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『TENET テネット』音楽を読み解く ─ 記者会見レポート、『ブラックパンサー』気鋭作曲家の実験とは

TENET テネット
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』が2020年9月18日(金)に公開される。これに先がけて、本作の豪華キャスト&スタッフが参加した記者会見が開催された。THE RIVERでは、この会見の模様をテーマごとに整理して余すところなくお届けする。

第3回は「音楽編」として、『ブラックパンサー』(2018)「マンダロリアン」(2019-)と注目作が続く気鋭の音楽家ルドウィグ・ゴランソン、そしてクリストファー・ノーラン監督によるコメントをご紹介。初タッグの裏側では、いったいどんな作業が行われていたのか?

『TENET テネット』の音づくり

── ルドウィグ・ゴランソンに質問です。とても素晴らしい、まるで映像に編み込まれているかのような、作品の心拍を担うスコアでした。監督とはどのような話し合いをしましたか? 脚本を読んだ時の反応も教えてください。

ルドウィグ・ゴランソン:スコアには随分早い段階から取り組んでいて、撮影が始まる6ヶ月前くらいから作業を始めました。脚本を読んだら、誰も観たことのない、体験したことのない世界だということが分かったので、これは新しいサウンドとクオリティが必要だなと。誰も聴いたことのないサウンドを提供しなければならないと思いましたね。最初は週に一度、クリスと話しながらデモトラックを作り始めました。クリスのオフィスに行って、デモを流して、そこから映像に合いそうな音と、そうでない音を選別する。自分たちだけの音の世界を作り始めたんです。

撮影が始まってからも、3週間に一度は監督からメールが届きました。世界中のあちこちから「君の曲を聴いたよ」と連絡してもらえるので、そのつど(作業を)思い出しましたし、終始コラボレーションをしている感覚でしたね。撮影が終わると、クリストファーとジェニファー・レイム(編集者)が編集に取り掛かったので、僕も毎週金曜日には映画を通して見ていました。30回、いや50回は繰り返したような気がします。すべての登場人物が多層的に描かれている作品なので、そのプロセスがあったからこそ、映画をきちんと理解できたし、登場人物を分析できたのだと思いますね。

── 様々な機材で音を作られているようですが、深い重低音などは、どんな楽器や機材を使用されたのでしょうか?

ゴランソン:いろんなものを使っていて、中にはオーガニックなものもありますよ。僕は、よく知られた音や身近な音を使いながら正体不明のサウンドを作るのが好きなんです。最初のころ、クリスとはよく、ギターをいろんな方法で使いたいんだと話していました。だからギターを使った実験をたくさんやったんですよ、あれこれ機材を使ってみたり、エフェクトをかけたり、音源をいじったり。だからスコアの大部分はギターの音や、正体不明の環境音。それから、人の呼吸音も使っています。マイクに向かって思いっきり呼吸しているんですけど、これはクリスのアイデア。悪役の出てくるシーンで聞こえるのはクリス自身の呼吸音なんですが、音をいじくり回して、不快で耳障りなものに仕上げています。

TENET テネット
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

── ノーラン監督はスコアのデザインを含め、様々な作業に積極的に関わっているのですね。

クリストファー・ノーラン:音楽と映画全体のサウンドデザインを密接に繋げることは、私が一番大事にしていることのひとつ。そこで早い段階から、サウンド・エディターのリチャード・キングとルドウィグには協業してもらいました。だから進むべき場所は最初から分かっていたのです。ルドウィグの素晴らしさであり、私が楽しんだところは、ゼロから音楽を作りあげるというアプローチ。過去に見聞きした何かを想起させるものが一切なく、すべてが新鮮でしたね。

彼の作るサウンドは、昔ながらの映画音楽のサウンドデザインよりも機能的だし、非常にサブリミナル的なところがある。もちろん情緒的なところはあるし、映画のテーマを駆動させたり、観客を盛り上げたりする要素もあるけれども、音自体の特徴や、その音がどう作られたかという点にサウンドの効果があるんです。それが映画のDNAにはしっかりと織り込まれていますね。

早くからルドウィグに作業を始めてもらったのには理由があって、それは私が普段、映画の編集時にテンプ・ミュージック(temp music)を使わないから。つまり、他の映画や過去の作品から音楽を借りてきて、作曲家に「こういうのがいいな」などと頼むようなことはしないんです。だからルドウィグにデモや音楽を作ってもらう必要があって、おかげでオリジナルのデモ曲を編集で使うことができました。こうすると、物語から逸脱したところが一切なくなるし、音楽と全体のサウンド、それから作りたい世界観がきちんと密に融合するんですよ。

〈時間〉から脱出して、世界を救え。名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は、突然あるミッションを命じられた。それは、時間のルールから脱出し、第三次世界大戦から人類を救うというもの。キーワードは〈TENET テネット〉。名もなき男は、相棒(ロバート・パティンソン)と共に任務を遂行し、大いなる謎を解き明かす事が出来るのか……。

映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)全国ロードショー

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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