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『シュガー・ラッシュ:オンライン』は本当に現在のインターネット世界を描いていたか ─ ミレニアル世代の視点から

シュガー・ラッシュ:オンライン
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ディズニーがネットの裏側を描く」とされたシュガー・ラッシュ:オンラインで、主人公のラルフとヴァネロペはインターネットの世界を舞台に冒険を繰り広げる。実在するネット企業が数多く登場し、ネット上のユーザー体験を見事に映像化した同作だったが、果たしてその描写は2018年に公開されたものとして相応しいものだったのだろうか。ミレニアル世代の観点から考えてみたい。

「Wi-Fiとは」から始まる『シュガー・ラッシュ:オンライン』

この映画は2018年末に公開された作品だが、驚くべきことにゲーム店のオーナー、リトワクが無線ルーターを初めて購入し、ラルフがWi-Fiを「ウィフィって何だ?」と誤読、つまり「Wi-Fiとは?」の下りから始まる。『ドクター・ストレンジ』のカマータージにすら無線インターネットは普及しており、「我々は未開人じゃないぞ」と言われていたところ、『シュガー・ラッシュ』のゲームセンターはさらに未開の地だったことが判明する。

確かにキャラクターが物理的にインターネットの世界に飛び込む様子を映像化するには大変な工夫が強いられる。しかし『シュガー・ラッシュ』は、ネット空間がARやVRといった形で現実世界にレイヤー上に重なった現在において、『レディ・プレイヤー1』が表現した手法とは全く異なり、電話回線の中をキャラクターが移動していくという古代的な手法を選択した。笑い話として、高齢者がコンピューター・ウイルスは電話回線を通じて感染すると信じているというものがあるが、『シュガー・ラッシュ』の世界では本当なのかもしれない。

前時代的な固定観念は拭われず

現れたインターネットの世界も驚くほど前時代的だ。物語は、現実世界で壊れてしまった「シュガー・ラッシュ」筐体のハンドルを求めてキャラクターたちがeBayを訪れるが、ネット黎明期からずっと存在し、これまでありとあらゆる映画でジョーク的に登場したこの老舗巨大サイトを、なぜ2018年に「ネットの裏側を描く」と銘打った作品で主に取り上げたのか。ネットユーザーに「2018年の今更になってeBayを登場させるのが本当にクールなのか」と思われても無理はないだろう。

こうしたチョイスは、『シュガー・ラッシュ:オンライン』製作陣が無意識に抱える、インターネットに対する前時代的固定観念を浮き彫りにしている。確かに『シュガー・ラッシュ:オンライン』はネット世界を見事に描いてはいたものの、それは一世代前の感覚を写実したものだった。ディズニーは、「インターネットは確かにとても便利だけど、悪意に満ちて危険な部分もあるから気をつけたいよね」といった固定観念を捨てきれていない。

PC主体のネット利用形態

この映画の前時代的感覚は、劇中に登場するユーザーの描き方にも現れている。ユーザーが現実世界でネットを楽しむ姿も描かれていたが、彼らは主にパソコンを使っている。面白い動画を見つけたら?スマホからタイムラインにアップするだけ。しかし『シュガー・ラッシュ:オンライン』のネットユーザーは、職場のデスクトップPCで同じ画面を見合う。

ネット上での行動も、ユーザーは無知で盲目的な存在として描かれる。子供っぽくデフォルメされた二頭身のアバターとしてネット世界を行き来するユーザーは貼り付けたような笑顔でうろついている。架空の動画サイト「BuzzTube」では白痴の極みのように、猫の動画にハート(いいね)を投げ続け、ラルフに誘導されるがままに動かされている。よく分からないままポップアップ広告をクリックして、誘拐されるようにどこかに飛ばされてしまう者もいた。

ネット上の経済活動に対する観念

eBayの入り口でポップアップ広告を掲げる業者の描き方も、ネットに対する前時代的な偏見に満ちている。ラルフが行動を共にするキャラクターは、見るからに不健康で怪しげな緑の肌をしていて、その名も「スパム」を文字った「スパムリー」だ。(確かにポップアップ広告は迷惑だが、決してスパムというわけではない。)

インターネット上には様々なビジネスが存在するが、『シュガー・ラッシュ:オンライン』に登場する事業者は、「BuzzTube」運営者のイエスと、このスパムリーだけ。やたらと先進的なイエスに対して、スパムリーはネット社会に対する悪意を凝縮させたようなキャラクターに仕立てられている。怪しくて、卑しいイメージだ。

ポップアップ広告をダフ屋のように描くアイデアは確かに面白い。しかし多くの人々が勘違いしているのだが、インターネットはその全てが無料のボランティア精神で成り立っているわけではないし、ネット文化を支えているのはネット上の広告文化である。世界的に影響力を持つディズニーが「ネットの裏側を描く」と銘打つ作品で、ネット広告文化をこのように「卑しいもの」として描いたのはまずいのではないか。ネット広告はひたすらに傍若無人ではた迷惑なものと考えているのか、ヴァネロペはポップアップ広告を持ってInstagramにすら現れる。(実際には、Instagramにポップアップ広告が表示されることは今の所ありえない。)

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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