Menu
(0)

Search

ヘイトスピーチ行うアカウントはフォロワー少ない ─ 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』批判の実態、アルゴリズム解析で明らかに

ローズ
©THE RIVER

映画『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)の公開以来、世界中の『スター・ウォーズ』ファンが割れている。ライアン・ジョンソン監督がシリーズの伝統に破壊的アプローチで挑んだ同作はファンの間で賛否両論。公開後には、一部ファンによる「『最後のジェダイ』を正史から外せ!」との署名活動が話題になるほどだった。

特にアジア系女優のケリー・マリー・トランが演じた女性キャラクターのローズ・ティコをめぐっては、キャラクターやキャスティングを非難する声が噴出。ケリーはInstagram上で性別や人種に対する差別的な嫌がらせを受け、2018年6月にすべての投稿を削除していた。2018年8月21日には、米New York Timesに自らの名義でエッセイを寄稿。自らの出生をめぐる過去の苦労や、「この世界で努力を続けていく」との意志を語っていた

ケリーやローズ、『最後のジェダイ』を非難する声は、具体的にどれほどあったのか。米ニューヨークのロチェスター大学、政治学准教授のベサニー・ラシナは、「どれほどの割合の『スター・ウォーズ』ファンが中傷ツイートを行っているのか」を探るべく、数千のツイートを収集、コンピューターによるアルゴリズムによって解析。The Washinton Post誌で発表した。『最後のジェダイ』以来、割れた『スター・ウォーズ』ファンの実態が、ここで初めて科学的に明らかになった。

『最後のジェダイ』めぐる非難 アルゴリズムで解析

ベサニーが行った調査研究では、『スター・ウォーズ』や『最後のジェダイ』に関する(表記のゆらぎや略語を含む)数千のツイートをアルゴリズム解析。攻撃的な言葉を含むツイートや、人種差別、ミソジニー(女性嫌悪)、同性愛嫌悪、脅迫といった内容のヘイトスピーチの件数を調査した。すると、攻撃的なツイートは全体の内およそ6%だったという。もっとも、このアルゴリズムでは丁寧な言葉を使いながら実際には攻撃的な内容であるツイートや、既にTwitter上から削除されたものは拾うことができない。そのためベサニーは、「実際にはもっと多いかもしれない」と考える。

一方でヘイトスピーチのツイートはより少なく、100件中1件だった。ただし、ヘイトスピーチは(Twitter)のコミュニティ・ガイドラインに違反する内容であるため、その大部分が既に削除されていたとも考えられる。ベサニーは、やはり実際にはより大きな件数があった可能性を懸念している。

ベサニーが突き止めたのは、『スター・ウォーズ』一連の話題に限らない、興味深い事実だ。調査結果によれば、攻撃的なツイートやヘイトスピーチを行うアカウントは、一般的なアカウントに比べてフォロワー数が少なかったという。また、こういったツイートは一般中立的なツイートに比べ、リツイートや「いいね」、リプライも少ない傾向にあったという。

誰がローズを批判するのか

ほか、この調査でベサニーは『最後のジェダイ』ローズ役ケリー・マリー・トランに向けられた敵意の数値化にも成功した。『スター・ウォーズ』にまつわる一般的な話題のツイートと、ケリー・マリー・トランまたはローズにまつわるツイートを解析した結果、後者では攻撃的な言葉の割合が2倍に。6%と12%という結果になったという。また、ヘイトスピーチの割合は1.1%から1.8%へと約6割上昇。ローズについて語る際、スター・ウォーズ・ファンは普段よりも攻撃的な言葉を扱うという事実を暴いた。ベサニーは、「スター・ウォーズや『最後のジェダイ』を嫌うのは、本質的に人種差別主義者や性差別主義者というわけではない。ファンは、この映画の人種やジェンダーの話題になると、好戦的なツイートになるのだ」と読み解いた。

女性は攻撃されやすい

続いてベサニーが行った調査は、『スター・ウォーズ』ファンとジェンダー感覚の相性の悪さを明かしている。ベサニーは、『スター・ウォーズ』ファンによる有志のPodcast番組63件に対し、ファンから寄せられたコメントをPodcast番組ホストの性別に分けて洗い出した。対象になったのは、男性のファンによる番組37件と、女性ファンによる26件だ。

調査の結果、リスナーが番組に投げた一般的な攻撃的コメントの割合は、番組ホストの男女差にほとんど影響されなかった。しかし、ヘイトスピーチとなると変化は劇的に。男性による番組に向けられたヘイトスピーチは450件に1件の割合だったが、女性による番組になると280件に1件の割合と急増したというのである。

これは、女性は男性に比べてSNS上での攻撃に遭いやすいという傾向を示唆している。またこの結果からは、ケリー・マリー・トランに対するSNS上の中傷・ヘイトスピーチの甚大さは、一般的に男性ファンが想像するよりもより大きく、辛いものだったのではないかと想像力を働かせることもできる。

攻撃的なツイートやヘイトスピーチの出処は、右翼に限られるわけではない。」ベサニーが明らかにした見解は、こうしたヘイトスピーチは多様性を求める左翼思想からも繰り出されているというものだった。「特に女性のPodcastホストは、”多様性や男女平等をしっかり支持していない”という理由で攻撃されていた。

先の米誌エッセーで、ケリー・マリー・トランはこのような理想を語っている。

「私は、有色人種の子どもたちが、“白人になりたい”と願いながら思春期を過ごさずにすむ世界に暮らしたい。女性たちが、見た目や行動、存在を監視されずにすむ世界に暮らしたい。人種や宗教、経済的な階級、性的志向やアイデンティティ、それぞれの能力にかかわらず、すべての人々が常に“人間”として捉えられる世界に暮らしたいんです。」

Source:The Washinton Post

Writer

アバター画像
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。