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谷垣健治が語る『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』アクションの作り方【インタビュー】

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ オフショット

大ヒットアクション映画シリーズ最新作にして、人気キャラクター誕生の秘密をついに明かす『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』が、2021年10月22日より日本公開となる。日本が主な舞台となる作品で、撮影でもハリウッド映画としては初めて内閣府の承認を得ながら国内ロケが敢行された注目作だ。

見どころは、『るろうに剣心』シリーズで怒涛のアクションを監督した谷垣健治が手掛ける、刀、拳、マシンガン、バイクなんでもありのハイパー忍者アクションの数々。谷垣健治といえば、ジャッキー・チェンに憧れてアクションを志し、単身香港に渡って努力を重ね、今ではあのドニー・イェンが絶大な信頼を寄せるアクション監督だ。

アジアにおいては『るろうに剣心』での仕事が大きく注目を集め、本作『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』では満を持ししてのハリウッド映画デビューとなった。この作品の日本公開に先駆け、同作アクション監督/セカンドユニットディレクターの谷垣氏がTHE RIVERの単独インタビューに登場。本作の撮影舞台裏やアクションにかける想い、さらに貴重なエピソードまでを語ってくれた。谷垣氏より頂いたオフショット写真も、記事に交えて掲載する。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ
©2021 Paramount Pictures. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. © 2021 Hasbro. All Rights Reserved.

『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』アクション監督/セカンドユニットディレクター 谷垣健治 インタビュー

──今日は宜しくお願いします。突然ですが、谷垣さんは高校生の頃、部活動で少林寺拳法をやっていたそうですね。実は僕も、かつて少林寺拳法を学んでいました。少林寺には実技のほかに座学の勉強もあって、大人になってから役に立つ学びがたくさんあったように思います。

「己こそ己の寄る辺」ってやつですよね。それから、「力なき正義は無力である。正義なき力は暴力である」なんて言葉も教わりましたよね。

※練習時に必ず唱える「教典」の冒頭一部。

──そう、そうです(笑)。ところで谷垣さん、少林寺拳法にはいわゆる「試合」がなく、技の美しさや完成度を披露する「演武」の大会がありますね。ここには、勝負事を重視せず、あくまで自己鍛錬を目的とする少林寺の精神が反映されているわけです。僕は、もしかしたら谷垣さんがアクション演出の道に進まれたのは、こうした少林寺の要素が原点にあったのではないかと推理しているのですが。

実は順番が逆でして、将来アクションの世界に入りたかったから少林寺拳法を始めたということなんです。アクションの世界といっても、当時はスタントマンになりたいという発想まではなかったんですけど、アクション映画に出て見たいという思いはあった。少林寺拳法には、演武がある。空手にも分解型というのがありますけど。技の完成度を見る演武で競うというのは、将来役に立つのではないかと思って始めたんです。順序でいうと、アクションがやりたいという思いが先でした。

今でも、現代的なアクション演出を考える時、少林寺拳法の経験が役に立っています。柔法の関節技って、今っぽい要素ですよね。

──2020年の年始、本作の記者会見があって、谷垣さんをはじめ、来日中の監督やキャストのみなさんが揃って登壇されました。当時は、まさかこの作品が完成する頃にコロナ禍になるなんて、思いもしませんでしたよね。

『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』製作発表会見
2020年1月、都内で行われた会見にて。

僕らはギリギリでしたよ。2月の末まで撮影して、みんな帰国してね。その記者会見は、ちょうどクランクインの間近で、僕らは東宝のスタジオでトレーニングをしていて、その流れで午前中に会見が組まれたんです。

──幸いにも、本作ではパンデミックの本格的な影響はなかったのですね。

本撮影中にはなかったですが、パンデミックのせいでその後ロサンゼルスで行われた追加撮影に僕は参加できなかったんですよ。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ オフショット

アクション指導は「カウンセラー」だ

──本作のキャストは、ハードマスター役のイコ・ウワイスを除いて、キャスト陣がいわゆる“アクション俳優”ではないですよね。本編では、あらゆるキャラクターがバチバチのアクションを見事に披露していますが、指導はいかがでしたか?

役者として優れている方は、表現力が半端じゃないのでアクションも上手く魅せてくれるものです。みんなにそれぞれの魅力があるので、それをどう生かすか、どう引き出すか、ということでしたね。

フィジカルでいうと、アンドリュー・小路(ストームシャドー役)は言うまでもなく優れてますし、ヘンリー・ゴールディング(スネークアイズ役)のアクションはチャーミングで、華があります。平さん(平岳大、鷹村役)は、(周囲より)年齢も10くらい上だし、大変だったと思うんだけれども、彼にしか出せない佇まいがあって、ロベルト(監督)もそれをすごく気に入ってた。みんなが同じアクションをやるのではなくて、それぞれ違うものになるように意識しています。

ハードマスター役のイコ・ウワイスは刀の練習もしていたんですけど、ロベルトが「イコは素手で見せたい!」ということで。イコも刀、アンドリューも刀、ヘンリーも刀になってしまうと、みんな同じになっちゃうじゃないですか。それぞれの持ち味を分けることが出来たのが良かったと思います。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ
©2021 Paramount Pictures. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. © 2021 Hasbro. All Rights Reserved.

──個人的には、ストームシャドーの二刀流の構えがめちゃくちゃカッコよくて大好きです。優れたアクションにはストーリーや感情が反映されるものだと思いますが、どのように盛り込んでいるのですか?

僕は、最初の段階はあえて盛り込まないようにしていますね。単純に、この人はどんなアクションをしたら映えるのか?という、アクションとしての面白さを最初に考えます。なかなか難しいところなんですれど、最初からキャラクター性やドラマ性を考えてしまうと、結構アタマでっかちになることが多いんですね。もっと単純で、原始的な肉体の歓びから始めたほうが良いと思っていて。そこへの理屈付けは、後からいくらでもできる。そこから色々なことを取捨選択してストーリーを繋げて、キャラクターを作っていく方が良いと思っています。

「アクション練習」とは言いますが、役者さんが一堂に集まって同じように素振りするということではなくて、アクションチームが一人ひとりと向き合って集中的に練習するんです。その中で一緒にキャラクターを作り上げていくと言った方が良いかもしれない。『るろうに剣心』で大友啓史監督も言っていたのですが、僕たちはアクションを教えるトレーナーではありつつも、カウンセラーに近いんですよ。

そのキャラクターをオリジナルなものにする時に、「答え」はないですから。そのキャラクターに近づけるために、今日はこういう練習をやりました、次回はこういう練習をやりましょう、というように、僕らがアクションのメニュー、つまり処方箋を書くということです。アクションの面から、一緒にキャラクターを作る。お芝居の面では、ロベルト監督が毎朝3時間くらいかけて役者たちと(打ち合わせを)やっていました。そうやってキャラクターが出来上がっていくんです。最初からこのキャラクターはこうあるべき、こういうアクションをするべきとアタマでっかちに考えると、理屈で作ったものにしかならないんです。理屈で作ったものって、撮っていくうちに腐っていく。だから、もっとライブ感があるものを作ろうとしているんです。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ
©2021 Paramount Pictures. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. © 2021 Hasbro. All Rights Reserved.

──役者ひとりひとりの持ち味を引き出すことが大切なのですね。

その人にないものは演じられないと思うんですよね。もちろん役者は色々な人生を生きると思うんですけれども、その人にとって本質的ではないものって、なかなか出せないと思います。アメリカではスクリーンテストを重視しますよね。芝居はみんな出来て当たり前だとして、その役者自身の個性と役柄がマッチしているかどうかを見るためにスクリーンテストを行っている。ない要素を無理やり作るよりその人にある要素を広げた方がいいに決まってる。役者たちは、10年かけて練習するわけではなくて、3ヶ月くらいやったらそのまま撮影に突入しないといけない。その中で役者の個性を引き出し、良さを活かしたアクションを作るということをいつも考えています。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ
©2021 Paramount Pictures. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. © 2021 Hasbro. All Rights Reserved.

──そんなキャスト陣の中でも、ハードマスター役のイコ・ウワイスは、シラットなどアクションの達人です。谷垣さんの持つアクションの持ち味と、イコ・ウワイスのアクションの融合はいかがでしたか?

イコは、もちろんプロ中のプロ。アクションという、僕らと同じ言語を持っているんですね。同じ種類の人間というか。すごくやりやすかったですね。

他の役者さんの場合は、やっていくうちにその人の良さを発見していくものですが、イコとはジャズのセッションに近い。ちょっとした調整が効くんですよね。イコ自身もアクション監督やプロデュースをやっているので、基本は全部自分でやれてしまうのですが、それでも一度僕らに身を委ねてくれた。イコの良さはイコが一番よく分かっているから、「とりあえず、これをやってみて」と僕らが作ってみたものを渡してみる。それをイコが「ちょっとここだけ変えていい?」と。もう、どうぞどうぞと。僕らはイコのアクションが大好きなので、やりやすいように変えてくれと。

ちなみにイコはインドネシアの人なので、姫路城での深夜の撮影は、むっちゃ寒がってました(笑)。僕らでも寒かったし、しかもお城の上だったから。だから彼の撮影は集中的に一気にやりましたよ。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ オフショット

──ヴィランとして登場する鷹村役の平岳大さんの存在感が素晴らしかったです。ドラマ「Giri / Haji」での演技も良かったですが、本作では渡辺謙さんのような役者さんが演じることが多いタイプのキャラクターに挑戦されていますよね。素晴らしいアクションも披露されています。

ものすごくフィジカルに動き回る役ではないですけど、醸し出す雰囲気がすでに強そうですよね。ガンガン動かなくても、止まっていても怖そうに見えるんですよね。そこが彼のいいところです。アクションを通じて、存在感に凄みを出せたら良いと思っているんですが、平さんは「ぬぅっ」と立っているだけで強そうじゃないですか。他の役者では、あの空気感は出せませんから、彼の個性だなぁと思いましたね。

確かに、まさに渡辺謙さんのようなラインの方ですね。平さんは、日本人の俳優がすごく頑張って向こう(ハリウッド)に溶け込んでいる、すごく頑張って英語を話している、という感じでは全くなかった。佇まいとして、自然に現場にいる感じだったんです。僕らだったら、ものすごく頑張って英語でやりとりする、という感じになってしまうけれども、彼は息をするように英語を喋っているような感じでした。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ
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あの大作との接点

──本作は刀を使ったアクションが多いですが、『るろうに剣心』でのご経験が活きた部分は?

『るろ剣』では色々なことを試せたので、そのまま応用できることがすごく多かったです。今作の面白いところは、時代劇じゃないところ。刀を使いながらも、マシンガンも使う。刀だけの作品もたくさんあるし、カーアクションだけの作品もいろいろある中で、(刀やガンアクション、カーアクションといった様々な要素を)同時進行で魅せられる。走るクルマの上で刀アクションやガンファイトが出来るというのが、『G.I.ジョー』らしいなと。『るろ剣』の応用でありながらも、また違ったことに挑戦できました。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ オフショット

──谷垣さんのアクションチームは日本から参加されたのですか?

日本からカナダパートに参加したのは3人だけでしたね。本当は、もっと連れて行きたかったんですけど。あとはカナダのスタントチームでした。彼らもとても優秀でしたよ。日本での撮影の時は日本人スタントマンがほとんどです。

──うまく進みましたか?

そうですね。僕がどんな感じのアクションをやりたいかというのは、基本的にはみなさんわかっていただいていますので、すごくやりやすかったです。プロデューサーも、『ジョン・ウィック:チャプター2』や『ジョン・ウィック:パラベラム』をやっていた方なんです。ジェフ・ワックスマンという。

彼は『ジョン・ウィック』のチャド・スタエルスキ監督とも親しいので、チャドがいろいろ助言してくれたみたいですよ。セカンドユニット監督にジェームズ・マディガンという方がいて、当初ジェームズがカーアクションのシーンを監督していたんですが、その中でのファイトシーンについては、チャドが「ケンジにやらせればいいじゃないか」と助言してくれて、それがきっかけで僕がセカンドユニットに入ったんです。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ オフショット

──『G.I.ジョー』を皮切りに、今後ハリウッド作品にもっと携わっていくお考えは?

興味はあります。前までは、全然興味なかったんですけど。DGA、アメリカの映画監督協会にも入ったんで、仕事をやりやすい環境にはなりました。

なぜ興味が湧いてきたかというと、海外で色々な人の仕事を見る中で、「これならオレの方がもっとできる」と思ってしまったというか(笑)。とても生意気に聞こえるでしょうが。今は中国で(仕事を)やっていて、来月から香港でもう一本やって、その後にインドでもう一本やるんですけど。今は、呼ばれればどこでも行きたいという気持ち。その中で、アメリカは見てみたいなという感覚ですね。実は、僕はアメリカで撮ったことがないんですよ。アメリカ映画は何本かやったけど、(撮影地が)イギリスとか、タイとか、バンクーバーとか、プラハだとか。だから、アメリカでの撮影というかシステムがどういうものなのか、興味がありますね。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ オフショット

──最近ではマーベルの『シャン・チー/テン・リングスの伝説』という作品で、ジャッキー・チェン作品などに影響されたカンフー・アクションが盛り込まれていると話題になりました。ファンとしては、谷垣さんが手掛けるハリウッド大作のアクションをもっと見てみたいという願望があります。

『シャン・チー』はまだ観ていないんですが、2019年の5月くらいの時点で、マーベルから話は来ていたんですよ。でも、それはアクション監督のAvailable List(候補者リスト)の中から、スケジュールを聞きたいというだけのものでしたけど。その時点ですでに『漆黒のスネークアイズ』や、他の中国映画の予定も決まっていたので、ちょっと難しいという回答をして、そこから連絡はないです。そういう意味では、(ハリウッド映画を)やれる機会は、これからもあると思います。

『シャン・チー』のアクション監督はブラッド・アランがやっていますよね。ブラッドはもちろんジャッキー・チームの一員ですし、僕よりもカンフーにずっと詳しい。彼に決まってすごく良かったと思います。僕が『漆黒のスネークアイズ』(の撮影)に行く直前に、ブラッドと中国の「ジャッキー・チェン国際アクション映画ウィーク」というところで一緒になって、「『スネークアイズ』やるんだって?」「『シャン・チー』やるんだよね?」なんて話をしていて。『シャン・チー』の撮影中も、彼から連絡が来て「テコンドーをやれる日本人スタントマンを紹介してくれよ」なんて頼まれもしていて。そこで世間話をしたのが、彼との最後の会話になりました。彼は8月7日に急に亡くなったので、『シャン・チー』が彼の遺作になったんですよね。

いずれにしても、今後もフットワークを軽くして、世界のどこかでアクション映画を作り続けていきたいですね。

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ
©2021 Paramount Pictures. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. © 2021 Hasbro. All Rights Reserved.

『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』は、2021年10月22日より日本公開。

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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