【ネタバレ解説】「ストレンジャー・シングス」ヴェクナ誕生秘話 ─ 演じた俳優、「狂気じみた」役作り、「ゲースロ」夜の王からの着想

この記事には、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シーズン4 Vol.1のネタバレが含まれています。

演じたのは『ハリポタ』『ファンタビ』若きグリンデルバルド役の俳優
「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シーズン4は、史上最もダークになるとキャストたちによって予告されていたが、全くもってその通りだった。スターコート・バトルでの一件から半年、それぞれの登場人物が新しい環境に適応しようとしていた矢先、ホーキンスに再び大きな影が差す。ホーキンス高校のマドンナ的存在であった女子生徒の惨殺遺体が発見されたのだ。
殺された女子生徒のボーイフレンド率いる男子バスケ部勢は、容疑者と思われる“ヘルファイア・クラブ”のリーダー、エディ・マンソンの行方を追う一方、“裏側の世界”を知る少年少女たちは悪の再来を察し始め、”ヴェクナ”と呼ぶ悪党探しに出ることになった。物語が進むにつれてヴェクナの正体が暴かれていき、Vol.1の最終話『ホーキンス研究所の虐殺』では、研究所の職員の青年がヴェクナの被害に遭った最初の1人として知られるヴィクター・クリールの息子ヘンリーであり、さらにそのヘンリーがホーキンス研究所最初の実験台に選ばれたワン(001)であり、そして憎しみを募らせたワンがエルによって裏側の世界に葬られたヴェクナであることが判明したのだ。シーズン1から語られてきた研究所の謎が遂に明かされることとなった。
ヘンリー・クリール/ワン/ヴェクナを演じたのは、ジェイミー・キャンベル・バウアー。『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2008)や、『トワイライト』シリーズのカイウス役、『ハリー・ポッター』『ファンタスティック・ビースト』シリーズの若きグリンデルバルド役などで知られている。ジェイミーの参加は2020年11月に他の新キャストとあわせて発表された。

米Varietyでヴェクナ役抜てき前のことを振り返ったジェイミーによると、オーディション1回目の時は演じるキャラクターのことを一切聞かされていなかったという。代わりにジェイミーが手渡されたのは、法廷スリラー『真実の行方』(1993)と大人気ホラー『ヘルレイザー』(1987)のセリフが記された台本だった。
1次審査が終わり2次審査も経たジェイミーは、オーディションを終えた後について「2日間くらいは興奮状態でした」と語る。その興奮状態によりモチベーションに拍車がかかったのか、ジェイミーは自宅でとある作業を開始したのだそう。なんと「ストレンジャー・シングス」に登場するキャラクターの相関図マップを自主作成したというのだ。マップ完成後、今度はダファー兄弟との面会に臨んだジェイミーは、そこで創作物を披露したのだという。するとダファー兄弟からは「脚本を読んだの?これ、本当に完璧だよ」という返事が返ってきたのだそう。つまり、起用前からジェイミーはダファー兄弟のビジョンに自ら足並みを揃えていたのだ。
『エルム街の悪夢』フレディ・クルーガーに近い「怒り」

こうして見事大役を射止めたジェイミーは、米Entertainment Weeklyで役作りの着想を語っている。主に参考にしたのが、オーディション時の素材として用いられていた『ヘルレイザー』と、スラッシャーホラーの金字塔『エルム街の悪夢』だったという。
「恥ずかしながら、僕は『ヘルレイザー』全作が大好きなんです。お気に入りは3作目ですかね。マットとロス(ダファー兄弟)とご一緒できて最高だったのは、彼らの引用元が美しくて秀逸で、僕も大好きな作品だったからです。“やった、ヘルレイザーね。ちょっと(要素を)お借りして、フレディ・クルーガーからも少しもらって”って感じでした。」
フレディ・クルーガーとは『エルム街の悪夢』に登場する連続殺人鬼のことだが、なんとフレディ役のロバート・イングランドはヴィクター・クリール役でシーズン4に出演している。これもダファー兄弟の意図的なキャスティングだが、ともあれジェイミーは悪夢の中に現れる伝説的な殺人鬼と似たような力、あるいは怒りをヴェクナにも感じたという。
「ロバートが演じたフレディには混沌としたエネルギーがあったので、彼(からの着想)は少しにとどめました。ヴェクナには、あのような恨みや蓄積された怒りのようなものを感じました。怒る時って、震え始めるけどなんとか鎮めようとするじゃないですか。そうしたことを意識しました。」

こうした殺人鬼としてのエネルギーを溜める上で、偶然にもプラスに働いたのがコロナ禍だった。シーズン4はパンデミックの大流行により撮影に遅延が生じていたが、ジェイミーにとってはこの中断期間がヴェクナへの精神的憑依を深めていく時間として役立ったという。ジェイミーは、『ヘルレイザー』や『エルム街の悪夢』のほかに、『ドラキュラ』などのホラー作品のポスターをオフィスの壁に張り巡らせ、独自のメンタル世界を築き上げていったのだ。
「ヴェクナには、非常に深い恨みがあります。それが彼の燃料となるのです。僕はその中に入り込まなければいけなかった。自分を恨みにしがみついた者と捉えることはしないで、自分の内側から(恨みを)たくさん掘り出していきました。
人にも話しかけませんでしたね。少なくとも撮影の4日前になると、『ストレンジャー・シングス』の外の世界では誰にも話しかけませんでした。自分でもけっこう狂気じみたことをしたなと思いますよ。もし深夜2時に(撮影地の)アトランタの道路で僕が歩いているのを見かけたら、きっと理解できると思います。ヴェクナには多くの怒りを注入しました。」
ヘンリー・クリールとの演じ分け

ここまででジェイミーが語ったのは、エルによって裏側の世界に追いやられたヴェクナについて。一方、ジェイミーはヴェクナになる前の人格“ヘンリー・クリール”に対しても独自のアプローチをかけた。「ヘンリーでは、より現実的な側面を意識しました」とジェイミーは話す。「自分や僕が知っている人たちから何を引き出すことができるのか。とにかく、はみ出しもので世捨て人で誰からも受け入れられず、親の言いつけや世界の何もかもが嘘なんだと思っている彼を想像したんです。結末から逆算して考えていきました」。

ブレナー博士が用意したビデオテープを通して垣間見られた職員としてのヘンリーは、エルに救いの手を差し伸べるも、その心のうちは読めなかった。ヘンリーはエルの信頼を得ようとする傍ら、監獄のような研究所への復讐をずっと心の奥底で企てていた。こうしたヘンリーを演じる上で、ジェイミーが追求したのが、操作的な人物になることだった。ジェイミーは、ポストイットに「全ては君のためなんだ」「彼女には親切に」「彼女は君みたいな人間だ」といった、いわば自身への洗脳メモを常に持ち歩き、ヘンリーという人格を形成していったという。
ジェイミーのあまりにも狂気的な演技には、エル役のミリー・ボビー・ブラウンも思わずこう言ってしまったそう。「あなた、異常ですよ」。ブラウンは終いに、ジェイミーに怯え、泣き出してしまったそうだ。
この記事には、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シーズン4 Vol.1のネタバレが含まれています。