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【ネタバレ】『スパイダーマン:スパイダーバース』ポストクレジットシーン&カメオ出演者解説

スパイダーマン:スパイダーバース
(c) 2018 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: (c) & TM 2019 MARVEL.

第91回アカデミー賞など数々の映画賞に輝き、「スパイダーマン映画最高傑作」と評される『スパイダーマン:スパイダーバース』。この作品も現代のヒーロー映画の例に漏れず、エンドクレジット後の“お楽しみ”が用意されている。本記事ではポストクレジットシーンとともに、日本語字幕版に登場するカメオ出演者もあわせて解説していくことにしよう。

この記事には、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のネタバレが含まれています。

スパイダーマン:スパイダーバース

おそるべき情報量、ラスト/エンディングを紐解く

キングピンの企みによって時空が歪み、あらゆる次元から複数のスパイダーマンたちが集まってくる……。コミック『スパイダーバース』(ヴィレッジブックス刊)を原案としながら、ともすれば難解になりかねないストーリーを巧みに整理して描ききった本作には、数えきれないほどのイースターエッグ(小ネタ)が詰まっていた。

そして映画を締めくくるポストクレジットシーンは、いわば“イースターエッグそのもの”というべきユーモラスなシーンでありながら、同時に『スパイダーバース』の今後を占う重要な意味合いも含まれている。ここでは、要素のひとつひとつを確かめていくことにしよう。

ミゲル・オハラ/スパイダーマン 2099

エンドクレジットが終わると、「そのころヌエバ・ヨークでは…」という吹き出しが現れ、暗い部屋に立つホログラムの女性が登場する。同じくホログラムに映し出されるのは、マイルス・モラレスやピーター・パーカー、スパイダーグウェンら6人のスパイダーマンの活躍の様子。「マルチバースは崩壊しなかった」との報告に喜ぶ声の主は、ミゲル・オハラ/スパイダーマン2099だ。

1992年にコミックに初登場したミゲル・オハラは、「アース928」なる次元に生きており、2099年のヌエバ・ヨーク(ニューヨーク)で遺伝学者として活動している。1999年のスパイダーマンの能力を再現する遺伝子実験に従事していたミゲルは、ある出来事をきっかけとして、自分の遺伝子の半分をクモの遺伝子によって上書きすることになってしまった。メキシコ系アメリカ人であるミゲルは、コミック初の「ラテン系スパイダーマン」。マイルスをはじめ多様なスパイダーマンが活躍した『スパイダーマン:スパイダーバース』のラストを飾るにふさわしいキャラクターなのだ。

ともあれ、『スパイダーマン:スパイダーバース』でミゲル/スパイダーマン2099にどんな設定が与えられていたのかはわからない。ホログラム越しにマルチバースの様子を監視しているようでもあるミゲルは、いったい何のためにマルチバースに関与しているのか。時計のような形をしたグーバー(ギズモ)を装着して、ホログラムのアシスタントによれば、ミゲルは「狙った次元へ跳ぶ初めての人間になる」。もっとも、彼は「最後かもしれない」のだが……。

「アース67」パロディ、有名ネットミームが背景

ミゲル/スパイダーマン2099がジャンプする先として選んだ次元は「アース67」。1967~1970年に米国で放送されたテレビアニメ版「スパイダーマン」の世界だ。ここでミゲルはスパイダーマンとさっそく遭遇。「スパイダーマンだ、一緒に来てくれないか」と頼むも、アース67のスパイダーマンに「指差すな」と怒られ、「そっちが先に指を差したんだ!」と言い合いになる。警官とJ・ジョナ・ジェイムソンも登場するが、二人はどっちが先に指を差しただの、いや差していないだのと揉めつづけ、そのまま映画は幕を閉じるのだった。

この場面は、1968年1月に放送された「スパイダーマン」シーズン1の第19話Bパート「Double Identity」のパロディとなっている。もっといえば、ポストクレジットシーンの冒頭に映し出される「スパイダーマン」のタイトル、および映画のラストショットとなる「THE END」は同作からそのまま引用されたものだ。

“スパイダーマン同士で指を差し合う”という場面は、実際のアニメを見たことがなくとも、もしかすると見覚えがあるかもしれない。なにせ海外では、主に「目くそ鼻くそを笑う」状況を揶揄するネットミームとして広く知られているかからだ。ネットミームの紹介サイト「Know Your Meme」によれば、このミームは2012年ごろにSNSにて登場したとのこと。『スパイダーマン:スパイダーバース』でこの場面がパロディとなったことには、こうしたネットミームの状況が背景にあったようである。なにせ脚本には、アース67のスパイダーマンを指す役名として「ミーム・スパイダーマン(MEME SPIDER-MAN)」と書かれているのだ。

オスカー・アイザック

このポストクレジットシーンでミゲル・オハラ/スパイダーマン2099を演じたのは、『スター・ウォーズ』新3部作のポー・ダメロン役などで知られるオスカー・アイザック。エンドクレジットには「Interesting Person #1」だけ表記されている。そう、『スパイダーマン:スパイダーバース』の“最後のサプライズ”がオスカーのカメオ出演なのだ。

グアテマラ人の母親、キューバ人の父親をもつオスカーは、初のラテン系スパイダーマンであるミゲルを演じるにふさわしい配役。マーベル・コミックの映像化作品としては、『X-MEN: アポカリプス』(2016)でのアポカリプス以来、奇しくも再び素顔が見えない形での登場となった。

オスカー・アイザック
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/19492056478

フィル・ロード&クリス・ミラーが語る舞台裏

スパイダーマン2099、1967年版アニメ、ネットミーム、そしてオスカー・アイザック。短いシーンにもかかわらず情報量が多すぎるポストクレジットシーンはいかにして生まれたのだろうか。ピーター・ラムジー監督によれば、このシーンは製作の最終段階で付け加えられたものだという。

製作総指揮を務めたフィル・ロードは、スパイダーマン2099について「とてもクールなキャラクターなので登場させたかった」と米Cinema Blendにて語った。「マイルスの物語には出せるところがなかったんですが、世界をさらに押し広げるため登場させたんです」。同じく製作総指揮のクリス・ミラーは、米/Filmのインタビューで、1967年版アニメ&ネットミームを扱うことは必然だったと述べている。

クリス:(ミームのパロディは)ほとんど義務のように思っていましたね。あのミームには、この映画の何たるかが詰まっていますから。(本編中には)たくさんチャンスがありましたが、この場面がベストだと思いました。それに2099はすごくクールなので…

フィル:彼が登場できる最悪のシチュエーションはなんだろうって(笑)。彼はいつでもプロフェッショナルで、肝の据わったところがあります。そしてマルチバースには、まったく違う2人をぶつけられる可能性がある。ロバート・デ・ニーロとチャールズ・グローディンの映画(1988年『ミッドナイト・ラン』)みたいにしたかったんです。2099と1967の『ミッドナイト・ラン』、完璧でしょう(笑)。

クリス:もちろん、今後ありうる可能性を示唆したいと思ったんですよ。この世界をさらに開いていけたら幸せですね。

フィル・ロード&クリス・ミラー
フィル・ロード&クリス・ミラー (Photo by Cindy Ord/Getty Images for Sony Pictures)

ちなみにオスカー・アイザックがスパイダーマン2099を演じることが決まったのは、フィルが直接電話でオファーしたからだったとか。ヨルダンにいるオスカーにロサンゼルスからフィルが電話をかけ、製作チームの構想を説明したのだという。

フィル:オスカーはとても丁寧でしたね。セリフを書いて、送りましたよ。それから収録があったんですが、そこでは“じゃあオスカー、ロドニー(・ロスマン監督)と言い合いをしてください。で、ロドニーはできるだけオスカーをイラつかせて”と。(本編で)67年を演じたのはヨーマ・タコンヌ、グリーン・ゴブリンの声もやってくれました。

もうひとりのカメオ出演者、クリス・パイン

『スパイダーマン:スパイダーバース』でもうひとつのサプライズ出演となったのが、映画冒頭でキングピンによって命を奪われてしまうピーター・パーカー/スパイダーマン役のクリス・パインだ。『スター・トレック』映画版シリーズや『ワンダーウーマン』(2017)などでポップカルチャーファンによく知られるクリスだが、思わぬ形で世界的人気ヒーローを演じることになった。出番こそ決して多くないが、主人公マイルス・モラレスにバトンを渡す重要な役割を務めあげた。ちなみにクリス演じるピーターは、その死を惜しんで、スタッフの間で「RIPeter(リピーター)」とも呼ばれていたとか……。

クリス・パイン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/43043463084/

フィル&クリスは、オスカー・アイザックとクリス・パインというスター俳優の起用についてこのように語っている。

フィル:僕たち、本当に賢かったと思うんですよ。つまり、有名な人たちが――

クリス:超有名な映画スターが出てるってことを宣伝しない(笑)。

フィル:まさにそう(笑)。小さい、宣伝しようのない役柄で出てもらって、そのことも秘密にしておく。お二人もそうしてくれました。

クリス:でも本当に楽しかったですよ。二人とも素晴らしい俳優で、とっても愉快だったし、全力を尽くしてくださいました。電話で済ませるようなことではなくてね。クリスはすごく楽しい人で、理想的なピーター・パーカーを演じてくれただけでなく、一番最後になって“クリスマス・アルバムで歌ってもらえませんか? 頑張れません?”っていうのにも応えてくれました(笑)。

そう、エンドクレジットで突如始まり、観客を困惑させるクリスマスソングはクリス・パインによる歌唱なのである。フルバージョンは劇場で聴くよりもさらに濃い口なので、こちらもぜひご一聴を…!

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は2019年3月8日(金)より全国公開中

『スパイダーマン:スパイダーバース』公式サイト:http://www.spider-verse.jp/

Sources: CB, /Film, 『アート・オブ・スパイダーマン:スパイダーバース』

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。