スター・ウォーズ、なぜ中国で不振続く? 『ローグ・ワン』ドニー・イェンが原因を分析、中国映画界の現状語る

いまやハリウッドにとって、中国は決して無視できない巨大市場だ。海外興行収入の多くを中国を占める作品は決して少なくないほか、スタジオ製作の大作映画に中国の映画会社などが出資する例も多い。映画の冒頭に中国企業のロゴが登場するのを見る機会はどんどん増えているだろう。
しかしそんな中、ハリウッドの歴史的人気シリーズが中国において苦境に立たされている。『スター・ウォーズ』だ。久々のシリーズ再開となった『フォースの覚醒』(2016)を皮切りに、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)、『最後のジェダイ』(2017)、そして『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)と、いずれも期待通りの興行成績にはならなかったのである。
なぜ『スター・ウォーズ』は、世界有数の巨大市場で大きな成果をあげることができていないのか? 『ローグ・ワン』に出演し、ハリウッドでも活躍する中国のスター俳優、ドニー・イェンがその理由を分析した。

ハリウッドと中国、文化のギャップは埋められるか
米JoBloのインタビューにて、ドニーは中国における『スター・ウォーズ』の不振について「残念ですよ」と語った。ドニーとチアン・ウェンという二人のスター俳優が出演した『ローグ・ワン』ですら、中国では約6,948万ドルという結果に終わったのだ。米国で5億3,000万ドル以上を売り上げていることを鑑みると、その差はおよそ7.6倍である。
ドニーはこうした違いの生じる理由として、米中の観客のあいだにある文化の違いを挙げ、さらに中国で好成績を示すマーベル映画と『スター・ウォーズ』の違いを指摘している。
「『スター・ウォーズ』は――中国の観客はスター・ウォーズ文化のもとで育っていないので――中国で成功しないんですよ。マーベル映画の方がずっと理解しやすい。『スター・ウォーズ』はそこにひとつの宇宙があるという感じですが、マーベル映画はコスチュームや音楽、アイドルやスターの存在から、映画と観客の間にあるギャップを埋めやすいんです。」
「中国の観客はスター・ウォーズ文化で育っていない」という背景には、中国において外国映画が自由に観られてこなかった歴史がある。中国政府が外国映画の配給・上映を正式に解禁したのは1994年のこと。その後、2001年までは年間10本、2002~2011年は年間20本、2012~2015年は年間34本という規制のもとで海外映画は配給されている。その後、本数の規制はややゆるやかになっているが、現在でも外国映画が完全に自由な形で国内に紹介されているわけではないのだ。
したがって中国の観客の多くにとって、初めて大スクリーンで観た『スター・ウォーズ』は「プリクエル3部作(エピソード1~3)」となる。オリジナル3部作からプリクエル3部作までの歴史を諸外国と同じように体験していない以上、そこにあるギャップは単純に「映画が公開されなかった」というレベルのものではない。米国ポップカルチャーの象徴ともいうべき作品の歴史、その根幹が大衆に共有されていないのだ。「スター・ウォーズ文化のもとで育っていない」とドニーが形容するのもうなずけるだろう。
さらにドニーが、独自の完成された世界観をもち、それこそが大きな魅力である『スター・ウォーズ』と、現実世界との接点を数多く有するマーベル映画を比較していることも興味深い。マーベル映画は作品ごとにそれぞれ異なる世界観と要素をもつため、現実世界との接点を――ドニーが述べたように、衣裳や音楽、出演者なども含めて――さまざまなレベルで変えられる。しかし『スター・ウォーズ』の場合、作品は違っても、あくまでひとつの世界観をどの断面で見るかという戦略となるのである。そして前述の通り、中国の場合、その世界観の浸透具合がそもそも諸外国とは大きく異なるのだ。
激動の中国映画業界
またドニーは、中国が独自の映画市場、独自の映画文化を育てている最中であることも強調している。ハリウッドが中国を重要視していながら、それでも『スター・ウォーズ』がヒットしない背景には、こうしたギャップも関係しているようだ。
ドニーいわく、いまや中国映画は「昔の香港映画の時代とは大きく変わった」という。かつては“製作費は安く、時間をかけずに撮る”というスタイルだったが、経済的進歩やクリエイターのレベルアップ、技術の洗練、業界の発展を経て、映画業界は潤沢な予算と資源に恵まれるようになったのだ。繰り返すが、その市場規模は世界最大級である。
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