Menu
(0)

Search

「東京コミコン2017」謎のブース『ヘラクレス2.0 リサイクル』とは何だったのか? 他メディアが触れない真相に迫る

©THE RIVER

2017年12月1日(金)から3日(日)にかけての3日間、幕張メッセで開催されたポップカルチャーの祭典「東京コミコン2017」。今年は新たに『スター・ウォーズ』に『MARVEL』も出展し、数々の有名企業や作品、アーティスト、ショップなどのブースやテーブルが軒を連ねる中、誰も知らない謎の作品が会場の(割と広大な)一部分を占めていた。こちらの『ヘラクレス2.0 リサイクル(原題:HERCULES RECYCLED 2.0)』である。

©THE RIVER

会場内でも度々、協賛として「映画『ヘラクレス』」とアナウンスされ、来場者に配布される特製バッグにも堂々とロゴマークが掲載されたこの『ヘラクレス2.0 リサイクル』とは一体何だったのか。独自に取材してわかったことをまとめたい。

「東京コミコン2017」噂の『ヘラクレス』ブースはこんな所だった

「東京コミコン2017」への来場が果たせなかった読者のために、いかに『ヘラクレス2.0 リサイクル』ブースが謎めいていたかをお伝えしよう。

幕張メッセ9・10・11ホールで開催された「東京コミコン2017」会場内では、様々な企業や作品がブースを出展する。「東京コミコン2017」への出展料は、当然ながら敷地面積に応じて料金が高まる。そのためメジャー作品やメーカーは巨大なブースを出展していたが、それらと然程劣らぬ面積で大胆な出展を果たしていたのが、この『ヘラクレス2.0 リサイクル』だ。

巨大なパネルには、筋肉隆々のギリシャ人が鉄の鎖を引きちぎっており、左側には、トラックのフロントガラスのようなものをサングラス代わりにした恐竜が、右側には幼稚園児の落書きをそのまま現実化したような、眼が11個もある謎の怪物が描かれている。2枚設置されたTVスクリーンは50年代風のチープでスロウな西洋アクション映画を再生しており、関係者と見られる人物がのんびりしている。初老の白人男性の前には、手書きで「監督」と書かれたカードが掲げられていた。敷地内にはTVスクリーンと長机が2台、パイプ椅子が数台に、記念写真用のスクリーンパネルが設置されているだけで、床を走る延長コードがスペースを持て余している。ブースでは身長2メートルはあろう筋肉隆々のボディビルダー風の白人が、やはりギリシャ人風の衣装をまとってポーズを決めている。なんだかよくわからないが、このマッチョマンと記念写真を撮るために、そう短くない行列まで発生している…。

©THE RIVER

取材してわかったこと

一体この『ヘラクレス2.0 リサイクル』とは何なのか。手元のスマホを使ってネット検索をしても、情報らしい情報が全く見つからない。世界最大の映画データベースサイト「IMDb」をあたっても、あまりカバーされていない様子である。全くもって謎でしかないこのブース、THE RIVERとして取材しないわけにはいかなかった。

数名の外国人スタッフと謎のマッチョマンの中、ただ1人スタッフとして参加している日本人男性に声をかけてみた。東京コミコン2017の2日目の出来事だったが、男性によると「こうして真面目に声をかけてくれたのはあなたが2人目」だという。

『ヘラクレス2.0 リサイクル』とはどんな映画なのか。日本人男性スタッフも「意味がわからないですよね」と自虐気味に語るほど、その成り立ちは荒唐無稽である。まず、1958年に『ヘラクレス(Hercules)』、翌59年に『ヘラクレスの逆襲(Hercules Unchained)』という映画が存在した。(※追記:1958年のオリジナル版はスティーヴ・リーブス主演のもので、シルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ドウェイン・ジョンソンに多大な影響を与えた作品であった。)この2作をマッシュアップさせた『ヘラクレス リサイクル(Hercules Recycled )』なる映画が1994年にビデオ化され、更に全く関係のない5本の別の映画もマッシュアップさせてしまったのがこの『ヘラクレス 2.0 リサイクル』なのだという。実は今作はまだ完成もしておらず、2011年ごろより延々と制作をしているのだそうだ。

『ヘラクレス 2.0 リサイクル』には、予告編映像が存在する。以下がその映像だが、スタッフによれば「これを観ても結果何なのかよくわからない」という代物だ。ひとまずご覧いただきたい。

50年代に制作された映像に、オナラやゲップ、笑い声など低俗なアテレコを加えたこの予告編では、「カミング・スーン」と語られているにも関わらず、Youtube上の公開日は2012年10月となっている。「東京コミコン2017」ブース内で繰り返し再生されていた映像には、この映像に更にCGによるチープなエフェクト(合成丸出しの爆発や爆風、謎のサングラス、特撮映像など)が加えられ、形容しがたいクレイジーな風体を醸していた。なるほど、リサイクルとはそういうことか。

※追記:会場で再生されていたと思われる最新の映像が発見された。

https://youtu.be/YY3wLp4HRTI

配給会社と出会うのが目的

何となくわかったような、まださっぱり掴めないような…、ますます混乱してきたところで、手書きの「監督」カードの前に座るドン・モリアーティ監督に取材してみた。

©THE RIVER

なぜ、「東京コミコン2017」への出展を決めたのか。監督によると、配給会社を探すのが目的だという。監督は本作が完成した暁には日本での上映を希望しており、「東京コミコン2017」ではビジネス的な出会いにも期待して、はるばるアメリカはユタ州からやってきたのだそうだ。本作は、アメリカでも上映が決まっていないのだという。

さらにドン監督には独自のヴィジョンがあり、「日本人はアメリカのヘンテコなものが好きだろう?」という。そのため、あえて字幕版ではなく、日本人のお笑いセンスを押さえたユニークな吹替版を制作したいと語っていた。「…と思うんだけど、どうかな?字幕版も作るべきだと思う?」と、まだまだアイデアも固まっていない様子で、筆者も意見を求められた程だ。とりあえず、「両方作ればいいんじゃないの?」と答えておいた。

©THE RIVER

ところで、ブース内でポーズを取りまくるこの歪みねぇマッチョマンは出演者なのか?尋ねたところ、「作品と全く関係ない」そうで、「本人も日本で人気が出たら嬉しいな、くらいの気持ちで付いてきた」そうだ。

『ヘラクレス2.0 リサイクル』とは

ステージイベントもブースも盛り沢山の「東京コミコン2017」2日目の取材を終え、充実した気持ちで帰宅した筆者だったが、『ヘラクレス2.0 リサイクル』の謎が不思議と頭を離れない。思い返してみよう。まだ誰も知らない作品、「東京コミコン2017」ではその魅力を大々的にアピールする絶好の機会なのに、ブースを訪れても得られる情報がほとんど無いのである。来場者が持ち帰れるパンフレットや、関係者に手渡せる資料も一切用意していない。唯一パネルに掲載された日本語紹介も、下記にわずかに書き写せる限りだった(原文ママ)。

2018年、夏、日本に
史上最狂のアクションてんこもりコメディアドベンチャーがやってくる!

  • 7つものジャンル!
  • 1950年代のリマスター版より構成された
  • 新しく生まれ変わったギャグストーリー
  • 170もの映像技術!
  • 原作では見れない名優たち
  • 面白おかしなセリフ、曲、効果音満載の新規サウンドトラック
  • HDグラフィックでよみがえる!

そして、パネルに掲載された本作の「物語」はこんなものである(原文ママ)。

2032 AD、第3次世界大戦の壊滅的な核による大惨害から数年、すべての自然資源は枯渇、もしくは破壊され、近代技術も、無制限な混沌へと変わってゆく人間性とともに消え去った。

たった一人の人間が、この荒廃した世界を冒険しその失われた公式を見つけ出す勇気と強さを持っている。男の中の男、女の理想像、以前はダイエット番組の司会を務めていた、その名は、バート ギャラクシ。

…いまだかつて、こんなにも興味をそそられないストーリーがあっただろうか。何もかもがツッコミ待ちとしか思えない『ヘラクレス2.0 リサイクル』、「東京コミコン2017」であれほど目立っていたにも関わらず、プレス取材で会場入りした他の映画メディアはどこも触れていない気配である。筆者にとって、これほどクレイジーなネタが手付かずである点も堪らなかった。翌日、再びブースを訪れることにした。

今後が気になる?

©THE RIVER

「東京コミコン2017」3日目、オープニング・ステージではマイケル・ルーカーが大暴走を見せ、DCTVシリーズの豪華声優陣が集結を果たしたステージを立て続けに取材した後、過密な取材スケジュールの間を縫って『ヘラクレス2.0 リサイクル』ドン監督の元を再び訪れた。

「君か!また来てくれて嬉しいよ!」この日もどちらかと言うと退屈そうにしていたドン監督は、筆者を見つけてハイタッチで喜んでくれた。日本配給に繋がるコネクションは得られたかと尋ねると、一応は某配給会社の人物と接触出来たという。それは良かった。突然「靴のサイズはいくつだ?」と尋ねられたので答えると、『ヘラクレス』ロゴ入りのサンダルをプレゼントしてくれた。それに、何故か「サンダンス(Sundance)」のTシャツも土産に持たせてくれた。

『ヘラクレス2.0 リサイクル』はまだ完成もしていないし、本編も観たことがないが、「50年代の映像を”リサイクル”して、チープなエフェクトを描き足したクレイジーなマッシュアップ・ムービー」というコンセプトは面白く感じた。続編でもリブートでもない、リサイクルである。アイデア次第では、リサイクルしたものが全く新しいエンターテイメントに生まれ変わる可能性もあるし、もちろん粗大ゴミになる可能性もある。

だが、本プロジェクトの醍醐味は作品それ自体よりも、”ビッグ・イン・ジャパン”を夢見てはるばる東京を訪れた彼ら自身にある気がした。何せ今回の「東京コミコン2017」出展には、諸々含めておよそ1億円ほどかかったという。(これも本当かどうかわからないが…、出展ブースの規模から察するに、少なくとも多額を投じていることは事実だ。)彼らを追ったドキュメンタリーを制作すれば、映画『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』(2009)のような笑いと哀愁、そして人間の原理的な感動を呼び起こす作品に仕上げられる可能性もある。

言わば『ヘラクレス2.0 リサイクル』は、笑いと感動の原石である。せっかく「東京コミコン2017」に出展したのに、国内メディアが誰も手を付けていないというのはある種の悲劇だ。もしもコンテンツ制作関係者がこの記事を読んでいたのなら、是非共に彼らを追ってみるというのはどうだろうか。少なくとも彼らには「ツッコミ」役が必要であることは間違いない。ブースでは筆者がその旨の熱弁を試みると、ドナルド監督は「どんどんアイデアを出して欲しい、私はとてもオープンなんだ」と両手を広げてくれた。

『ヘラクレス2.0 リサイクル』は粗大ゴミになるのだろうか。THE RIVERでは、今後も出来得る限り本作に着目していきたい。もしも反響や希望の声があれば、より詳しく監督にインタビュー取材をしてみるのも良いだろう。

映画『ヘラクレス2.0 リサイクル』は2018年夏の日本公開を目指しているが、その実現は我々の手にかかっている…かもしれない。

公式ツイッター:@HercRecycled2 (フォロワー24人、最終ツイート2015年 ※記事公開時点)

Writer

アバター画像
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly