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『TENET テネット』キャラクターを読み解く ─ 記者会見レポート、出演者が語るノーラン流の人間ドラマ

TENET テネット
© 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』が2020年9月18日(金)に公開される。これに先がけて、本作の豪華キャスト&スタッフが参加した記者会見が開催された。THE RIVERでは、この会見の模様をテーマごとに整理して余すところなくお届けする。

第2回は「キャラクター編」として、ジョン・デイビッド・ワシントンロバート・パティンソンエリザベス・デビッキケネス・ブラナーによる役づくりのエピソードや解釈、ノーラン作品に参加した感想など、あらゆる角度から謎に包まれた作品に迫ってみたい。ちなみにTHE RIVERからの質問も選ばれているので、そちらも要チェック!

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『TENET テネット』のキャラクターたち

── ジョン演じる“主人公”の「名もなき男」にはどのような動機があるのでしょう?どう解釈されましたか。

ジョン・デイビッド・ワシントン:彼は「人類はきっと前進できる」という信念の持ち主で、その信念のためならば、自らの命を犠牲にしても良いと思っているのだと思います。それがまさに彼のTENET(信条)であり、彼を突き動かしているのでしょうね。おそらく彼は、そういう意欲や人間への愛情を買われて若い頃にスカウトされたのだと思います。それは彼の脆さだけれども、強みであり、武器としても扱えるもの。すごく繊細な人物なのかもしれません。

── ロバートの演じたニールは、劇中で“あること”が明かされる人物ですが、そのことは演技に影響を与えましたか。

ロバート・パティンソン:ニールにはあらゆる面があって、それをどう説明していいのかは僕にも分かりません。ただし彼の場合、自分の多面性にはやけに自覚的なので、それも役の意識に取り入れながら演じる必要がありました。こういう役を演じるのはとても珍しいのですが、非常に読み解きづらく、ややこしいキャラクターに挑むのは面白いですね。とても複雑に入り組んだ世界を生きる人物なのだと分かれば、カオティックな状況を楽しむ人物として演じられるようになりました。それは、他の人物を測る基準のようにも思うんです。つまり、“主人公”が向き合いづらい状況に直面していて、また真実が人々の知りたくないものであっても、ニールはそれさえ楽しんでいる。「こりゃ最高だ、悪夢の中を生きるのっていいよね」って(笑)。

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── ロバートに質問ですが、昔からクリストファー・ノーランと仕事をしたいと思っていましたか?

パティンソン:えっ……ええ! もちろん。(一同笑)

── 「いいえ」とは言えませんよね(笑)。

パティンソン:クリス(ノーラン)は仕事をしたかった監督の一人ですが、今回は青天の霹靂でした。昔から作品を観ているし、映画を楽しみにしているものだから、どういうわけだかファンのような気持ちになって、「あの人は僕の手が届かないところにいる」という感じがする(笑)。おかしな感覚ですが、そんな機会が巡ってくるなんて考えたことがなかったんですよね。いざチャンスに恵まれたら、まるで別世界にいるような気分でした。

── エリザベスに質問です。演じられたキャットという女性はどんな人物でしょうか?

エリザベス・デビッキ:私が思うに、キャットは多くの矛盾をはらんでいます。初めて脚本を読んだ時、彼女のことがとてもリアルに感じられたし、葛藤をたくさん抱えているように思えた。彼女がたどることになる、非常に複雑な心理面の変化もすごく興味深かったです。関わるはずがなかっただろう事態に巻き込まれ、“主人公”やニールとの関係性を構築する中で、キャットは自分自身を発見していく。それは自分の力を見出していく道のりでもあって、私はすごく良かったと思っています。自分自身の自由のために戦い、主体性をもって行動する女性を、このジャンルで描けたことも素晴らしかったですね。彼女は夫に束縛されているのを理解していて、その現状は自分にも原因があると考えている。囚われていた人生を少しずつ解放しようとしていて、今では自分と息子の自由を求めているんです。

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── あなたはいつも力強い女性像を演じられていて魅力的ですが、役を選ぶ際にはそのような点を意識されているのでしょうか?

デビッキ:はい。だけど興味深いもので、「強い女性」にも、力の源泉や形、見え方には様々な形があります。たとえばキャットにも強さはあって、そのことは(物語が進めば)どんどん明らかになっていきますが、これはクリスの脚本によるところが大きいんです。それは、容赦ないほど実直にキャットの物語を描いているから。スパイ映画というジャンルで、クリスや私がキャットという女性をこうやって表現したのは画期的だと思います。それが私には重要なことだったし、演じていてとても楽しいところでした。私は必ずしも強い役柄ばかり演じてきたわけではないんですが、そういう時にも外面から(人物の)芯をあぶり出すように演じています。それはそれで面白いんですよ。

── ノーラン監督の現場は想像通りでしたか?

デビッキ:撮影前はプレッシャーと恐怖でいっぱいでしたが、それはすぐになくなったので良かったですね。非常にダークなところがある物語で、精神的にもすごく大変な役柄だったし、新しい挑戦もたくさんありましたが、撮影現場では共演者に恵まれて、本当に楽しい経験ができました。ロバートとジョン・デイビッド、ケネス(・ブラナー)は、みなさん本当に素晴らしかったし、ものすごく笑わせてもらいました。楽しい毎日にしてくださって、本当に感謝しています。それから、クリスを目の前にして言うんですけど、本当に素晴らしい監督で、すごい集中力だし、私たち俳優にゆとりを与えてくれて、しかも限界に挑戦させてくれました。とてもありがたかったです。

── ジョン・デイビッドとロバート、エリザベスは非常に相性が良いと感じたのですが、リハーサルを入念に重ねられたのでしょうか。

デビッキ:ええ、リハーサルではたくさん話し合いました。だけど、何よりも私が思うのは──お二人もそうだと思いますが──脚本によるところが大きいということ。三人の関係性がしっかりと描き込まれているので、あとは撮影しながら、みんなで発見していったように思いますね。キャットと二人には独特の関係性があって……キャットは“主人公”やニールの言うことに耳を傾けて、学ばなければいけないんです(笑)。みんなでとても生き生きと演じられたし、楽しかった。それから私は、俳優としてジョン・デイビッドやロバートに学ぼうという意識がありましたし、彼らの世界に入っていく感覚もありましたね。そういうことが三人の関係性に反映されたのかもしれません。

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── 悪役のセイターを演じたケネス・ブラナーに質問です。役柄について、監督とはどんな話し合いをされましたか?

ケネス・ブラナー:彼という人間についてはすべて脚本に書き込まれていました。クリスは素晴らしいキャラクターを生み出したと思います。信念をもって無責任なことをする、そのせいで人類に恐ろしい出来事が起こる、そんな男です。セイターは(ファウストのように)悪魔との取引をして、絶大な力を手に入れ、その代わり、とてつもない孤独という呪いを受ける。完成した映画を見て、エマ(・トーマス/プロデューサー)には「自分の姿を見ていて本当に怖かった。素晴らしいキャラクターだ、そうクリスに伝えてください」と話しました。とても良く書かれた、オリジナリティあふれるキャラクターで、挑戦できて光栄でした。最高の経験でしたよ。

また、エリザベスが言ったことにも重なりますが、素晴らしい共演者たちに恵まれました。俳優がよく口にする言葉だけど、これは本当ですよ。それからクリスもエマも、ものすごいスケールのものを作っているのに、落ち着いていて、まったく声を荒げないし、声色や身振りに変化がない。どうすればそんなふうにできるのか分からないけれど、僕たち役者は安心して取り組むことができました。それに、クリスは〈時間〉がテーマの映画を撮っているせいか、現場でも時間の操っているよう。現場に5,000人のスタッフがいても、まるでこちらにだけ関心があるみたいに振る舞ってくれるので、本当にうれしいですね。二人とも魔術師ですよ。

── ジョン・デイビッドが笑っています。なにか付け加えたいことはありますか?

ワシントン:いえ、ケネスに会えたのがとにかく嬉しくて(笑)。みなさんが言っていることと同じですが、これほどアーティストとして支えられていると思えたのは初めてでした。とにかく挑戦させてもらえて、失敗しようが何だろうが、あれこれ試すことができる。肉体的な挑戦も大きい役でしたが、やり遂げられたのはみなさんのおかげだし、現場の環境のおかげです。とにかく大笑いで、ランチの話でも爆笑してましたね。おかげでさらに楽しい経験になりました。

ブラナー:ランチの話って? 撮影中、君はランチなんてまったく取ってなかったでしょ(笑)。

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── セイターという人物は、あなたの演技によって非常に深みのある人物になっていたと思います。“悪”を演じる上で大切にしていることを教えてください。(THE RIVER)

ブラナー:セイターが“悪”だということはあまり考えないようにしていました。僕が思い出したのは、あるイギリスの若手下院議員が大学に入り、そして政界に入った時の記事を読んだこと。彼が言ったという、「輝かしいものはすべて手に入れてやる、そう決意した」という言葉を覚えていたんです。 ファウストの伝説にも描かれているように、巨万の富を入れるためならば、多大な犠牲を払うことも厭わないという人間は存在しますよね。

とてつもない野心とは、ある意味では貪欲さだけれど、また別の意味では、自分が交わした契約の代価はいずれ払わなければならないということ。つまり、恐ろしい行為に出る人物でさえ、大きな弱点は生まれうるのだと思います。僕はクリスの脚本をそのように解釈しました。ただし、そういうこと以上に大切なのは、クリスのように、指先までアーティストたる人物と仕事ができること。『ダンケルク』(2017)の時も同じでしたが、とても素晴らしかった。心から尊敬できる、信頼できる人と出会えれば、あとは現場に行って、その場に任せればいいと思えるんです。

第1回「ストーリー編」

〈時間〉から脱出して、世界を救え。名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は、突然あるミッションを命じられた。それは、時間のルールから脱出し、第三次世界大戦から人類を救うというもの。キーワードは〈TENET テネット〉。名もなき男は、相棒(ロバート・パティンソン)と共に任務を遂行し、大いなる謎を解き明かす事が出来るのか……。

映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)全国ロードショー

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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