【インタビュー】『ストレイ・ドッグ』カリン・クサマ監督が語る「自己責任」「母親と娘」「悪役論」─ ニコール・キッドマン驚愕の変貌、そのウラ側

復讐か、贖罪か。未だかつて見たことのないニコール・キッドマン&セバスチャン・スタンが初共演を果たした、衝撃のネオ・ノワール映画『ストレイ・ドッグ』が、2020年10月23日(金)より公開中だ。
ロサンゼルス市警の女性刑事エリン(ニコール・キッドマン)は酒に溺れ、同僚や元夫、娘からも疎まれる孤独な人生を送っている。ある日、エリンの元に差出人不明の封筒が届いた。中身は、因縁の事件の主犯からの挑戦状だった。17年前、砂漠地帯の犯罪組織に潜入したエリンとFBI捜査官のクリス(セバスチャン・スタン)は、取り返しのつかない過ちを犯して捜査は失敗。その罪悪感は今も彼女の心を蝕み続けていたのだった……。
この度、THE RIVERは本作の監督を務めたカリン・クサマに単独インタビューを実施。『イーオン・フラックス』(2005)『不吉な招待状』(2016)など、作品を発表する度に世界中に衝撃を与えており、次回作には吸血鬼ドラキュラの現代版映画も控えている注目の日系人監督だ。今回のインタビューでは、企画の発端や現代社会に通じる題材、衝撃の変貌を遂げたニコール・キッドマンやセバスチャン・スタンの演技への取り組み方、マーティン・スコセッシ監督などによる名作からの影響、社会情勢による映画体験の変化などについて尋ねてみた。

企画の発端と題材

──予想打にしない衝撃的な展開の連続に唖然としました。前作『不吉な招待状』(2016)に引き続き、脚本家フィル・ヘイとマット・マンフレディと仕事を共にしていますが、『ストレイ・ドッグ』でも二人と組むことになった背景を詳しく教えてください。
フィル・ヘイとマット・マンフレディ及びに彼らが率いる脚本チームとは、これまでにも沢山仕事を共にしてきました。前作『不吉な招待状』でも一緒に手掛けましたし、『イーオン・フラックス』も彼らが脚本を執筆した作品でしたね。
その頃に私はフィルと結婚して家庭を持つようになっていて、二人に関しては25年間も一緒に仕事をしていて、私たちは自然と制作面でも家族のような関係を築くようになったんです。そこで、二人は私に今回の物語の構想案を脚本執筆前から話してくれました。映画全体を如何に構築していくのかを聞くことも出来たので、普通よりも早く映画について考え始めることが出来ましたよ。
──観る者の倫理観が問われるかのような題材に心を激しく揺さぶられました。監督自身は本作を通して、観客にどのようなことを伝えたいと思っていたのでしょうか?また、今世界中で起きている様々な社会問題の影響で変化したことは何かあるでしょうか?
今になって考えてみると、大変興味深いですね。何故ならば、本作で描いた内容が現代社会との結び付きが更に強まった気がしてならないので。映画を作り始めた時、自己責任について描くことを志していました。自分の過ちに責任を持ち、失敗と向き合い、欠点に正直になること。そして、今間違いなく文化的にも政治的にも、それが如何に難しいことであるのかを痛感させられている時ではないでしょうか。
──「正直になる」という言葉が出て来ましたが、脚本家であり夫のフィル・ヘイと仕事をする際には如何でしょうか?
素晴らしい質問ですね。私たちはお互いに凄く正直であると思います。フィルは「僕たち三人はお互いに正直なので、裏表もなく鉄のように硬い絆で結ばれている」と良く話していますよ。それと私たちは脚本や演技、映像が成功しているか否かを常に共有し合っているので、正直に会話している方だと思いますね。
母親と娘の関係性

──ニコール・キッドマンが演じる、情け無用で敵を追い詰める刑事エリン・ベルが非常に魅力的でした。ただ、このような役柄は他の作品では女性ではなく男性として描かれる傾向が多いようにも思いました。敢えて女性を主人公にした理由があるなのでしょうか?