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【解説】映画『ザ・バットマン』予習・深堀りにおすすめのアメコミ4作まとめ ─ 映画の原案、読んでおけばもっと楽しい

映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』がついに公開となった。バットマン2年目の日々を描く全く新たな本作は、特別な予備知識がなくとも楽しめる作品。一方で本作には原案となったとされる原作アメコミもあり、これらを読むとより深い味わいが得られるようになる。

そこで今回は、『ザ・バットマン』の予習や深堀りにオススメしたい原作アメコミ4作をご紹介。マット・リーヴス監督ら映画の製作陣が影響を受けたと公言している『イヤーワン』『ロング・ハロウィーン』『エゴ』に加え、『ザ・バットマン』にインスパイアされて製作されたという『インポスター』についてまとめる。

『バットマン:イヤーワン』

1985年、当時創立50周年を迎えたDCコミックスがリブートとして世に放った名作。ライターは、そのハードボイルドさにおいて右に出るものはいない伝説的アーティストのフランク・ミラーだ。『バットマン:ダークナイト・リターンズ』や『シン・シティ』、『デアデビル』シリーズなどで知られる現代最高峰のコミックアーティストである。イラストレーターはフランク・ミラーと共に『デアデビル:ボーン・アゲイン』などを手掛けた名匠デビッド・マッズケリ。

映画『ザ・バットマン』はバットマン2年目(Year Two)を描く物語。ヴィレッジブックスの邦訳コミックでは、『イヤーワン』と『イヤーツー』が1冊にまとめられているから、『イヤーツー』の方がベースになっていると思われるかもしれない。

しかし製作陣は『イヤーワン』からの影響を主に公言しており、作品の内容としても、どちらかといえば『イヤーワン』の方に通ずる部分が多い。リブート作になっているので、この1冊だけ持っておいても、バットマンのオールドスクールな魅力を堪能することができる。

物語は、ジェームズ・ゴードンとブルース・ウェインが同じ日にゴッサムシティに到着するところから始まる。ゴードンは異動のためで、25歳のブルースは12年の海外訓練から帰ってきたということになっている。

治安は最悪、おまけに腐敗しきった警察組織の中で、ゴードンは身をもって「ゴッサムの流儀」を学んでいく。一方ブルースは幼い頃に両親を殺されたトラウマから、恐怖の象徴としてバットマンになることを決意。チンピラとの間一髪なデビュー戦も描かれている。

バットマンとジェームズ・ゴードンとの出会いや、カーマイン・ファルコーネと汚職政治家たちの付き合い、キャットウーマン/セリーナ・カイルの登場など、『ザ・バットマン』はこの『イヤーワン』を下敷きのひとつとしていることは明らか。日付と共にジャーナル風に語るモノローグや、オートバイで疾走するブルースなど、映画同様の要素も多数ある。光と陰のコントラストが美しいレトロなアートは、グリーグ・フレイザーによる『ザ・バットマン』の撮影スタイルに多大な影響を与えたものだと実感できるだろう。

同時収録の続編『イヤーツー』ではアーティストが交代しているので(ペンシラーは『ヴェノム』や『スポーン』のトッド・マクファーレン)作風がガラリと変わる。リーパーと呼ばれる連続殺人犯との戦いを描く本作は、バットマンが自身の両親を射殺した犯人と向き合ったり、サイドキックのロビンが登場したりと、バットマンの歴史を語る上で外せない作品となっている。

『バットマン:ロングハロウィーン』

邦訳版はヴィレッジブックスより「Vol.1」「Vol.2」の2冊が発売されている大作。『イヤーワン』の続編に当たるので、あわせて楽しむのがオススメ。

実は『ロングハロウィーン』は、クリストファー・ノーランの『ダークナイト』トリロジーにも極めて重大な影響を与えた作品。バットマン映画の二大巨編のルーツとなっているわけだから、ファンは必読だ。『ザ・バットマン』のハードボイルドな作風は『イヤーワン』的だったが、謎が謎を呼ぶスリラー/探偵要素は、こちらの『ロングハロウィーン』譲りという印象。

ハロウィーンの夜に始まった謎の連続殺人事件。サンクスギビング、クリスマス、大晦日、バレンタインデーと、カレンダー上のイベント日ばかりを狙って次々と事件が起こる。世界最高の探偵であるバットマンは、ゴッサム市警のジェームズ・ゴードン、そして検察官ハービー・デントと手を組んで、三位一体で事件の真相解明に当たる。

正体不明の殺人犯「ホリデー」の正体に迫る極上ミステリー。映画『ザ・バットマン』のような謎解きの楽しさをたっぷり堪能できる。映画に登場したカーマイン・ファルコーネやリドラーといった面々も登場。さらにジョーカーやポイズン・アイビーも物語をかき乱していく。

ティム・セルによる大胆なアートにもうっとりしながら、あっと驚くラストまで、ページをめくる手が止まらない。2巻構成で読み応え抜群だ。

『バットマン:エゴ』

『ザ・バットマン』では、犯罪に両親を奪われたブルース・ウェインの内なる葛藤が描かれた。まだ若きブルースは己の中にある激しい感情と折り合いがつけられていない。そんなブルースの内なる戦いの着想元となっているのが、この『バットマン:エゴ』だ。

犯罪との戦いに明け暮れるバットマンはある夜、バスターという人物からジョーカーの居場所を割り出し、ジョーカー逮捕にこぎつける。しかしバスターは、出所したジョーカーが報復のために自分の妻と娘をいたぶって殺めることを恐れ、自らの手で家族を殺してしまう。そして「地獄で会おう、覆面のイカれ男」と言い残し、バットマンの目の前で拳銃自殺をする……。

罪のない妻子を救えなかったバットマンは罪悪感に苛まれ、「復讐に燃えるバットマン」と「理性的なブルース・ウェイン」に精神が分裂。ブルースは邪悪で怪物のようなバットマンと自らの幼少期に立ち返り、やがてジョーカーやトゥーフェイスといった最悪のヴィランたちの誕生にも立ち会っていく。内省的な描写やオリジンへの触れ方が、いかに『ザ・バットマン』へ落とし込まれていたかがわかる。

描いたのは2016年に肺がんで他界した伝説的アーティストのダーウィン・クック。アニメ業界出身であるダーウィンは、アニメ的なデフォルメされた画風が魅力で、数々の傑作を生み出している。『バットマン:エゴ』は短編作品で、ShoPro Booksより発売されている本書は他にも『ここに怪物あり』『セリナーズ・ビッグ・スコア』『モニュメント』『デートナイト』『デジャ・ヴ』『クライム・コンベンション』『キリング・タイム』といった短編が収録されている、ボリューミーな一冊だ。

映画にも登場したキャットウーマンの活躍を描いたエピソードや、ハーレイ・クインのキュートな魅力が炸裂するエピソードもある。十数ページの気軽に読める作品から、全編モノトーンの研ぎ澄まされた作品まで、ダーウィン・クックの描くバットマンの様々な物語が楽しめるので、ぜひ手にとってみてほしい。

『バットマン:インポスター』

こちらは『ザ・バットマン』に影響を与えた作品ではなく、『ザ・バットマン』から影響を受けて描かれたコミックなので、番外編としてご紹介させていただこう。

本書『バットマン:インポスター』は、どのDCユニバースにも属さない、独立した読み切り作品だ。ある意味、「もう一つの『ザ・バットマン』」として楽しんでもいいかもしれない。

映画はバットマン2年目の物語だったが、本作はブルース・ウェインのバットマン3年目の物語。まだまだ犯罪との戦いに苦戦を続けるブルースだが、本作でブルースが頼るのはアルフレッドではなく、レスリーという名の精神科医。ゴッサム市警刑事のジェームズ・ゴードンはバットマンと不適切な協業を働いていたということで前年に左遷されたことになっており、本作では不在だ。

ゴッサム・シティに偽物のバットマンが現れ、早期釈放された犯罪者たちを次々と殺害するという事件が起こる。ゴードンがいないため警察の持つ情報にアクセスできないブルースは、新たに登場した若き女性刑事のブレア・ウォンに接近し、事件の真相に迫っていく。正体不明、偽のバットマンの正体やその目的に迫るクライム・ミステリーだ。劇中でバットマンが「ザ・バットマン」と呼ばれているところも興味深い。

本書のページを開けば、まずはその美麗なアートに驚くことだろう。キャラクターたちは実写をトレースしたような写実的なタッチで描かれており、映画『スキャナー・ダークリー』に代表されるロトスコープ・アニメを見ているかのような不思議な感覚を味わえる。

キャラクターデザインには様々な要素を感じられる。例えばブルースは、横顔は『ザ・バットマン』のロバート・パティンソンを思わせる哀愁があるし、正面の顔は『バットマン フォーエヴァー』のヴァル・キルマーっぽい。精神科医のレスリーはどことなく『スーサイド・スクワッド』のヴィオラ・デイヴィスに似ている。回想シーンに登場するペンギンは『バットマン リターンズ』のダニー・デヴィートを踏襲しているようだし、『フォーエヴァー』のジム・キャリーに似ているようなキャラクターもいる。ほか、どう見ても豊川悦司をモデルにしたのではないかと思われるキャラクターも登場する。

唯一無二のバットマン流ミステリーを堪能できる、非常に完成度の高い一作。『ザ・バットマン』の洗練された現代的なトーンをもっと楽しみたいという方にオススメだ。

選ぶならどの一冊?

本当なら全4作すべて楽しんでいただきたいところだが、邦訳アメコミ書は日本の漫画単行本と比較するとやや高額なこともあり、「まずはどれか1作」とお考えの方も多いはず。それぞれ作風が全く異なるので、アート面では「好み」の要素もありつつ、ざっくりと以下のようにご提案させていただこう。

『ザ・バットマン』を観て:

  • ハードボイルドな雰囲気が気に入ったなら……『バットマン:イヤーワン/イヤーツー』
  • 謎解きスリラーが気に入ったなら……『バットマン:ロング・ハロウィーン』Vol.1&Vol.2
  • ブルースの葛藤や、バットマンの様々な物語を楽しみたいのなら……『バットマン:エゴ』
  • 映画のように現代的なクライムスリラーを楽しみたいのなら……『バットマン:インポスター』

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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