【考察】「ウォーキング・デッド」シーズン1のゾンビの矛盾、最終シーズンでいかに修正されたか?

「ウォーキング・デッド」(2010-2022)の“ウォーカー”ことゾンビといえば、動きが遅い、知性がない、頭部破壊によって活動停止する、音に反応する、などの特徴で知られている。しかし最終となるシーズン11では、それ以上の能力を持つウォーカーにスポットライトが当てられた。
物語のゲームチェンジャーともなり得るウォーカーの変異体を、メインシリーズの完結目前に登場させたのはなぜだろうか?その理由を3つの観点から考察してみよう。
この記事には、「ウォーキング・デッド」のネタバレが含まれています。

「ウォーキング・デッド」シーズン11第19話『バリアント』では、アーロン、リディア、ジェリー、イライジャがウォーカーの大群に出くわす。その中には、ドアノブを回す、ハシゴを登る、石を持って襲う、といった特殊な動きをする変異体(バリアント)が含まれていた。その能力の高さから、“囁く者”(ウォーカーの皮をかぶった敵対グループ)のメンバーだと疑うアーロン。顔の皮を剥ぎ、それがウォーカーだったことが判明すると、「噂には聞いたことあったが、まさか本物だったとは」と驚きを見せる。

実は、これと同じ動きをするウォーカーは、シーズン1ですでに登場していた。第1話ではモーガンの死んだ妻がウォーカーの姿でドアノブを回し、第2話ではリック&グレンを追ってハシゴを登ろうとするウォーカーや、窓を石で叩き割ろうとするウォーカーが確認できる。これについては、ファンから長年「プロットホール(物語上の矛盾や欠陥)」だと指摘されていた。
つまりこの特殊なウォーカーは、最終シーズンで「再登場」を果たしたことになる。実際にショーランナーのアンジェラ・カンも「第1シーズンで見たウォーカーに戻るようなもの」と認めており、これは「ローカルな変異体」で「誰もが遭遇したことがあるわけではない」と説明していた。こうした設定を追加し、シーズン1の特殊なウォーカーを「変異体」として再登場させたことで、長年議論されてきたプロットホールをうまく修正できたといえるだろう。
もっとも製作側にとっては、物語の世界観を広げる意図もあったようだ。製作総指揮・監督・特殊メイク担当のグレッグ・ニコテロは、米Entertainment Weeklyのインタビューにて、シリーズ初期におけるウォーカーの違いを認め、当時は「ゾンビのルールがまだわかっていなかった」とその背景を告白。最終シーズンの製作中に改めてシーズン1を見直し、「これはチャンスだと思った」そう。結果として、「特定の地域に、これまで見たことのない能力を持ったウォーカーがいるかもしれない」というアイデアに至ったと明かしている。
また、シリーズ完結後に控えるスピンオフへのお膳立てという役割もあっただろう。「ウォーキング・デッド」では、物語が進むにつれウォーカーへの恐怖が次第に薄れ、人間こそが真の脅威として描かれていた。そんななかシーズン11では、キャラクターたちにとって未知のウォーカーが登場し、新たな脅威を感じさせた。これによってある種の新鮮さが生まれたため、もっと早く登場させるべきだった、と考える人もいるだろう。
しかし「ウォーキング・デッド」は最終回を迎える前にすでに、ダリル、マギー&ニーガン、リック&ミショーンを主人公とした新スピンオフ3作の製作が決定していたため、本家の終盤で変異体の存在にふれたことが、スピンオフへの期待を煽る結果となった。変異体の再登場はシリーズ初期のつじつまを合わせる上でも、拡大の一途をたどる「ウォーキング・デッド」ユニバースを発展させる上でも、巧みな仕掛けだったといえるかもしれない。

ちなみに、別のスピンオフ「ウォーキング・デッド:ワールド・ビヨンド」(2020-2021)のポストクレジットシーンではフランスの研究所が登場し、動きが速く攻撃的な変異体の存在が明かされていた。そして10月20日より日本配信となった、フランスが舞台の「ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン」第1話では、早速“バーナー”と呼ばれる危険なゾンビが登場。多くのファンが期待した通り、本作ではゾンビの変異体がゲーム・チェンジャーとなりそうだ。
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Source:Entertainment Weekly, INSIDER