ディープフェイクを悪用して防犯カメラ映像が改ざんされたら?ドラマ「ザ・キャプチャー」がえぐる最新のクライムミステリー

「現場近くの防犯カメラには、事件が起きた時間帯に不審な行動をとる人物が……」「警察が防犯カメラの映像の分析を進めた結果……」
防犯カメラについて、こうした報道を見かけることは多いはずだ。「カメラは嘘をつかない」とも言うし、犯行に繋がる行動や犯行現場が映像に残されていたなら、それは動かぬ証拠であり、真実である。
では、もしもその映像が、何者かによって捏造されていたものだとしたら?全く身に覚えのない罪で起訴されてしまったら……?そんな落とし穴をリアルに描いたのが、ドラマ「ザ・キャプチャー 歪められた真実」だ。
主人公のひとりは『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018)で主人公の兄テセウス役を演じていたカラム・ターナー。本作では、戦犯としての容疑が晴れて6ヶ月ぶりに解放された元英国兵士のショーンを演じている。

舞台は、街中のいたるところで防犯カメラの目が光るロンドン。優秀な女性弁護士ハンナの尽力によって無罪を勝ち取ったショーンは、祝賀パーティーの帰り道にハンナをバス停まで送る。惹かれ合っていた2人が別れのキスをすると、ハンナはバスに乗り込んで帰宅。ところがその後、ショーンの元に警察が乗り込んでくる。身に覚えのない「暴行と拉致」の疑いで再び勾留されたショーンが見せられたのは、防犯カメラに収められた衝撃的な映像だ。なんと、自分がハンナに暴行を加え、どこかに連れ去っているのである。
「こんなことは起こっていない!」「事実と違う!」必死で否定する絶叫も虚しく、再び手錠をかけられるショーン。一体、ショーンとハンナの間に何があったのか?防犯カメラの映像は嘘なのか?

全8話のこのクライムミステリーで、カラム・ターナーは無実を訴え続ける元英国兵のショーン・エメリーを熱演している。背後に巨大な陰謀が忍び寄っていることに気づかないショーンは、劇中通じて何度か囚われ、その度に命からがら脱出し、肉体的にも、精神的にも追い詰められていく。
ショーンがハンナとバス停で別れる場面を思い出そうすると、その度にハンナが命乞いをするような姿がフラッシュバックする。「あれは事実と違う。でも目を閉じて考えると、その場面が見える。なんでだ?」確かなはずの無実の記憶と、確かなものとされている有罪の証拠映像。ミステリアスな印象をまとうターナーが演じていることで、時として視聴者のショーンへの信用も揺さぶられる。

「ザ・キャプチャー」では、防犯カメラの映像を捏造し、無実の人物の犯行がでっち上げられる可能性の恐怖を描いているが、これは現実社会にも迫るテーマだ。劇中でも登場人物が「顔の合成ソフトは最近手近だしな。フェイクポルノで見るだろ」と説明しているが、いわゆる「ディープフェイク」をめぐる話題は、近頃の日本でも問題視されている。AI技術を悪用してアダルトビデオの出演者の顔を芸能人とすり替えた映像を公開していた容疑者が、実際に2020年に国内で逮捕されている。「ザ・キャプチャー」の題材も、ほんの数年前ならば近未来SF的な描かれ方をされていただろうが、これが現実的な問題になっているのだから、戦慄だ。警部補レイチェル役のホリデイ・グレインジャーも「初めて脚本を読んだ時は現実的ではなく未来の問題だと思った。でももう違う。現実に多少なりとも起こっている」と話している。
もし、「ディープフェイク」を悪用して、有名人やあなたの身近な人が悪事を働いているように捏造された映像に出会ったら、あなたは適切な判断ができるだろうか?もし、あなた自身が犯罪を犯しているように捏造された映像が出回ったら、あなたは無実を証明できるだろうか?ネットやSNSに浸かった私たちは、デマやフェイクニュースの危険性から逃れることはできない。2021年の今こそ、真剣に観ておくべきドラマとなっている。
また、街中のいたるところに設置された防犯カメラが作り出す「監視社会」をめぐる議論は実際にある。ドラマの舞台となるイギリスは、中国に次いで最も防犯カメラが多いとされる国で、国民11人あたり1台のカメラが見張っているとされている。

ドラマでは、街中のカメラを通じて人々の様子を監視する職員の姿が描かれるが、これは現実でも同じだ。実際のモニタリングセンターで働く職員は、「容疑者の第一目撃者になれて、警察の捜査を正しい方向に導くことができる」ことがやりがいだと、英BBCに話している。また、ドラマではショーンが顔認証データベースから身元を特定される描写があるが、これも実際に行われている捜査手法。「顔認証が”ウォッチリスト”の人物と一致した場合、(捜査が)介入する」と話すのは、英政府で防犯カメラの理事を務めるトニー・ポーター氏。誰がこのテクノロジーをコントロールするのかについて、「警察か?それとも民間企業か?曖昧な点が多すぎる」と疑問を投げかけている。
「どのような種類の監視であっても、常に適切な倫理規範と行動規範を遵守し、その境界線の中で活動しなければならない」「監視は広大で多様なテーマであり、法律や技術的な問題だけでなく、時に感情的で社会的な問題を起こすこともある」と、ポーター氏はその線引に慎重だ。「ザ・キャプチャー」は、その境界線を超えられ、まさに感情的な問題が巻き起こる。防犯カメラによる監視は、倫理的に適切なのか?衝撃的なラストを経て、既にシーズン2の製作も決定している注目のシリーズだ。
次々と飛び出す衝撃的展開に翻弄されながら、痩せ細っていく信念をなんとか絶やさずに戦う主人公ショーンを演じたカラム・ターナーのほかにも、有名映画やドラマで知られる豪華キャストが集結。事件を担当する警部補レイチェル・ケアリーを「私立探偵ストライク」(2017-)のホリデイ・グレインジャーが、疑惑の映像を最後に姿を消した弁護士ハンナ・ローバツを『トランスフォーマー/最後の騎士王』(2017)のローラ・ハドックが演じる。

また、レイチェルをサポートするロンドン警視庁の警視長ダニー役とテロ対策司令部の警視ジェマ役を「ザ・クラウン」からダニー・ハートとリア・ウィリアムズが、CIAのリーダー役は『ヘルボーイ』シリーズのロン・パールマンが務めている。さらに謎の人物役として、『X-MEN』シリーズからファムケ・ヤンセンも参戦している。
私たちが見ているものは真実なのか?捏造された映像の裏に潜む巨大な陰謀とは?謎が謎を呼ぶミステリーに、あなたも必ず呑み込まれてしまうはず。「ザ・キャプチャー 歪められた真実」は2021年6月21日(月)より「スターチャンネルEX」にて全話一挙配信中だ。

参考:BBC,IFSEC GLOBAL