて、そこに手をかけて、テープでぐるぐる巻きにされるわけ。俺は裸、海水パンツ一丁だよ。それで、身体にベタベタとシリコンを貼っていくわけ。最初が緑色、その次が紫、その次が白。三色、種類が違うもので固めていって。何時間も正座してた。もうダメだ!って。
その次は顔だ。顔にも同じことをやって、鼻だけで息できるように。それも一時間くらい。だんだん暑くなるんだよね。熱がこもって。まあ苦しい思いをして、1日かけて、遠いところに行ってさ。5人くらいのスタッフが、急げ、急げって、ばーっとやってくれるんだけどさ。それでも五時間くらいかかったね。
日本の作品であそこまでやることは、ないね。一度、舞台の時に、ハリウッドで習ってきたっていう方とデスマスクを作ったことはあったけど、胴体までっていうのは初めて。重たいのよ。ポンプで血がブワって出てくる。終わったら血でびちゃびちゃだったよ。
──それも、切腹シーンの撮影はファーストテイクで撮り終えたとお聞きしました。
そうだね。一回失敗したら大変だから。テストでは血の代わりに水でやって、本番だけで血を使った。
──撮影時は、虎永役の真田さんも、目に涙を溜めていたそうですね。
溜まってたね。芝居をやりながら、(真田の)涙がキラっと光ってたのが分かったもん。
娘と女房から、そのシーンの広松の顔が幼くなってて、目が子供みたいになってるよって言われて。俺、そんな顔してたの?(笑)って。子供に還ったような顔してたって。気持ちがそうだと、そうなるのかなって。幼い頃から一緒だったやつが……。
あの時、広松は決して、悲しくも苦しくもなかった。切腹には、詰腹、追腹と、いろいろな理由がある。でも、悲しいとか、犠牲になって、僕が責任取りますっていうのじゃないから、あの切腹は。
三島由紀夫の『豊饒の海』という作品の第二巻の、『奔馬』の最後に、本多っていう主人公が切腹するんだよ。その時に、“日輪は瞼の裏に赫奕と昇った”っていうんだよ。斬ったことによって、自分はウワァァァっと昇華するわけだ。それによって恍惚としていくわけだ。僕はもう、こうやって(虎永を)見ながら、「あなたのために……!」というのが、グワァっと。アドレナリンが出ちゃうような。
そして逝った時に、一体となれる。そういうイメージが僕の中にはあった。だから、これは決して悲しいわけではない。二人で昇華していくんだって。
俺の瞼の裏に、日輪は赫奕と昇るか?あのシーンでは、そういうことをね。
あの日の朝。ヒロが、「德馬さん、とうとうこの日が来てしまいましたね」って、トレーラーから出て、歩きながらそう言われた時は、俺と真田の別れみたいだった。虎永と広松がダブってさ。武士道をしっかりやりましょう。二人で、お互いに。武士道をやりに来たから、いざお見せしましょう。広松役が俺で本当に良かったって、彼が言ってくれたから、すごい嬉しかったね。

「SHOGUN 将軍」はディズニープラス「スター」にて独占配信中。
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