『想影』レビュー 高杉真宙の圧倒的な魅力と、瑞々しく描き出される片想い【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】
加藤 慶吾監督作品『想影』は、初恋の切なさを描いた短編映画作品だ。中学生という微妙な年齢、頭の中が彼でいっぱいになってしまう甘酸っぱい片想い、伝えられなかった思いへの決着、という一連の細やかな心の機微を描き出す。
『想影』あらすじ
中学生の中村由美は片想いをしていた。相手は、アーミーナイフで果物をむくのが上手な栄大輔だ。由美は栄のことを一途に想っていたが、ふたりは仲の良い友人の域を出ることはなかった。10年ほどの年月が経ったころ、由美は栄が結婚することを知る。由美の心には、栄への想いが次から次へと蘇り、溢れ出してくる。そして、由美は栄に会うことを決めるのだが……。
鮮やかな演出力と、高杉真宙の吸引力
『想影』は、そんな思春期ならではの恋心があまりにも鮮やかに描かれている作品だ。自意識過剰だったあの頃を思い出して、思わず赤面してしまうほどの瑞々しさが画面全体から迸っている。誰がどう見ても好きなことはバレバレなのに、周囲には気づかれていないと思っている由美。ここまであからさまなのに、なぜか由美の想いに気づいていなさそうな栄。大人になってしまった今となっては微笑ましいティーンエイジャー独特のあの鈍感さに、無性に切なくなってしまう。
10年後の栄は細田善彦が演じている。「この10年でいったい何があったんだ」と思わせるほど精悍に成長した栄に少し戸惑ったが、つかみどころのなさが薄まって、大人の男の質量を感じさせる細田善彦の眼差しは、栄の成長と“あのときは分からなかった想い“を表現していた。その後に続く由美の逡巡と決心は爽やかで、感動的だ。少女の由美を演じた松原菜野花の全身から発せられる恋心と、成長した由美を演じた三瓶美菜の強さもまた、ひとりの女性の成長をしっかりと感じさせてくれる。
これからリンゴやナシを食べるために、もしかしたら私は『想影』のことを思い出すのかもしれない。忘れかけていた深い記憶をそっと呼び覚ましてくれるような、心の深部にそっと流れ込んでくるような作品だった。
『想影』 (C)omokage