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スター・ウォーズ映画『ハン・ソロ』興行不調、原因の分析進む ― 公開時期、マーベルとの比較、『最後のジェダイ』論争

ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー
© 2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が、米国公開を迎えて最初の週末を終えた。
祝日にあたる「メモリアルデー」(5月の最終月曜日)を含む、本作の米国でのオープニング興行収入(4日間)は1億300万ドルとなる見込み。巨大市場である中国でも苦戦を強いられ、海外では6,500万ドルの興収にとどまった。合計金額は1億6,800万ドル(推定)で、ディズニー製作の「スター・ウォーズ」史上最も低調な滑り出しとなったのである。

2018年5月18日(現地時間)に米国で公開された『デッドプール2』は3日間で世界興収3億100万ドルを稼ぎ出したが、『ハン・ソロ』は4日をかけてその約56%という成績に落ち着いた。『ハン・ソロ』と『デッドプール2』は公開国数などでほぼ同じ条件下にあり、今後『ハン・ソロ』の劇場公開を控えている国はクロアチアと日本のみ。『デッドプール2』も香港と日本での公開を残すのみだ。

揺るぎないはずの「スター・ウォーズ」ブランドでこんなことが起こるとは、おそらく多くの映画ファンは想像だにしていなかったことだろう。THE RIVERでは米国メディアや専門家の分析をご紹介するとともに、不調の原因を模索することとしたい。

『ハン・ソロ』不調の原因、米国で分析進む

米ウォルト・ディズニーにおいて映画配給部門の責任者を務めるデイヴ・ホリス氏は、米Deadlineにて、スタジオが『ハン・ソロ』に寄せていた期待が大きすぎたことを認めた。また米The Hollywood Reporter誌では、2019年12月に米国公開される『エピソード9(仮題)』に向けて原因を探っていくことを明かしつつ、直前に公開された『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)や『デッドプール2』の影響を否定できないことを示唆している。

「頻繁に生じる疑問があるわけです。人々はどれくらい映画を観に出かけるのかって。5週間に3回というのは多すぎる、間隔が短すぎるのでしょうか?」

デイヴ氏は『ハン・ソロ』について、2018年6月22日に米国公開を迎える『ジュラシック・ワールド/炎の王国』までは好調な成績を示せるだろうとみている。6月8日には話題作『オーシャンズ8』が、6月15日にはディズニー&ピクサー作品『インクレディブル・ファミリー』が封切られるのだが、それらは『ハン・ソロ』の競争相手にはならないということか……?

すでに海外のファンの間では、『ハン・ソロ』の不調について複数の要因が推測されている。そもそも宣伝に問題があった、賛否両論を生んだ『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)の影響があった、ファンが求めていた映画ではなかった、観客の間で「スター・ウォーズ」疲れが生じている……。あえて言えば、これらすべてが真実だというべきだろう

スター・ウォーズとマーベル、刷新か保守か

『ハン・ソロ』初動成績の不調について、専門家は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)以来3年間続けられてきた「12月公開」のルールを自ら破ったことにまず着目している。米Colliderのスティーブン・ワインストローブ氏は、もしも『ハン・ソロ』が12月に公開されていれば、もっと多くの興収を得られただろうと推測。「スター・ウォーズは人気のシリーズだが、3ヶ月ごとに新作を公開して大儲けできるマーベルとは違うのだ」と厳しく断じた

この“マーベルとは違う”という言葉に隠されているものを、興行収入のアナリストであるジェフ・ボック氏は異なる切り口から解きほぐす。おなじみのキャラクターやガジェットなどが求められる「スター・ウォーズ」に対して、マーベル・シネマティック・ユニバースでは作品ごとに異なるキャラクターが次々に投入される。映画ごとに作風やビジュアル面の特徴が大きく異なることも「スター・ウォーズ」にはない点だといえるだろう。
ジェフ氏は、こうしたマーベルのモデルこそ「スター・ウォーズにも役立てられるもの」だと指摘。今後も映画を製作していく場合、もはやルーカスフィルムは創作面から手を引くべきだとすら主張する。

確かに『最後のジェダイ』からわずか約5ヶ月という間隔で『ハン・ソロ』は公開されたが、同じ「スター・ウォーズ」でもビジュアルやキャラクターが大きく異なれば観客の印象は大きく違っただろう。アナリストのポール・ダーガラベディアン氏は、ファン以外の観客が「スター・ウォーズ疲れ」を起こしている可能性を示唆した。

「アンソロジー作品(『ローグ・ワン』『ハン・ソロ』)は、スター・ウォーズのルールをわずかに変更する絶好の機会だったんです。すべての映画が同じように見えていて、作品が成功していないとしたら、もはやすべてが古くなったんだと言わざるをえません。個性のない大量生産品だと捉えられているんでしょう。」

ただしルーカスフィルムは、そうした事態に陥ることに、いち早く危機感を抱いていたにちがいない。だからこそ意識的に、シリーズを刷新するような方向性を打ち出したのだ。それが人気のキャラクターや設定に大胆な新解釈を施し、挑戦的な(挑発的とすらいっていい)姿勢を示した『最後のジェダイ』である。しかし同作は、批評家や新たな観客層からは支持を集めながらもシリーズのファンからは厳しい批判にさらされた。いうなれば、シリーズの「おなじみ」や「お約束」をかなぐり捨てることが許されないジレンマを浮き彫りにしたのである。

さらに事態を複雑にするのは、そうしたファンの目線がルーカスフィルムの内部にも――ともすればキャスリーン・ケネディ社長の中にも――共存していることだ。『最後のジェダイ』を世に放ち、ライアン・ジョンソン監督に次なる3部作を委ねた一方で、『ハン・ソロ』ではエッジの効いた作風で知られるフィル・ロード&クリス・ミラー監督を起用し、本撮影の後半になって降板させ、後任者には職人的技術を持つ名匠ロン・ハワードを起用した。結果として『ハン・ソロ』は原点回帰ともいうべき仕上がりになったといわれている。

しかしながら、こうした一貫性のない動きこそルーカスフィルムの苦境を示しているとはいえないだろうか。おなじみの路線で進めば「スター・ウォーズ疲れ」、刷新を企てればファンからの厳しい反応……もしも本当にそうした状況にあるとすれば、事態はかなり深刻だ。
二人の専門家は、「スター・ウォーズ」とは絶対に失敗できないシリーズだと口を揃える。ジェフ氏は「良くない作品が生まれれば観客は次回作のチケットを購入することをためらう」、ポール氏は「これほど成功したシリーズの場合、どんな失敗でも大ごとになってしまう」と語るのだ。しかもシリーズを最も厳しい目線で見つめているのは熱狂的なファンたちである。大勢の観客にはささいなことでも、ファンにとっては極めて重要な問題なのだとジェフ氏は述べた。「スター・ウォーズの熱狂的ファンにとっては、どんな変化もフォースの乱れに繋がりかねません。ファンが期待している“標準”のハードルは高いんです。」

このように角度を変えながら見ていくと、『ハン・ソロ』の不調は極めて複雑な問題であることがわかってくる。そもそも話題作の続いた時期に劇場公開を迎えたこと、『最後のジェダイ』から約5ヶ月しか間隔がなかったこと、同作が巻き起こした賛否両論の渦、そもそも「スター・ウォーズ」なるものに対する一般層のリアクション、熱心なファンが寄せる大きな期待、刷新と保守の間で揺れるルーカスフィルムの姿勢、監督交代劇によって生じた不安など……。そこには『ハン・ソロ』特有の原因もあれば、シリーズが今後も抱えていく問題も横たわっている。たとえば「シリーズの寿命」などといって割り切れるものではないだろう。

ルーカスフィルムは時間をかけて『ハン・ソロ』の初動成績について分析を行うというが、こうした問題を『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』までにどこまで解決する、あるいは開き直ることができるのだろうか。ライアン・ジョンソン監督による3部作や、『ゲーム・オブ・スローンズ』チームによる新シリーズも大きな契機となるだろうが、その頃には「スター・ウォーズ」をめぐる状況も変化しているかもしれない。やはり現在、「スター・ウォーズ」シリーズはかつてない試練を迎えているのである。

映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は2018年6月29日より全国ロードショー

『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』公式サイト:https://starwars.disney.co.jp/movie/hansolo.html

Sources: Box Office Mojo, Variety(1, 2), THR, Comicbook.com
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Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。