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ボンド&怪傑ゾロを撮った巨匠監督、初の女性アクション『マーベラス』では何を追求したのか【単独インタビュー】

マーベラス
© 2021 by Makac Productions, Inc.

『ミッション:インポッシブル3』(2006)『ダイ・ハード4.0』(2007)のマギー・Q主演、サミュエル・L・ジャクソン&マイケル・キートンという2人の名優が脇を固めた最新アクション映画『マーベラス』が2022年7月1日(金)より全国公開を迎える。幼少期のトラウマを抱えた女性暗殺者が復讐に立ち上がる、スタイリッシュアクションだ。

本作でメガホンを取ったフィルムメーカーも超一流。『007/ゴールデンアイ』と『007/カジノ・ロワイヤル』、シリーズの中でも特に評価が高い2作の『007』映画を手がけ、往年のヒーロー「怪傑ゾロ」を『マスク・オブ・ゾロ』『レジェンド・オブ・ゾロ』の2部作で蘇らせもしたマーティン・キャンベル監督である。『マーベラス』は、御年78歳の監督にとって2017年の『ザ・フォーリナー/復讐者』以来約4年ぶりの新作となる。

これまでアイコニックなキャラクターを世に送り出してきたキャンベル監督は、ゼロから生み出された「女性暗殺者アンナ」というキャラクターにどう向き合ったのか。THE RIVERはキャンベル監督との単独インタビューで、こうした物語の内面に加え、アクション監督としての心構えや美徳なども伺ってきた。

また、近年盛んに聞こえてくる巨匠監督によるヒーロー映画批判についても監督を直撃し、その見方をご教示いただいた。近年、小規模アクション作品が続くキャンベル監督自身、現在のハリウッドをどう見ているのだろうか。

マーベラス
© 2021 by Makac Productions, Inc.

『マーベラス』マーティン・キャンベル監督インタビュー

── 本日はよろしくお願いします!

やあ、どうも。

── 突然ですが、本作のタイトルは、本国ではフランス語で「弟子」を意味する『The  Protege』です。日本では『マーベラス』と呼ばれているんですよ。

ほうほう、なるほど。

── ご存じでしたか?

いや、知らなかったな。

── このチョイスはどう思われますか?

日本でピッタリはまっているタイトルなら、それで良いと思いますよ。海外で公開する時に、映画のタイトルを変えることは珍しくはないですから。

── おっしゃるとおりですね。さて、キャンベル監督はこれまで手がけてきた作品のほとんどで、製作や脚本にはクレジットされていません。監督のみとして携わる場合、参加する作品にはどのような基準があるのでしょうか?

「直感」です。私は自分がやることに対して精査したり分析したりすることはしません。オファーされたものを読んでみて、興味を持ったら後はやるのみといった感じです。オファーもたくさん届きますけど、やるべきではないと思うものもあります。今作の場合は、デンゼル・ワシントンの『イコライザー』も手がけたリチャード・ウェンクが素晴らしい脚本家だったのでね。とにかく、直感です。物語やキャラクターが気に入ったので、参加するには申し分ない理由だと思って、撮ることに決めました。

マーベラス
© 2021 by Makac Productions, Inc.

── 本作は、『ジョン・ウィック』を手掛けている製作スタジオ(ライオンズゲート)とのタッグが注目されてもいます。マギー・Qによるスタイリッシュなアクションには『ジョン・ウィック』らしさも感じられましたが、実際に同シリーズのことは意識しましたか?

ライオンズゲートは配給だけで、製作はミレニアムという会社が行いました。『ジョン・ウィック』についてですが、この映画では全く意識していませんでした。『ジョン・ウィック』は個人的に気に入っている映画だけれど。今でも第1作が好きで、全部素晴らしいけど犬が最高でした。

私は、他の作品から影響を受けないタイプなんです。自分の作品についてはやるべきだと思うことをやるだけだと考えている。単純なことです。今作の場合は、マギー・Qのキャラクターとサミュエル・ジャクソンが演じた育ての父の関係性、彼女とマイケル・キートンのキャラクターの関係性が興味深くて、何よりアクションが本当にリアルだった。あれほど身体を張って作り上げるアクションは類を見ないだろうな。アクションの為だけに作られた「アクション映画」ではないのです。

── 本作は企画発表当初、リュック・ベッソンの『ニキータ』のような作品だと伝えられていました。マギー・Qはテレビシリーズ版の「ニキータ」で主演を務めていたという共通点もありますが、女性キャラクターを主人公に据えたアクション作品への野心は強かったのでしょうか?

彼女(マギー)は『ニキータ』のドラマ版に出ていましたが、私はずっとリュック・ベッソン版が好きでした。あの映画は良かった。女性主人公のアクション映画について言えば、女性もあのようなアクションを全てこなせるんだと信じることが大切なんです。マギー・Qはとにかく卓越していました。元々彼女は鍛えられた方で、ジャッキー・チェンとも共演している。何より彼女は俳優として素敵なんです。それは稀なことです。彼女はアクションの質を(演技に)織り混ぜることができる。ユニークな方で、あの役にはマギー・Q以外に考えられなかったです。

── サミュエル・L・ジャクソンとマイケル・キートンとの仕事はいかがでしたか?本作で2人はマギー・Qの脇を固めるポジションですが。

マイケル・キートンは素晴らしい俳優で、多くのメリットを持ち寄ってくれました。彼は、脚本に描かれている以上の解釈を自分でキャラクターに加えてくれる。思いがけない所でユーモアも与えてくれて、驚かせてくれるんです。

サムについても同じことが言えます。160本もの映画を経験してきて、そこから私が学んだこともあります。彼はシリアスな映画もコメディ映画もすごく上手くやる方です。とにかく幅のある熟練した俳優で、彼に出来ないことはない。マギーとの演技も、時間の許す限り多くのものを与えてくれました。他の俳優では真似できないような感情的なクオリティも彼が醸し出してくれた。

マーベラス
© 2021 by Makac Productions, Inc.

追求するのは「地に足のついたアクション」

── 監督はジェームズ・ボンドや怪傑ゾロを描いてこられましたが、『マーベラス』の主人公アンナのような、新しいアクションアイコンとなりうるキャラクターを築くことの難しい点はどんなところにあると思いますか?

大変なことはたくさんありますよ。全ては脚本にかかっています。ゾロについては、その世界とは無縁だった青年が貴族の女性と恋に落ちる古典的な話でした。そこで彼が抱える問題や葛藤などが描かれた。確か60年代とかにディズニーが作ったテレビシリーズはあったけれど、『ゾロ』シリーズを撮った時は映画として作られるのが久々でした。私たちはアントニオ・バンデラスを起用しましたが、彼は素晴らしかった。そしてアンソニー・ホプキンス以上に上手く(ゾロを)演じられる人もいなかった。キャストにとても恵まれたんです。アントニオはハリウッドの大作映画に出演する準備もできていましたから。あとは脚本も良かったです。この(キャストと脚本の)両方があったからこそ、新しいキャラクターを披露することができた。ゾロは何十年と作られていなかったので、誰とも競う必要がありませんでした。

── この映画には『007』オマージュもありました。これは脚本家のリチャード・ウェンクによるアイデアだったのでしょうか?

これはあくまで女性主人公の映画ですが、リチャード・ウェンクに聞いた方が良いかもしれないですね。私は脚本家ではなく、脚本家と一緒に座って話し合うことが仕事なので。彼らのアイデアを聞いて調整する。これについては、とても良いセンスの持ち主であるリチャード・ウェンクが作ったものです。全部彼が考えたものなので、彼を評価したいですね。

マーベラス
© 2021 by Makac Productions, Inc.

── キャンベル監督といえばアクションジャンルで有名ですが、『グリーン・ランタン』ではスーパーヒーロー映画にも挑戦されていました。『グリーン・ランタン』に参加した理由については「前にやったことがなかったから」と話されていましたが、『マーベラス』でも何か新しいことに挑戦しましたか?

『マーベラス』では女性が主人公だったこともそうですし、多くの女性主体の物語とは違う斬新性がありました。『アトミック・ブロンド』(2017)や『ライリー・ノース -復讐の女神-』(2018)といった女性アクション作品はそれ自体がジャンルのようなものです。これを女性版ジェームズ・ボンドというように解釈すれば、何にでも応用できるとは思うけど、ボンドは全く違う確立されたキャラクターです。

私は常にアクションのリアリティを追求してきました。信じがたいものとして作ってきたことは一度もありません。血も出ない、アザも出来ない、骨が砕けるような大げさなサウンドエフェクトが効いた中で、ただひたすら殴り合ったり蹴り合ったりして、何事も無かったかのように立ち上がって、口の小さな切り傷だけを残して去っていくというような戦いは、私には意義が感じられない。そうしたもの全てが信じられない。私は常に地に足のついたアクションを目指しています。

マーベラス
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── スーパーヒーロー映画には、映画業界を寡占してしまうのではないかといった懸念や批判がここ近年で目立ちます。小規模アクション映画が疎外化されてしまう可能性も指摘されていますが、大作映画と小規模映画の両方を手がけてきた監督は、この問題をどう捉えますか?

これはまったくもってあなたが言う通りだと思います。今は、前よりとても厳しい状況にありますね。ストリーミングが全てを変えてしまいました。新型コロナウイルスも全てを変えてしまった。コロナ禍で作られた小規模作品には機会が失われてしまいました。誰も映画館に行かなくなりましたからね。

例えば『トップガン』のような大作映画が素晴らしいのは、興行成績を取り戻してくれて、人を映画館に呼び戻してくれることです。COVID-19が霞んだように見える。スーパーヒーロー映画も同じように良いビジネスをしていて、人が映画館で観るようになる。そこで彼らが小規模作品を観てくれたら良いなと思うわけです。『トップガン』のような映画に比べたら、(『マーベラス』の)予算はちっぽけなもので、そういった映画と競い合うのはすごく大変です(笑)。特にコロナ禍で公開された大作は、小規模作品の首を締めているとも思います。

── 『マーベラス』は最初から映画館で上映される作品として作られたのですか?それとも配信スルーの可能性もあったのでしょうか?

この作品だけじゃなく、小規模作品なら全部の作品が(配信スルーの)可能性がありますよ。今じゃそれもすぐに決まってしまう。予算が限られたり、少なければ少ないほど、そうなってしまう。配給会社も、『トップガン』のような大作映画で数百万ドルの宣伝費を使ってしまったら、(小規模映画にとって)ストリーミングが一つの選択肢になるのは当然のことで。小規模作品がビッグスクリーンで観られないのであれば、配信に回ってしまいます。

アクションの美学、『007』再登板の可能性は?

マーベラス
© 2021 by Makac Productions, Inc.

── 監督にとってのアクション作品の美学を教えて下さい。

エンターテインメントです。アクション映画は、エンターテインメントそのものです。皆さんもアクション映画が好きで、私も子どもの頃からアクションが好きだった。特にジェームズ・ボンド作品や『ナヴァロンの要塞』といった60年代初頭の映画は全て私のお気に入りで。アクション作品は、とてもパーソナルな存在なんです。『トップガン』のような良質な映画は、映画を価値あるものにしてくれます。

── ちなみに『トップガン マーヴェリック』はご覧になられましたか?

最高だった。IMAXで観ましたけど、すごく楽しめました。そちらでももう上映はされている?

── はい!日本でも大ヒットです。

ですよね。世界中どこでも大ヒット。この偉業に間違いなく値する素晴らしい映画で、完全勝利でした。

── 今後、大作映画にカムバックする可能性はございますか?例えば、あなたは『007』の1作目を2回手がけていますが、7代目ボンド映画の1作目を撮るなんてことは?

ネバー・セイ・ネバーですね。まだまだ時間はかかると思いますし、先に進むまでに2年ほどかかるんじゃないかな。完全に新しいボンドを作らなければいけないはずですから。これには時間もかかるし、ダニエル・クレイグ時代の後では、少しハードルも高いでしょう。彼と同じくらいに成功させるのは難しいことです。製作陣も作るのは急いでいないんじゃないかな。私自身は、これまでの2作で良い時間を過ごさせてもらいました。

── 最後に、『マーベラス』の続編についてはどうでしょう?もしオファーされた場合は?

それはもちろん、やります。もし続編を作りたいというのであればウェルカムです。この映画を作るのは楽しかったし、一緒に働いた方とも良い時間を過ごせましたから。

映画『マーベラス』は、2022年7月1日(金)にTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。

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Source: Collider

Writer

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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