Menu
(0)

Search

【インタビュー】『スパークス・ブラザーズ』エドガー・ライト監督、スパークスに今こそ聞きたいことは? ─『舞』映画化、ドキュメンタリー製作の裏話も明かす

スパークス・ブラザーズ
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

『ベイビー・ドライバー』(2017)『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)などで知られる鬼才監督、エドガー・ライト。2022年4月8日より公開中の最新作『スパークス・ブラザーズ』は、監督初となる音楽ドキュメンタリーだ。

本作は米国出身の兄弟バンド、スパークスをとらえたドキュメンタリー。彼らの音楽的ルーツまでさかのぼり、50年に及ぶ謎に包まれた歴史が紐解かれていく。これまでに25枚ものアルバムをリリースし、その発表楽曲数は345にものぼるなど、いまなお精力的に活動を続けているスパークス。しかし、自分たちの独特な音楽を貫き続けることで、世間に受け入れられない時期も長くあった。そんな音楽界の異端児の過去・現在・未来が、メンバーのロン・メイル&ラッセル・メイルや、世界的アーティストたちへのインタビュー、さらにアーカイブ映像などで初めて明らかになる。

この度、THE RIVERはエドガー・ライト監督に取材する機会に恵まれた。ZOOMでの取材では、スパークスからサインしてもらったというアルバムをみせてくれたり、監督としてだけでなく、ひとりのファンとしてスパークスの魅力や秘話だったりを熱量満載で語ってくれている。

エドガー・ライトにとってのスパークスとは

スパークス・ブラザーズ
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──『ラストナイト・イン・ソーホー』のインタビューに続き、この度は貴重な機会をいただきありがとうございます。前回は、「ツイン・ピークス」に関する話をたくさんしていただきまして、とても有意義な時間でした。

ハハハ。もちろん、覚えていますよ!

──前回の取材では若い頃、「ツイン・ピークス」のオードリー・ホーンのポスターを部屋に飾っていたとお話されていましたが、スパークスのポスターは飾っていなかったのでしょうか?

実のところ、子供の頃は音楽のポスターはもっていませんでした。映画やドラマ、コミック関係のものが多かったですかね。ただ、今はもちろんありますよ。この映画のもので、ロンとラッセルのサインを書いてもらいましたから(笑)。

──羨ましすぎます。お気に入りのアルバムにサインをもらったことはありますか?

この映画で彼らが取材を受けに来ていたとき、僕の家で一緒に食事することになりました。僕は彼女と共に彼らに料理を振る舞ったのですが、何年にもわたり関係を築き上げ、映画を一緒に作った後にもかかわらず、それでも僕にとっては大事だったんです。“スパークスが僕の家で食事をしているなんて信じられない”みたいな(笑)。

これまでにスパークスからサインをもらったことがないことにも気付きました。そこで、“アルバムにサインしていただけませんか?”と彼らが帰る前に伝えて、「プロパガンダ」というアルバムに書いてもらいましたよ。

──これまた貴重な思い出話をしていただきありがとうございます。それではまず、スパークスとは監督にとってどんな存在なのでしょうか?何が監督を惹きつけているのでしょうか?

彼らの好きな部分は、真剣に音楽に取り組みながらも、ユーモアのセンスが必ず盛り込まれているところです。僕自身、映画に対して同じような価値観を持っていますから。それは作品を作り上げる上で、楽しむことを決して忘れないというところですね。

──たしかにスパークスの音楽は伝統的でありながらも独創性に満ち溢れていますよね。監督の作品や映画作りと共通点があるようにも感じました。

この映画を作り始めるまでは、スパークスと僕に何か繋がりがあるとは考えもしませんでした。ただ、初めて彼らと会ったとき、不思議にもすぐに仲良くなれたんです。彼らは本当に面白くて、魅力的で、大の映画のファンでもあるんです。たくさん話をしていく中で、ユーモアのセンスが似ていることに気付き、だからこそ仲良くなれたのだと思っています。

そこで、“そもそもスパークスがユーモアのセンスを僕に与えてくれたのかもしれない”と考え始めるようになって。それというのも、こういうのは若い頃に好きだったものなどから形成されていくことが多いと思うんです。実際に僕は若い頃、スパークスはもちろん、モンティ・パイソンやピーター・クック、ダドリー・ムーアが好きでしたから。

──若い頃から彼らに夢中になっていて、無意識にも影響を受けていたということですが、そんなスパークスと監督として仕事を共にしてみていかがでしたか?

スパークスというユニークなバンドが影響を受けてきたものを知ることが出来て、それらを自分の中で組み合わせていくことが楽しかったです。何かの芸術を作るとき、様々な影響から全く新しいものが生まれるような、そんな錬金術みたいなもので。それで実際に彼らが影響を受けていたことを僕に教えてくれました。映画を順番通りに観ないようにしていたり、アメリカのバンドよりブリティッシュ・バンドに当時興味を持っていたりなど。それがスパークスというバンドに繋がっているのかと知り、本当に興奮しましたよ。

──ほかには何かありますか?

彼らと友達になれたことですね。くだらないメールを夜中に送ったりできて楽しいですよ(笑)。

──ドキュメンタリーの製作を経た今だからこそ彼らに聞きたいことはありますか?

とても良い質問ですね。“1970年代に戻れたとして、これまでに得た情報を駆使して、スタジアムなどの大規模な成功を望むのか、それともいま持っているものを望むのか”について聞いてみたいです。彼らは後者を選ぶと思いますけど。彼らには長期的に勝ち取ったものがありますから。同世代の人たちに比べて、それほど大きくはありませんでしたけど、そんなことは関係ありません。50年以上経った今でも、スパークスのアルバムを待ち望む人たちがいるんです。それって本当にすごいことだと思いませんか?

はじめてのドキュメンタリー製作

スパークス・ブラザーズ
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──ドキュメンタリーを製作するのは今回が初めてのことですが、その感想を教えてください。

インタビューは興味深いものでした。これは自分で全部やりましたから。

──インタビューで心がけたことは何かありますか?

僕と普通に会話をしているみたいな感じにしたかったので、あまり堅苦しくならないように、みんなを和ませようと努めました。そんな気楽な雰囲気の中だったからこそ楽しいものや感情的なものが生まれたのでしょう。それは本当に興味深かったです。

──スパークスをはじめ誰かに質問する際には、どんな答えが返ってくるのか事前に予想されていたのでしょうか?

予習はあまりしませんでした。ただセッションみたいなのを、4〜5回ほどやりましたよ。スパークスの歴史はとにかく長いので、話すことはたくさんありましたから(笑)。

──50年以上にわたり音楽に携わり続けているスパークスですが、「医療技術が発展すれば、2〜300ほどのアルバムがさらに作れるかもしれません」と、ロン・メイルが作中で冗談を口にしていたのが印象的でした。僕自身、根拠は何もありませんが、どこかスパークスなら実現しそうな気がしてなりません。

ハハハ!そうするとスパークスと同じぐらい僕も生きなければなりませんね。『スパークス・ブラザーズ2』を作るためにも。

──ドキュメンタリーともなれば膨大な数の映像素材がほかにもあったと思うのですが、2時間21分に収めるのは大変ではありませんでしたか?

もちろん素晴らしい素材はたくさんありましたが、ひとつの作品として成立させる必要がありました。それと正直なところ、これよりも長尺の映画にしてしまうと、スパークスのファンではない観客を遠ざけてしまいますから。ある時点では、4時間版もありましたよ。

──『ラストナイト・イン・ソーホー』が初めて観た映画という方がいたら「興奮する」と前回おっしゃっていましたが、この映画ではいかがでしょうか?

これが初めての作品となったら、かなり大変でしょうね。やはりある程度の事前情報は必要かもしれません。だから、もしも宇宙人がやってきて、現代の音楽や映画の存在を全く知らずに観たら、とても戸惑うはずです(笑)。

ユニークなアニメーション

スパークス・ブラザーズ
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──劇中ではアニメーションが一部で使われていて、演出的にも斬新で魅了されました。

アニメーションの作業を最後の最後までこだわってやっていました。そういう細かい部分を入れることで笑いも生まれたので、アニメーションは本当に楽しかったですね。

──そもそもアニメーションの活用を考えた理由は何だったのでしょうか?

アーカイブもなければ、映像も写真もないところもあったので、そこにアニメーションを使うことで良い化学反応が生まれると思ったからです。

それと、スパークスはこれまでにも自分たちの作品でアニメーションを使ってきました。「Edith Piaf(Said It Better Than Me)」(2017)というスパークスの曲があって、そのミュージックビデオにおけるストップモーション・アニメが素晴らしくて、それはジョセフ・ウォレスというフィルムメイカーが監督を担当したんです。

このミュージックビデオのためにロンとラッセルのパペットが作られていて、それがまだ存在していたんです。それで、スパークスのライブでウォレスと会い、“映画のためにアニメーションをやってください。パペットを映画の中で使いましょう”と言ったんです。そこからさまざまなタイプのアニメーションを作ることになり、グレッグ・マクロードが参加し、セルアニメーションのようなものを彼には担当してもらいました。

それと、映画化しようとしたものの、最終的には実現に至らなかった『舞』の映画化について言及するシーンでは、ロンとラッセルをマンガのようなアニメーションで描きましたよ。

──工藤かずや&池上遼一による漫画『舞』の映画化は、スパークスがティム・バートン監督とともに進めていた企画ですよね。残念ながら幻に終わってしまった企画ですが、スパークスが同企画のために進めていた楽曲を聴くことはできましたか?

実は聴けていません。その話をしたこと自体はあって、“ほかのアルバムに再利用したことはありますか”と尋ねたことがあったのですが、“ありません”と答えていました。ただ、曲は全部まだ存在しているみたいなので、いつか彼らの家に行って聴いてみるつもりですよ。

──フランシス・フォード・コッポラ監督などもまた、『舞』の映画化を手がけようとしていたという話が過去にありましたが、エドガー・ライト監督はいかがでしょうか?

どうでしょう。興味はありますけど、正直なところわかりません。

『アネット』の撮影に同行

スパークス・ブラザーズ
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──スパークスといえば、レオス・カラックスによる『アネット』(2021)にも音楽・原案として参加していました。その撮影に監督も同行されていましたが、いつ頃から企画の存在を知っていたのでしょうか?

ロンとラッセルと初めて会ったときなので、2015年のことです。“これはトップシークレットなんですけど、レオス・カラックスとミュージカルを進めているところなんです”と教えていただき、“これはすごいことになりそうだ”という感じでしたよ。

──2015年に企画の存在を知り、公開まで6年近くかかったわけですね。

『アネット』が無事に完成して本当に良かったと思っているんです。それというのも、この映画にちょっとしたハッピーエンドをもたらしてくれましたから。実現できなかった映画の話をするだけだと、とても悲しいことになっていたでしょう。ジャック・タチ監督との映画も、ティム・バートン監督との映画も幻に終わりましたけど、レオス・カラックス監督との映画は実現したわけです。しかも、カンヌ国際映画祭では監督賞まで受賞して。本当に良い話ですよ(笑)。

日本での撮影

スパークス・ブラザーズ
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──スパークスと一緒に来日もされていましたが、いかがでしたか?

最高でした。6回目ぐらいの東京でしたけど、そこでの撮影は初めてのことで。渋谷に滞在しながら、SUMMER SONICや渋谷CLUB QUATTROにも同行させてもらいました。とにかく彼らと一緒に日本を回るのは本当に楽しかったです。

──日本を満喫することは出来ましたか?

撮影後、1週間ほど休暇みたいな形で滞在して、本当に最高でしたよ。

──2018年に訪れたときが最後の来日だったということですが、コロナ禍でさらに難しい状況になってしまいましたね。

この取材を直接受けられないことも悲しいですし、『ラストナイト・イン・ソーホー』が東京国際映画祭で上映されたときにも、その場には行けなかったので本当に残念でした。仕事で世界中を旅できることがどれだけ幸せだったのかを今になって痛感させられますね。

映画『スパークス・ブラザーズ』は、2022年4月8日(金)より公開中。

あわせて読みたい

Writer

アバター画像
Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。