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【解説】『スター・ウォーズ』公式ノベル、ここが読みどころ&翻訳のツボ ─ 訳者・上杉隼人氏に教わる

スター・ウォーズ』の物語は、1977年に幕を開け、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)でひとつの区切りを迎えた。それは映画だけでなく、小説の世界でも同じことだ。

2020年9月18日(金)刊行、『スカイウォーカーの夜明け』公式ジュニアノベル『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け(ディズニーストーリーブック)(講談社)を翻訳された上杉隼人氏は、エピソードI~IXまで、公式ノベルの全作品を訳された実績の持ち主。このたびTHE RIVERでは、『スター・ウォーズ』を書籍で楽しむポイントや翻訳のツボについて、その情熱とノウハウをご寄稿いただいた。

“遠い昔、はるか彼方の銀河系で…”の物語は、映像から小説になり、そして日本語で読者に届けられてきた。映画とは異なる舞台裏を、今回は覗き込んでみることにしよう。

『スター・ウォーズ』を翻訳する/上杉隼人

2019年公開の『スカイウォーカーの夜明け』によって、『スター・ウォーズ』スカイウォーカー・サーガの幕は閉じられた。
だが、1977年に上映開始されたシリーズの伝説は永遠に語り継がれる。今後多くの人たちがスター・ウォーズ映画をディズニープラス(Disney+)やDVDで楽しみ、その魅力を伝えることだろう。フォースは受け継がれる。

『スター・ウォーズ』の伝説が残されるうえで、ノベルをはじめとする関連書籍のはたす役割も大きい。
特に公式ノベル(後で説明する通り、フルノベルとジュニアノベルの2種類がある)には、映画ではっきり読み取ることのできないキャラクターたちの感情が読み取れるだけでなく、映画には出てこないキャラクターやクリーチャーやエイリアンも場面も随所に登場する。Wookieepediaをはじめとするファンサイトにも、公式フルノベル、公式ジュニアノベルが詳しく解説されている。

わたしは翻訳者としてこれ以上ない光栄なことであるが、エピソードIからエピソードIXまで、『スター・ウォーズ』公式ノベル全作(フルノベルI~VI、ジュニアノベルはIVをのぞいてすべて)を訳すチャンスをいただいた。関係者のみなさま、そして何と言ってもわたしの訳書を読んでいただいている読者のみなさまに、この場をお借りして、深く感謝申し上げる。

『スター・ウォーズ』シリーズ完結にあたって、ノベルを訳しながら気づいたことを記してみたい。

映画では読み取れないキャラクターの感情をいかに訳すか?

2017年10月に、HMV&BOOKS TOKYOで開催された「スター・ウォーズ読者の日2017(Star Wars Reads)」(ウォルト・ディズニー・ジャパン出版部主導)のスペシャル・トークショーで、スター・ウォーズのノベルの翻訳で何がいちばんむずかしいかと聞かれた。そこで何だろうかと考えてみたが、ひとつには描出話法(represented speech)の処理の仕方があると思う。

登場人物の思考や心のなかの語りを、地の文に投げ出された形で表現する描出話法、または自由間接話法(free indirect speech)は、小説でよく用いられる。
描出話法とは、「伝達部がなく、直接話法と間接話法の中間的な性格を持ち、普通クオテーションは用いられない。小説などで作者が主人公の心理を代弁したりするときに用いる話法」だ。

以下の例文を考えてみよう。

 Luke’s resolution was firm. He could no longer bear the dull life on the sand island. He would leave Owen’s house, study the force under Obi-Wan, and save the galaxy.
 ルークの決心は固かった。 僕はこの砂の惑星の退屈な生活にはもう我慢できない。 オーウェンおじさんの家から出て、オビ=ワンにフォースを学び、銀河を救うんだ。

これを「直接話法」(クオテーションで囲んだ言い方を出す)で書けば、

He said to himself, “I can no longer bear the dull life on the sand island. I will leave Owen’s house, study the force under Obi-Wan, and save the galaxy.”

となるし、「間接話法」(that節を使った書き方)で書けば、

He thought that he could no longer bear the dull life on the sand island and that he leave Owen’s house, study the force under Obi-Wan, and save the galaxy.

となる。

例文の“He could no longer bear the dull life on the sand island. He would leave Owen’s house, study the force under Obi-won, and save the galaxy.”がルークの心の中の語りとなり、英語はその代名詞heを使って書かれるが、この話法が用いられる時は、日本語では「彼」ではなく「僕」や「わたし」を主語にして訳すのが効果的だと思う。そして助動詞couldとwouldは現在の「推量」や「意思」を示すので、現在形で訳すのがよい。

では、実際に『スター・ウォーズ』のノベルで出会った描出話法が効果的に使われている部分を見てみよう。『エピソードI:ファントム・メナス』(講談社)にある表現を挙げる。

 But for Anakin Skywalker, it was the first step in his life plan. He would build the fastest Podracer ever, and he would win every race in which it was entered. He would build a starfighter next, and he would pilot it off Tatooine to other worlds. He would take his mother with him, and they would find a new home. He would become the greatest pilot ever, flying all the ships of the mainline, and his mother would be so proud of him.
 And one day, when he had done all this, they would be slaves no longer. They would be free.
 だが、アナキン・スカイウォーカーには、これが自分の思い描く人生の第一歩だった。これまでのどのポッドレーサーよりも速いマシンを作ってやる。それに乗って、すべてのレースで優勝するんだ。次はスターファイターを作り、タトゥイーンを出てほかの星に行く。ママも連れていって、新しい家を見つけるんだ。銀河史上もっとも偉大なパイロットになって中央航路のありとあらゆる船を操縦し、ママの自慢の息子になるんだ。
 いつかこういうことが全部実現したら、僕もママも奴隷じゃない。二人とも自由になれるんだ。

He would…のあたりは上で説明したように、「描出話法」で書かれているととらえて、「僕」を主語にして訳し(そうだとわかるのであれば、「僕」あるいは「わたし」などの言い方は削ってしまうほうが日本語としては自然だ)、助動詞wouldは現在の「意志」と認識し、現在形で訳すのがよい。

講談社文庫『スター・ウォーズ エピソード1:ファントム・メナス』著:テリー・ブルックス/訳:上杉隼人・大島資生

『スター・ウォーズ』の公式ノベルを担当するのは、作家たちの夢でもある。その栄誉に与る作家たちは大変な経歴と実力の持ち主たちだ。
わたしが担当したフルノベルでも、『I』は「シャナラ」シリーズのテリー・ブルックスが、『II』は「アイスウィンド・サーガ」や「ダークエルフ物語」で知られるR・A・サルヴァトア(「サルヴァトーレ」と表記されることもある)が担当し、プリクエル・トリロジーを締める『III』は、トロイア戦争後の古代ギリシャを舞台にした歴史ファンタジー小説「Barra the Pict(原題)」や、地球以外のもう一つの世界で悪の帝国に果敢に戦いを挑む一人の役者の活躍を描くSF小説「Acts of Caine(原題)」シリーズで人気を博したマシュー・ストーヴァーが書き上げた(※注)。

フルノベルは『スター・ウォーズ』に対する大変な知識を備えた一流作家たちが相当の情熱と時間をかけて書き上げる。出来上がったものは言うまでもなくどれも傑作であるし、長らく世界中のベストセラーリストに名を連ねることになる。
したがって、翻訳者たちも相当な英語力に加えて、著者に負けない『スター・ウォーズ』の知識と情熱が求められる。富永和子、野田昌宏、石田享、そして稲村広香各氏ほか歴代の『スター・ウォーズ』のフルノベルの訳者のみなさんは、すばらしい訳業を残してきた。こうした名翻訳者の方々の偉大なる訳を常に参考にさせていただいているし、そのすぐれた訳業に深く敬意を表する。

(※注)サルヴァトアは1999年に、ヤヴィンの戦いから25年後の世界を描く『スター・ウォーズ』のスピンオフ小説シリーズ「ニュー・ジェダイ・オーダー」の第1作『新たなる脅威』も手掛けている。ストーヴァーはスター・ウォーズのスピンオフ小説『反逆者』(2002)、『破砕点』(2004)も書いている。

映画に出てこないキャラクターや場面の登場

これも『スター・ウォーズ』ノベルの大きな魅力のひとつだ。たとえば、最新作『スカイウォーカーの夜明け』のジュニアノベルには以下のキャラクターたちが登場する。

 原生林の深い藪の中をレイはスピードを緩めずに駆け抜ける。見通しの悪い枝の中に突っ込み、剝き出しになった根を飛び越える。クモを肩から払い落とし、ザイモッドの毒が浸み込んだ舌から身をかわす。湿原に出ると、つるにしがみついて向こう岸に渡る。暑いが、息も乱れず、汗もかいていない。エイジャン・クロスのジャングルも意のままに移動できる。フォースに心を開けば、見知らぬ場所も手に取るようにわかる。
 だが、追っ手を振り切れない。青、白、緑、赤のリモート戦闘コマンド四機が風を切って迫りくる。ロボットの動きをレイは周囲の気配で察知する。一歩先を行き、正確に攻撃をかわす。

映画『スカイウォーカーの夜明け』にもレイが原生林で修業を積んでいる場面は出てくるが、クリーチャーのザイモッドははっきりわからないし、戦闘コマンドも1機しか出てこない。
だが、『スカイウォーカーの夜明け』のジュニアノベルにはザイモッドがはっきり記され、戦闘コマンドが4機登場する。

 木立に踏み入ると、霧の向こうに泥炭地が広がっていた。巨大なヒューマノイドが半分顔を突き出している。髪は一本もなく、耳はとがっていて、目は閉じられ、豚のような鼻を下げている。クモのようなクリーチャーが一体、その頭に覆いかぶさっていた。クリーチャーは長い脚でヒューマノイドの顔のはしばしをつかみ、体を半分のめりこませながら腹を揺らしている。ムスタファーの神話によると、隠れた沼地に未来を予言する能力を持つ託宣者が潜んでいるという。これがその伝説の「ウェビッシュ沼の目」か?

「ウェビッシュ沼の目」は映画でも撮影されたが、最終的に削除されたという。しかしジュニアノベルには、このクリーチャーが実に印象的に描かれている。

『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け(ディズニーストーリーブック)』著:マイケル・コッグ/訳:上杉隼人/発行元:講談社

キャラクターの感情が手に取るように読み取れる

キャラクターの気持ちの推移をノベルでははっきり味わうことができる。
たとえば、レイに敗れたが、彼女に命を救ってもらい、そのあと父ハン・ソロに会ってダークサイドからついに逃れるカイロ・レンの独白を含む場面を見てみよう。

 レンはハンから顔をそらし、心の中でつぶやいた。ここでおれは罪を告白し、自分の力を超えた何かをしてみたい。
 ベン。
 これまで自分に与えられた名前はほとんど受けつけなかったが、ハンの口から出てきたその名は違って聞こえた。幸せな時代を、本当の自分を、自分が両親にとってかけがえのない息子だった時を思い出した。
「やるべきことはわかってるけど、やれる自信がない。」
「やれるさ。」
 これまで頭に響いていた声は、どれもおまえがいかに弱く、いかに人の言うとおりにしか生きていけないかというものだった。だが、この声は違う。おまえはできると言ってくれた。
「父さん……。」
「知ってるさ。」
 しばらくふたりは見つめあった。父と息子。ハンとベン。父の目に、自分がずっと探していた誇りと喜びを見出した。祖父を求めていた時には決して得られなかったものだ。
 今度こそ両親をがっかりさせない。レイがしたことをする。それしかない。
 ベン・ソロは自分のライトセーバーをつかんだ。父の胸に突き刺したその剣を思い切り遠くに投げ飛ばした。それは海中に沈み、もう誰かを殺めることはない。

『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』、そしてこの『スカイウォーカーの夜明け』3作とも原書はマイケル・コッグが書いている。「ジュニアノベル」のカテゴリーに入れられているが、英語話者の子供たちに向けて書かれている上に、コッグの英語は語彙レベルがジュニア向けとは思えないほど高く、翻訳する上で、日本人の小学生のみなさんから読んで楽しんでいただけるようにするには相当な工夫と苦労が求められた。
フルノベルはそのまま訳せばいいが、ジュニアノベルの訳出にはこうした計り知れない苦労がある。

ヴィジュアル辞典なども充実

『スター・ウォーズ』関連書籍はノベルだけではない。ヴィジュアル事典なども大変充実している。

昨年(2019年)には、『STAR WARS クリーチャーズ&エイリアンズ大全 制作秘話と創造の全記録』(講談社)も翻訳刊行させていただいた。主だったクリーチャーとエイリアン(合計73体!)が制作される過程を、貴重なコンセプトアートや、試作品、撮影の様子をおさめた多数の写真と、当時のスタッフの証言を交えて示してくれる。
エピソードI~VIのほかに、『フォースの覚醒』(2015)『最後のジェダイ』(2017)『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)に登場するクリーチャー&エイリアンも収録されているのもありがたい。ファン必携であることは言うまでもなく、映画関係者、各種クリエーターにもぜひ手に取っていただきたい。

『STAR WARS クリーチャーズ&エイリアンズ大全 制作秘話と創造の全記録』著:マーク・ソールズベリー/訳:上杉隼人/発行元:講談社

『スター・ウォーズ』の伝説は永遠に語り継がれるし、大変うれしいことに新たな新シリーズも制作されるとディズニー社から発表もあった。『スター・ウォーズ』の大ファンのひとりとして新シリーズ公開を今から楽しみにしているし、翻訳者としてもTHE RIVERの読者のみなさんに楽しんでいただける書籍を翻訳しつづける機会がいただけたら、この上なくうれしい。

なお、講談社のご提供により、ここで紹介した『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け (ディズニーストーリーブック)』をTHE RIVERの読者2名様に、『STAR WARS クリーチャーズ&エイリアンズ大全 制作秘話と創造の全記録』を1名様に特別にプレゼントいたします。こちらをご覧ください。たくさんのご応募、お待ちしております。

上杉隼人(うえすぎ・はやと)

翻訳者(英日、日英)、編集者、英文ライター・インタビュアー、英語・翻訳講師。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業、同専攻科(現在の大学院の前身)修了。訳書に『スター・ウォーズ』全作(エピソード I 〜IX、講談社)ほか、『STAR WARS クリーチャーズ&エイリアンズ大全 制作秘話と創造の全記録』『アベンジャーズ エンドゲーム』『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』(いずれも講談社)など、スター・ウォーズ、マーベル、アベンジャーズ、ディズニー関連書を多数翻訳。訳書に、チャーリー・ウェッツェル+ステファニー・ウェッツェル『MARVEL 倒産から世界No.1となった 映画会社の知られざる秘密』、リチャード・ホロウェイ『若い読者のための宗教史』、ジェームズ・ウエスト・デイビッドソン『若い読者のためのアメリカ史』、マット・タディ『ビジネスデータサイエンスの教科書』、ニア・グールド『21匹のネコがさっくり教えるアート史』(いずれもすばる舎)、ジョン・ル・カレ『われらが背きし者』(岩波現代文庫)、ウィリアム・C・レンペル『ザ・ギャンブラー ハリウッドとラスベガスを作った伝説の大富豪』(ダイヤモンド社)、ベン・ルイス『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』(集英社インターナショナル)ほか多数(70冊以上)。

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THE RIVER編集部
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