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『ザ・ディフェンダーズ』が残した5つの疑問 ─ アツい全8話を総振り返り

Netflix

ニューヨークを舞台にしたマーベル・シネマティック・ユニバースのドラマシリーズ最新作『ザ・ディフェンダーズ』が8月17日にネットフリックスで全世界一斉配信されました。これまで『デアデビル』、『ジェシカ・ジョーンズ』、『ルーク・ケイジ』、『アイアンフィスト』とそれぞれの単独ドラマでそのオリジンや活躍が描かれてきたヒーローたちが、陰の犯罪組織ヤミノテからニューヨークを救うべく共闘するドラマ版アベンジャーズともいうべき作品です。映画シリーズ以上に他作品との関係が密接なので、100%楽しむには全作の鑑賞がほぼ必須ではあるのですが、そのぶんファンにはたまらない盛大なお祭り映画になっています。今回の記事では『ザ・ディフェンダーズ』の全話を総括して、その魅力について振り返ると共に、いくつか浮かび上がった疑問点について検討します。

注意

この記事には、ドラマ『ザ・ディフェダーズ』『デアデビル 』『ジェシカ・ジョーンズ』『ルーク・ケイジ』『アイアン・フィスト』『エージェント・オブ・シールド』のネタバレが含まれています。

ヤミノテの正体

『デアデビル』から始まり『ザ・ディフェンダーズ』まで続く本シリーズは影の組織ヤミノテの暗躍を描いてきました。おそらく間接的な言及としては『デアデビル』シーズン1第12話でマダム・ガオがニューヨークを去る際に発した「未来を知るために遠くの故郷へ帰る」という言葉が最初でしょう。『デアデビル』シーズン2ではマットがスティック、エレクトラと共にブラックスカイの計画やニューヨーク都心に開けられた巨大な穴の謎を追う様子が描かれ、前作『アイアンフィスト』でついにヤミノテと直接のかかわりを持つクン・ルン出身のヒーロー、アイアンフィストが登場し、いよいよ彼らの恐ろしさが明かされることになりました。『ザ・ディフェンダーズ』では、ヤミノテの存在を唯一知るダニー・ランドが主導役となってヤミノテの謎の核心に迫ることになります。

明かされたヤミノテの正体は衝撃的なものでした。ヤミノテは大昔にクン・ルンから抜け出した5人の修行者たちが、この世界を陰で支配するために構築した組織なのでした。しかも、彼らはドラゴンの骨から抽出した力で何千年も生きながらえてきた不死の存在であり、ポンペイ火山の噴火やチェルノブイリ原発事故は、彼らが地盤のバランスを破壊してドラゴンの骨を採掘した結果だというのです。『エージェント・オブ・シールド』シーズン3でもヒドラに数千年の歴史があることが明かされましたが、ヤミノテもまた人類の歴史の裏で常に悪事を働いてきたようです。ヤミノテはドラゴンの力を用いて一度死んだエレクトラをブラックスカイとして蘇らせ、同時にニューヨークでもドラゴンの骨の採掘を企てます。この未曽有の危機に立ち上がるのが4人のヒーローです。

「この街を守る」ために団結する4人のヒーロー

『ザ・ディフェンダーズ』のいちばんの魅力は、バラバラだった4人のヒーローが集結し、徐々に協力関係を構築していく過程でしょう。アイアンフィストことダニー・ランドが相棒のコリーンと共にヤミノテの正体を調べる一方、ジェシカ・ジョーンズは行方不明になった建築士の行方を追い、デアデビルことマット・マードックはそんな彼女を警戒するホガースの手先としてジェシカを監視、ルーク・ケイジは地元の不良少年たちを搾取するマフィアを追っています。それぞれに異なる動機で動き始めた4人ですが、第3話でミッドランド・サークルというビルに集結し、襲い掛かる敵を相手に理由もわからないまま共闘する羽目になります。ディフェンダーズ誕生のきっかけです。

しかし、彼らの共闘も一筋縄ではいきません。ダニーを除き、世界を裏で操る犯罪組織など相手にするつもりはありません。マットはシーズン2の最終話でエレクトラを失った事件を最後にヒーロー活動から足を洗っていますし、ハーレムのヒーローとして有名人になったルークも、困っている人を放っておけないその情の篤さと男気から事件に巻き込まれてしまっただけです。ジェシカに至っては他人に関心がなく、面倒ごとを常に嫌っています。そんな性格も過去も異なる4人がニューヨークの危機をいち早く察知し、徐々に使命感を帯びて戦いに身を投じていく様が燃えます。特に第3話~4話で描かれる4人の初交流はファン待望のシチュエーションでした。弁護士らしく慎重派で石橋を叩いて渡るタイプのマット、ひねくれもので皮肉屋のジェシカ、内に熱い想いと優しさを秘めている兄貴分のルーク、猪突猛進で曲がったことが許せないダニー。彼らの掛け合いはことばの一つひとつキャラクターがにじみ出ていて、本当に楽しい。特に『アイアンフィスト』ではツッコミ役不在で空回り気味だったダニーがジェシカに毒のある言葉を浴びせられたり、ルークにうまいこと諫められているのは、チームものならではの面白さです。全然統一感のない4人ですが、不思議な化学反応を起こし、絶妙な補完関係を築き上げています。

第8話のクライマックスで彼らは本当のチームになります。ヤミノテの陰謀を阻止すべくミッドランド・サークルを爆破する決断を下す場面です。彼らはこの決断を行動に移した途端、犯罪者になってしまう可能性がありました。悪人とはいえ、命を奪ってしまう可能性もあります。ヤミノテと戦うことが自分の人生だと考えているダニー以外は、非常に激しい拒絶反応を示しました。彼らは自分たちをヒーローだとは思っていないのだから、当然です。しかし、同時に、愛するニューヨークの危機を救うことができるのも、特殊な能力持ち、悪と戦ってきた彼らしかいません。最終的に4人はビルの爆破に同意します。自分たちの愛するこの街と住人を守るために、その代償と運命を受け入れる覚悟を決めたのです。アベンジャーズとは違って、彼らの団結には悲壮感があります。4人は普通の人生を送りたくても運命に阻まれてきました。ミッドランド・サークルでの戦いは、そんな自分たちの宿命を受け入れ、これからも向き合い続ける覚悟を固めた真の意味でのヒロイズムにあふれていて、非常に熱い場面でした。ここに本当の「ディフェンダーズ」が誕生したのです。

いくつかの疑問点

ここまで『ザ・ディフェンダーズ』の魅力を振り返ってきました。しかし、一方でいくつかの疑問点や謎も残りました。重箱の隅をつつくような問いもありますが、順にあげていきましょう。

ヤミノテの規模は?

先に紹介した通り、ヤミノテは世界中からクン・ルンに集まった5人の修行者が数千年前につくりあげた闇の組織です。しかし、その規模に関してはいくつかの謎が残りました。『エージェント・オブ・シールド』シーズン3で明かされたヒドラの歴史と比較すると、その疑問は深まります。ヒドラは数千年前にモノリスの向こう側の異次元世界に追放されたインヒューマンのリーダー「ハイヴ」をこちら側の世界に呼び戻すために結成されたカルト組織でした。どうやら時代を追うにつれてその規模は拡大し、世界を牛耳る権力者や悪人たちの集まる秘密組織に成長し、さまざまに形を変えて現代まで発展してきたようです。ドラマ等描写を見る限り、その活動範囲は世界中に広がっています。

一方、ヤミノテはその規模がイマイチ謎なのです。マダム・ガオの発言から推測する限り、アレクサンドラの築き上げたコネクションによって政界や財界にまで彼らの力は影響しており、それなりに規模は大きいようです。ポンペイ火山の噴火やチェルノブイリ原発事故は彼らの暴挙が原因ですが、そうした事実を隠蔽できるだけの権力はあるので、ヒドラ並みの巨大な組織であることは推測できます。しかし、ヤミノテを
率いるアレクサンドラ、マダム・ガオ、ソワンデ、ムラカミ、バクトの5人はニューヨークに活動拠点を置いているように見えます。これではスケール感がつかめません。彼岸と此岸を行き来して永遠の命を持っているぐらいなのだから、その組織網がまさかアメリカの一都市にとどまるとは思えないのですが。この問いは次に挙げる疑問にもつながります。

ブラックスカイとマダム・ガオ、ムラカミは死んだのか?

『アイアンフィスト』でも明かされた通り、ドラゴンの力で不死の力を手に入れた人間にも弱点がひとつあります。首を切り落とされたら死ぬのです。ヤミノテのメンバーではアレクサンドラ、ソワンデ、バクトは斬首される描写があり、はっきりと死んだことが示されています。しかし、ブラックスカイ、マダム・ガオ、ムラカミは明確に死んだことを示す描写がありません(ムラカミはパイプで串刺しになっていましたが)。マットががれきの下で生き埋めになりながらも生存していたことを考えると、この3人もまた生き残っている可能性があります。

また、ヤミノテの組織規模が本作で読み取れる以上に大きかった場合、彼らの影響力はまだまだ強いということになります。一度は壊滅したと考えられたヤミノテですが、もしかしたらブラックスカイをリーダーにした新生ヤミノテが再びディフェンダーズの前に立ちはだかる展開があるかもしれません。

シールドはまともに機能していたのか?

そもそもシールドはフューリー長官がコズミック・キューブの扱いに失敗してニューヨークを半壊滅状態に追いやったり、組織としてどうかと思うことは多かったのですが、シリーズを追うごとに彼らの能力には疑いが深まります。戦後ヒドラが復活して内部を侵食していたことも、インヒューマンズが人知れずコロニーを形成していたこともまったく認識していませんでした。なんと今回、どうやらヤミノテの存在にも気づいていなかったであろうことが分かりました。重箱の隅をつつくようなイジワルな疑問ですが、あれだけ世界中に支部を持ちながらシールドは本来の目的を果たせていないように思います。

マーベル・シネマティック・ユニバース内での整合性

ディフェンダーズの戦いはニューヨーク都心のビル爆破という大事件にまで発展しました。ここで疑問になるのがやはり「ほかのヒーローは何をしてたのか?」という他シリーズとの整合性の問題です。

ここで参考になるのは『スパイダーマン:ホームカミング』の展開でしょう。例の「(ニューヨーク決戦から)8年後」という表記の謎があるので、時系列上の矛盾が生じる可能性はありますが、この映画でアベンジャーズタワーはニューヨークの北に引っ越しています。ここから、他のヒーロー、特にトニー・スタークがこの事件に関与しなかったことを説明できるのではないでしょうか。

また、この事件そのものがほとんど表ざたになっていないことも、非常に重要です。大きな騒ぎになったのは、第4話の中華料理店の襲撃事件と第8話のミッドランド・サークル崩壊事件ぐらいです。そして、一般市民はヘルズ・キッチンを震源地とした地震やミッドランド・サークルの崩壊事件の真相を知りません。「トリシュ・トーク」でも陰謀論が話題になっていましたが、もみ消されてしまいました。ミスティ・ナイトなど一部の警察官はニューヨークで起こる一連の事件の裏に何かがあることを勘付いていましたが、ヤミノテの存在まではたどり着いていません。ディフェンダーズのメンバーに疑いの目が向けられることもありましたが、それもフォギーたちの尽力によってうやむやにされました。

つまり、地理的にも事件の性質的にも、一連の事件の解決はディフェンダーズのできる範囲内にすべて収まってしまいます。この適度なスケール感によって、他シリーズとの決定的な矛盾や干渉を避けているようです。

アイアンフィストはコスチュームを着るか?

最後の疑問です。この話題は一度THE RIVERでも取り上げました。『ザ・ディフェンダーズ』ではダニーがデアデビルのコスチュームに好意的なリアクションをしてる場面があります。子供っぽい性格のダニーのことですから、デアデビルの影響を受けて自分もコスチュームを着たいと言い出すかもしれません。これまでアメコミ映画は実写化にあたりコスチュームを着る現実的なエクスキューズをひねりだすことに苦慮してきましたが、ただ単純に「カッコいいから」という理由でコスチュームを着るヒーローが一人ぐらいいても面白いかもしれません。

 

以上、様々な観点から『ザ・ディフェンダーズ』とその後について考察しました。第8話のエンドクレジット後には『パニッシャー』の予告編も初公開され、今後のシリーズ展開がますます楽しみになりました。これからも広がり続けるマーベル・シネマティック・ユニバースの世界、次はどんな驚きが待っているのでしょうか。

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。