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『ソー/ラグナロク』邦題は『マイティ・ソー バトルロイヤル』日本版ティザー映像解禁!米国版と見比べて邦題の意図を考える

映画『マイティ・ソー』シリーズの最新作『ソー/ラグナロク(原題:Thor: Ragnarok)』の日本公開情報がついに解禁された。邦題は『マイティ・ソー バトルロイヤル』、公開日は日米同時公開となる2017年11月3日だ。日本語版のティザー映像も公開されているので、ぜひご確認いただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=xzhboyRUz6I

2種類のティザー映像を見比べよう

『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、『マイティ・ソー』シリーズの第3作だ。THE RIVERでは本作に長らく注目しており、あらすじなどの作品情報は別記事に詳しいのでそちらをご覧いただきたい。

今回公開されたティザー映像は、2017年4月10日にアメリカで公開されたティザー映像の“別編集版”というべき仕上がり。米国版の映像と見比べると、その違いは一目瞭然だ。日本版の特報は各キャラクターのアクション・シーンや派手なシーンを中心に構成され、場面の順序も大胆に入れ替えられて、邦題である「バトルロイヤル」という印象が強い映像となっている。使用されている音楽は、米国版と同じくレッド・ツェッペリンの『移民の歌』だ。

またキャラクターに着目すると、メイン・ヴィランのヘラ(ケイト・ブランシェット)はかなり印象的に登場するが、同じく新キャラクターであるヴァルキリー(テッサ・トンプソン)の出番は一瞬だけで、グランドマスター(ジェフ・ゴールドブラム)はその姿をまったく見せない。ヘラの味方となるスカージ(カール・アーバン)はその派手な乱射ぶりで無事に登場を果たしている。また、おなじみのキャラクターであるロキ(トム・ヒドルストン)とヘイムダル(イドリス・エルバ)はその姿をわずかに確認できる。

映像の尺を比較すると、日本版が1分3秒なのに対して、米国版は1分52秒。もちろん映像の大枠は同じだが、かなり印象が違うので、もしまだ米国版を見ていない人はこの機会に必ずチェックしておこう!

『バトルロイヤル』邦題問題

ところで『マイティ・ソー バトルロイヤル』という邦題は、発表されるやいなやファンの間で賛否両論、早くも物議を醸しまくっているマーベル・シネマティック・ユニバース作品では、“Guardians of the Galaxy Vol.2(原題)”が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』なる邦題になって同じく大激論が起こったばかり。ウォルト・ディズニー・ジャパンによる作品では「2017年、2度目の邦題問題」である。

原題に含まれている「ラグナロク」という言葉は、北欧神話における最終戦争、終末の日を指す言葉である。『マイティ・ソー』シリーズや原作コミックのストーリーが北欧神話を下敷きにしていることを鑑みても、“死を司る女神”ヘラが暗躍してアスガルドが破壊されてしまう本作は「終末の日」というタイトルこそがふさわしいように思われる。予告編に『移民の歌』が選曲されているのも、北欧神話との接点がある楽曲だという点できちんと必然性があるほどだ。

そこまで重要なタイトルを『バトルロイヤル』に変えるとなれば、「なぜ?」という問いが持ち上がるのは至極当然だろう。そこで少し冷静に、この邦題の意図について考えてみよう……。

ティザー映像から推測する『バトルロイヤル』のコンセプト

『バトルロイヤル』という邦題のコンセプトを理解するには、言葉の意味を考えるよりも、むしろティザー映像を米国版と見比べるほうがたやすい。なにしろ日本版のティザー映像は、先述の通りキャラクターのアクションシーンを中心に構成されているなど、“個性豊かなキャラクターの大混戦”というコンセプトに沿ってわかりやすく作られているからだ。ソー、ハルク、ヘラ、ロキ、ヘイムダル、スカージといったキャラの濃いメンバーがガチで戦いそうな(戦っている)雰囲気を醸し出すこと、ソーの前には正体不明の強敵が現れること……といったポイントに注力された編集は、「シリーズの流れや新キャラよりもとにかくバトルなんだよ!」という潔すぎる割り切りが見え隠れしている。その代わり、本編のストーリーを窺い知ることはほとんどできないが……。

邦題が『バトルロイヤル』になったのも、おそらく同じコンセプトで、北欧神話や単なるヒーローバトルよりも“キャラクターの大混戦”というイメージを付けたいためだろう。そしてこの方向性は、『マイティ・ソー』シリーズの大きな魅力がキャラクターの豊かな造形と俳優陣の演技にある以上、その意味ではさほどブレていないはずだ。思えばケネス・ブラナー監督による第1作なんて、人間臭すぎる神々とエキセントリックな人間たちの姿を、手練の俳優陣が細やかな演技によって紡ぎ出したことが一番の見どころではなかったか。

もちろんファンからすると、本作のタイトルは『ラグナロク』が一番適していたはずだ(筆者もそう思う)。“濃いキャラクター同士が戦う映画”なんて単純な作品ではない、というのも別の視点では真実だろう。しかし複雑な心境ではあるが、キャラクターの魅力が『バトルロイヤル』という邦題やプロモーション映像からきちんと伝わるなら、プロモーションとしては一切問題ないはずである。そう、きちんと伝われば……。

「俺たちに倒せるのか?」字幕問題

というわけで、邦題だけなら「なんで?」と思ってしまう『バトルロイヤル』だが、ティザー映像とあわせてみると、意外にもその意図はクリアだという気がしてくる。その意図を是とするか非とするかは、きっとファンのそれぞれによって違うだろう。しかし本記事では最後に、邦題を『バトルロイヤル』にしたばかりに、というか映像を『バトルロイヤル』に寄せすぎたばかりに起きてしまった悲劇をご紹介せねばならない。

映像の32秒ごろ、ソーが愛用のハンマー(ムジョルニア)をヘラに掴まれてしまう場面で「ありえないだろ」「何者なんだ?」「俺たちに倒せるのか…?」という字幕が表示されるが、ここでソーは全くそんなことを言っていないのだ。ここで聞こえるセリフは“I know what you’re thinking how did this happen. Well, that’s a long story.(みんなが思ってることがわかるよ。なんでこうなったのかって。えっと、長い話なんだ)”である。ちなみに、米国のティザー映像とはセリフが聞こえる位置も違うので注意されたい。

すでにネット上で大きな話題を呼んでいる『マイティ・ソー バトルロイヤル』だが、この邦題になった理由には“ラグナロク”が商標登録されていたという説(真相は不明)も飛び出しており、経緯の真相はつかめないままだ。もはや筆者が願っていることは、映画館を出た後に「あ、これ『ラグナロク』だけど『バトルロイヤル』だったね」と思えること、それだけである。

映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』は2017年11月3日に日米同時公開。邦題や予告編についてあれこれ記したものの、日米同時公開が叶って本当に良かった……。

Source: http://marvel.disney.co.jp/movie/thor-br/news/20170510_01.html

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。