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感情を持たない孤独な天使を描いた、日本人監督による短編映画『TO FEEL HUMAN』レビュー【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

『TO FEEL HUMAN』あらすじ

“恐怖”や“欲望”など、人が本来持ちうる感情のすべてが存在しない、どこか悲しげで孤独な天使がひとり。その天使は、人間の“感情”に興味を抱き、謎の導き手のもとへと足を運んだ。人間の苦楽や悲喜を垣間見た天使は、様々な人たちと関わっていくなかで、人間の持つその感情を徐々に理解していった。ある時、ひとりの女性に出逢った天使は、自らの心に苦悩を抱きながらも、女性に心を開きつつ、次第に人間へと近づいていく。

全編アメリカ撮影の短編映画

TO FEEL HUMAN_監督
『TO FEEL HUMAN』 (C)PRECIOUS SUZUKI FILMS

日本と韓国が舞台の青春映画『チルソクの夏』(04)で映画俳優としてデビューし、『カミュなんて知らない』(05)、『実写映画 テニスの王子様』(06)など、幾つかの映画やドラマに出演した元俳優の鈴木淳評氏がメガホンを握る。監督は現在、ハリウッドの映画学校に留学中であり、本作は映画学校の仲間らと制作した、全編アメリカ撮影の短編映画である。

見た目では判断できない人の“中身”

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『TO FEEL HUMAN』 (C)PRECIOUS SUZUKI FILMS

この作品を観て最初に感じるのが、「天使は命を奪うのか?」という疑問だ。そんな行為は誰もが悪魔の役割だと思うはずである。まず、この作品には二人の天使が登場する。ひとりは黒いスーツに身を包む、感情を持たない孤独な男性天使。本作の主役は彼だ。もうひとりは白いワンピースを着飾る、ブロンド髪の女性天使であるが、彼女の声はとても天使とは程遠い、恫喝的な響きをしている。本当に天使なのかと誰もが考えるだろう。彼女は悪魔なのかもしれない。 天使と言えば“白”を連想すると思うが、まるで彼女の中身は“黒”で染まりきっているような、そんな感覚さえ覚えるのだ。その一方で、黒いスーツの男性天使は、外見は暗い印象を抱かせるものの、心は白い天使のような温かみを感じるだろう。外見では判断できない人の“内面的な部分”を伝えているように思えた。

テーマは人間の行動心理

現実社会に蔓延している裏の心理や言動などが、本作の大きなテーマとして扱われていると、筆者はそう感じ取った。思ってもいないことを口に出したり、自分の考えを無理に隠さなければならない場面など、この社会で生きていく上で、誰もが嘘の感情を表に出したことがあるはずだ。 この天使に至っては、人間の考えている真の感情すらも理解できず、右も左も分からない手さぐり状態の中で、必死に人間界に溶け込もうとしている。過去に留学経験のある方や、突然の海外赴任を命ぜられた方など、海外に渡るも現地の環境に馴染めなかったという人なら、彼の苦悩や葛藤にはきっと共感できるはずだ。現に、監督の鈴木淳評氏は海外留学中の身であるため、自分の境遇などを反映している可能性もあるだろう。

芸術的な映像表現

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『TO FEEL HUMAN』 (C)PRECIOUS SUZUKI FILMS

そのほか、この作品にはサブリミナル的表現手法が随所に取り入れられている。サブリミナルとはテレビ番組やラジオ放送などに、知覚できない程度の非常に短い時間の映像・音声等を繰り返し挿入し、視聴者の潜在意識にメッセージを植え付ける手法である。
本作には、天使に関連したビジュアルが頻繁に挿入されている。主役の男性天使は一見すると天使のようにはまるで見えない。天使のビジュアルをサブリミナル的に挿入することで、“彼は天使である”と視聴者に刷り込んでいるようにも感じ取れた。作品の中身もさることながら、芸術的な映像表現にもぜひ注目して欲しい。 普通に観ていては決して感じ取れないような、示唆に富んだ要素がこの作品には多く込められている。単純明快なストーリーではあるものの、観る角度を少し変えてみて欲しい。きっと沢山のメッセージが読み取れるだろう。

『TO FEEL HUMAN』 (C)PRECIOUS SUZUKI FILMS

Writer

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Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。