【インタビュー】『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』監督が語る「打ち明けられない秘密」の悲喜劇 ─「ポルノ映画ではありません」

警官を敢えて正確に捉えず個性的に仕上げているのは、男性の警官達が事件の真相を突き止めるみたいな作品にはしたくなかったからです。婦警を描く上では、自分の母親や祖母、叔母などから着想を得ました。つまり、最初の脚本では女性ですらなかったんです。ただ、女性に書き直した時、物語に更なる磨きが掛かりましたよ。
──監督自身が、色々な意味で一番個性的なディック・ロング役を演じていますよね。これは誰の発想だったのでしょうか?
ビリーの発想ですね。とある理由から、当初はジャスティン・ティンバーレイクやチャニング・テイタムに演じて貰いたかったんですよ。ただ、結果的に叶わず、ビリーがディック・ロング役として僕を推薦しました。
出身地を舞台にした映画を撮ることに神経質になっていた部分もあったのですが、この役を自分が引き受けることになった時は興奮しましたね。「一番恥ずかしい役は僕が代わりに引き受ける。この場所を笑いものにすることもしない」みたいな覚悟を持って挑めるので。
アラバマを描く映画が作られると、どんな作品になるのかを心配する人たちは沢山います。ただ、この映画は決してアラバマを描いている訳ではなく、いわゆる一般的な田舎町を描いた物語なんですよ。
大胆な物語・作品名・登場人物

──物語・作品名・登場人物は個性的で素敵ですが、同時に際どい内容でもありますよね。配給会社に受け入れて貰えないのではないかという懸念はありましたか?
もちろん、ありましたよ。この映画を製作できるとさえ思ってもいませんでしたからね。今でもポルノと勘違いされていないか心配していますよ。「この映画にヌードはありません。『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』[編注:ディックは英語で男子の性器を意味する]という題名ではありますが、決してポルノではありません」と周囲に説明しないといけなかった時もありました。「ヌードなしの愉快な犯罪映画」みたいに宣伝するべきですね(笑)。
──脚本の段階からディック・ロングという名前は決定していたのでしょうか?
脚本初稿の段階では存在していませんでした。ただ、警察が真相を突き止めるように、ビリーも最終的には導き出していましたよ。物語の鍵となる題名なので気に入っていますし、最終的にはディック・ロングという名前が大切になります。それと、いかにも男らしい名前ですよね。この映画は男らしさを笑ったり、笑わなかったりする作品ですから。
劇中曲の選定基準

──個性的な劇中曲の選定基準について詳しく教えてください。
ビリーが脚本に書き込んでいた曲もありました。選定基準として重要だったのは、登場人物が、一般的にはそこまで好まれないようなバンドを好んでいるということでした。上手くいけば、観客が自分たちと大きく異なる登場人物を理解することが出来ると思ったので。
そして、ニッケルバックの楽曲は非常に重要だったので、予算面に関しては慎重に確認していましたよ。結果的にそれほどかかりませんでした(笑)。そこで、予算が余ったので、「クリードもステインドもP.O.Dも使える!」となりましたよ。結果的に個性溢れるバンドの楽曲が集まって、凄く興奮しましたよ。
──他にも使用したかった楽曲はありましたか?
3ドアーズ・ダウンには断られてしまいました。ただ、彼らはトランプのファンみたいなので、変わっちゃったのかなと思っています(笑)。あとは、リンプ・ビズキットも駄目でした。とはいえ、使いたかった楽曲は大体使用できたので、十分満足していますよ。
──ちなみに、本作にはピンク・フロイドに由来した“ピンク・フロイト”というバンドが登場しますが、この名前は誰の発想だったのでしょうか?
ビリーの考えですね。洒落でありつつ、結末の鍵となる名前にしたかったみたいですよ。
シャイナート監督の過去と未来
