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アカデミー賞が間違ったのは2017年だけじゃないかも?「なぜアレが?」疑惑の受賞を勝手にランキング!

89回アカデミー賞のハイライトは(不幸なことに)、作品賞を間違って発表された直後の『ラ・ラ・ランド』組と『ムーンライト』組の混乱だった。当然、各メディアはこぞって式の不手際を批判しているわけだが、自分の感想はちょっと違う。「これ、気づかれていないだけで過去にもあったんじゃないか?」だ。

なぜなら、過去のアカデミー賞を振り返ると「間違い」としか思えないような受賞者や受賞作品が目立つからである。アカデミー賞は純粋な作品や演技の質で決められるわけではなく、さまざまな政治性の産物だとは分かっている。しかし、時間が経てば経つほど「なぜ、あれが?」の疑惑は深まって行く。アカデミー側の間違いとでも言われなければ納得できないくらいに。

そこで、今回は「間違いの可能性があるアカデミー賞」ベスト10を選んでみた。別にアカデミー賞を否定したいわけではないが、少なくとも「絶対的な権威ではない」と思っていただければ幸いだ。 

【次点】第72回、マイケル・ケインの助演男優賞受賞

アカデミーはベテラン俳優が大好きだ。特に、過去作で受賞済みのベテランに関しては、作品を観ていなくてもノミネートしているのではないか、と思える回がある。第72回は天才子役、世界一の映画スター、優しい巨人、美しき英国俳優が助演男優賞を争ったが、もっとも「平常運転」だったケインが受賞。おそらく、多くの映画ファンが同じマイケルでも、クラーク・ダンカンのほうが獲ったと勘違いして記憶しているだろう。

10位】第23回、ジュディ・ホリデイの主演女優賞受賞

この年は『イヴの総て』で火花を散らした二人の女優、ベティ・ヂヴィスとアン・バクスターがオスカーも争うことになった。一方、『サンセット大通り』で渾身の演技を見せたグロリア・スワンソンも当然のノミネート。しかし、結果は三人の票が割れたのか、『ボーン・イエスタデイ』のジュディ・ホリデイへ。ジョージ・キューカー監督の傑作とはいえ、棚からぼた餅の感は否めなかった。

 

9位】第14回、『わが谷は緑なき』の作品賞受賞

ジョン・フォードがアメリカ史上もっとも偉大な映画監督の一人であるのは間違いない。しかし、生涯唯一の作品賞受賞が、『怒りの葡萄』でも『静かなる男』でもなく、キャリアの中で比較的凡庸な『わが谷は緑なき』だったのはアカデミーの不思議である。ちなみに、この年の候補作には、映画史上のベスト1作品と推す声が21世紀になっても絶えない『市民ケーン』の姿もあった。

8位】第84回、メリル・ストリープの主演女優賞受賞

賞とは一度受賞するよりも、二度、三度と受賞し続けることのほうが遥かに難しい。それだけ世間の目は厳しくなるからだ。しかし、アカデミーはメリル・ストリープに対してだけは甘さを見せる。『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』はメリルが受賞した過去作と比べ、印象のない映画。メリルの演技もまた、新機軸があったわけでもなく、候補となっていた若手女優たちは運が悪かったとしか言いようがない。

6位】第84回、『アーティスト』の作品賞受賞

前回、『英国王のスピーチ』を強烈にプッシュして、『ソーシャル・ネットワーク』から作品賞を「強奪」したワインスタイン・カンパニー。彼らがこの年のアカデミー戦略に選んだのがサイレント映画への憧憬を旧世代に訴えかける小品だった。受賞したのが『ヒューゴの不思議な発明』ならサイレント映画へのオマージュに満ちているだけでなく、現代映画としての質も上だったのに。翌年の授賞式では司会者が『アーティスト』主演男優を「みんな覚えているよね?」とイジり倒していたのが印象的。

 

5位】第47回、アート・カーニーの主演男優賞受賞

『ハリーとトント』が心温まる映画なのは疑いの余地がない。しかし、愛らしい猫のトントあってこその感動であり、カーニー個人の貢献はどこまで評価できるだろう?『レニー・ブルース』のダスティン・ホフマンは『クレイマー、クレイマー』より5年前に受賞できるはずだったし、アル・パチーノにいたっては15年後の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』まで待たされるハメになった。

4位】第16回、『カサブランカ』の脚色賞受賞

受賞の知らせを聞き、主演女優イングリッド・バーグマンは思わず「あれで?」と聞き返したという。名作と誉れ高い『カサブランカ』だが、その功績はハンフリー・ボガートとバーグマンという二大スター、そして音楽の魅力によるところが大きい。ストーリーはむしろご都合主義で通俗的。その後、二度の脚色賞に輝くジョージ・シートンや、ハードボイルド小説の大家、ダシール・ハメットを抑えてまで受賞する価値はあったのか。

 

3位】第78回、『クラッシュ』の作品賞受賞

この年の映画賞はアン・リー監督の最高傑作『ブロークバック・マウンテン』が総なめしており、アカデミー賞もまた確実視されていた。しかし、受賞したのは道徳の時間に見せられる教材ビデオのような社会派ドラマ。同性愛をテーマにした『ブロークバック・マウンテン』よりも、人種問題を扱った『クラッシュ』のほうが、年齢層の高いアカデミー審査員がいい人ぶるには共感しやすかったのだろう。

 

2位】第71回、ジュディ・デンチの助演女優賞受賞

ミラマックス社のなりふり構わないキャンペーンで、今では誰も覚えていない『恋におちたシェイクスピア』が7部門を受賞するという奇怪な回。一番の謎は総出演時間が10分にも満たないジュディ・“デイム”・デンチの助演女優賞だった。アカデミーは功労賞と取り違えてしまったのではないだろうか。戦争映画の概念を塗り替え、いまだに追随を許さない『プライベート・ライアン』は5部門受賞に留まった。

 

1位】第88回 『スポットライト 世紀のスクープ』の作品賞受賞

確かに他の映画賞もたくさん獲ったかもしれない。しかし、それは「良い映画だから」ではなく、「良いテーマだから」という評価に過ぎないだろう。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はもちろん、『レヴェナント 蘇りし者』にも話題性、完成度、インパクトの全てで劣る。というよりも、候補作全ての中で一番特徴のない作品が『スポットライト』だった。まあ、アカデミー賞きっかけで本作を見て、正しいことを言うのが良い映画の条件ではないと、誰もが気づいたはず。

 

89回の受賞作も、もうじき日本で続々と上映が始まる。果たして、アカデミー賞に相応しい内容だったのかどうか、みなさんの目で確かめてみてほしい。

https://theriver.jp/89th-oscars-lalaland-moonlight/

Writer

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石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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