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「世界一めんどくさいロックバンド」U2 入門ガイド ─ 新曲“You’re The Best Thing About Me”発表記念

Photo by U2start

世界最大のロックバンドはめんどくさい人たち

2017年96日、渋谷Q’S EYEビジョンで突然、ヘルメットを被った少女の写真が映し出された。濃いブルーに包まれた画面に浮き上がるテロップは“You’re The Best Thing About Me”。そう、「世界最大のロックバンド」、U2の新曲だ。年内のリリースが予定されているアルバム“Songs of Experience”の先行シングルと正式にアナウンスされており、一気に世界中のロックファンの熱は高まっている。

U2831日にも新曲“The Blackout”のライブ映像を公開していた。“You’re The Best Thing About Me”が、U2らしい美メロが鳴り響くラブソングであるのに対し、“The Blackout”はグラムロックを思わせるラウドなナンバー。この2曲が収録されているというだけでニューアルバムは大傑作になると無条件で確信してしまう。“You’re The Best Thing About Me”はノルウェーのDJ KYGOとのコラボ曲として、昨年からフェスなどでKYGOがプレイしていたが、シングルバージョンはストレートなロックサウンドになっていた。

しかし、若いTHE RIVER読者にとっては音楽的にU2を語る声にピンとこない人もいるだろう。理由の一つは、フロントマンのボノの政治活動である。アフリカの貧困問題解決のために日々奔走し、アメリカの歴代大統領とも会談し、並の政治家よりも影響力を強めているボノは、一方で「ロックスターのやることではない」との批判も受けている。事実、マニック・ストリート・プリーチャーズやザ・ストーン・ローゼスといった一世代下のバンドからU2は仮想敵のように攻撃されてきた。

そして、現代の音楽ファンにとって決定的だったのは2014年のiTunes騒動だろう。U2はアップルと提携し、当時の最新アルバム『ソングス・オブ・イノセンス』を無料でi-Tunesユーザーに「プレゼント」。ある日、世界中の音楽ファンがiTunesを開いてみるとU2新作が勝手に丸々ダウンロードされていたというわけだ。

しかし、これには賛否両論が巻き起こる。「ファンでもないバンドのアルバムなんていらない」「無駄にデータが重くなった」「故障か詐欺かと思った」「そもそもU2って誰?」などの声が上がり、ボノがインタビューで反省を口にするまでの事態となった。

筆者は20年近くU2のファンを続けている人間なので、iTunes騒動に関しても「U2らしいや」と笑いにできる。ただし、U2のキャラクターを理解していない人々にとっては、「なんかこの人たちめんどくさい」と印象を悪くしてしまったのは間違いない。それでも、「めんどくささ」を理由にしてU2の残してきた素晴らしい楽曲群を無視してしまうのはあまりにも勿体無いと思うのである。乱暴な書き方をすると、めんどくさくないU2などU2ではないのだから。

アメリカ進出…大成功と寄せられる賛否両論

THE RIVER読者向けにU2の「めんどくささ」を弁護するには、やはり映画に絡めるのが一番だろう。1976年、アイルランドのダブリンの高校でU2は結成された。そして、1980年にはメジャーデビュー。この際、ボノは不仲だった父親から借金してまでロンドンに渡航するほどバンドに賭けていたという。このへんのエピソードは『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)を連想させるが、ボノは本作を「その年のベストムービー」と絶賛している。自らの青春時代に映画を重ねたに違いない。

パンクに影響されたリズム隊ととにかく熱さを押し出すボノのボーカルはデビュー当時、微妙に流行からズレていた。時代はポストパンク、クールでアーティスティックな音楽が大量に作られていたのだ。それでも、頑なに「愛と平和」と「信仰」(メンバー4人中3人が敬虔なクリスチャン)を歌い続けるU2は最初期から十分めんどくさいバンドだった。

U2が音楽的に評価されるようになるのは1983年のサードアルバム『WAR(闘)』以降である。冒頭を飾る名曲「ブラディ・サンデー」は1972年、北アイルランドで起こったイギリス陸軍によるデモ行進中の市民虐殺事件を題材にしている。ポール・グリーングラス監督『ブラディ・サンデー』(2002)のエンディングにも使われた。

1984年にはブライアン・イーノをプロデューサーに迎え、アメリカ進出を狙う。アルバム「焔」はキング牧師やエルヴィス・プレスリーなど、アメリカをテーマにした作品だった。ただ、基本的にはめんどくさいほどの暑苦しさは変わらず。象徴的なのは1985年のチャリティー・コンサート『ライヴ・エイド』のパフォーマンスである。全世界でテレビ放映され、U2の名を知らしめた名ライヴなのだが、内容は“BAD”を音源の2倍近い長さに引き延ばして熱唱するというもの。なぜか日本の学ランを着ている変な髪型のボノのインパクトも含めて「うわあ、この人らガチすぎ」と引いてしまった視聴者も少なくなかったようだ。そう、U2の「めんどくささ」とは本気の証なのである。

その後、グラミー賞も獲得した『ヨシュア・ツリー』に引き続き、映画『魂の叫び』(1988)および、そのサントラ作品でU2のアメリカ化は拍車をかけていく。

『魂の叫び』はU2のアメリカ・ツアーに密着しながら、メンバーがアメリカのルーツ・ミュージックを研究していく様子を追ったドキュメンタリーだ。ドラムのラリーがエルヴィスの墓参りをして涙ぐむシーンなど見所満載である。アメリカ進出の大成功でU2はロックバンドとして最大級のセールスを上げるまでに成長した。

しかし、U2への批判がピークに達したのもこのころである。カウボーイハットとブーツに身を包み、ブルースやゴスペルを歌うようになったU2には「で、おまえら何人なの?」と容赦ないツッコミが入った。U2からすれば、ロックンロールの源流にして、宗教の国であるアメリカに自己同一化するのは自然な行為だった。また、アイルランド人は過去、アメリカへと大量移住した経歴を持つ。アイルランド移民が主人公のマーティン・スコセッシ監督『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)にU2が提供した楽曲は“The Hands That Built America”(アメリカを建てた手)。U2はあくまでアイルランド人としてアメリカに乗り込んでいたのだが、「長いものに巻かれている」との意見も生んだ。ちなみに、現在でもU2とアメリカの関係はファンをやきもきさせている。めんどくさい! 

90年代の大変身 そして現在まで

ドキュメンタリー映画“From the Sky Down”(2011)を見ると、『魂の叫び』時のU2が精神的に疲弊し、メンバー仲も最悪だったことが分かる。今では家族ぐるみでバカンスに出かけるほどの仲良しバンドだから意外なのだが、逆を言えば試練の期間を乗り越えたからこそ絆が強まったのだろう。そして、“From the Sky Down”で描かれているように90年代のU2は従来の真面目で神聖なイメージを覆すべくバンド史上、いや、ポップミュージック史上最大のイメージチェンジに乗り出す。電子音楽を大胆に取り入れ、軽薄で暴力的なアルバム『アクトン・ベイビー』(1991)を完成させたのだ。そして、ワールド・ツアーは最新のテクノロジーを導入したド派手で過剰な演出が売りになっていく。(一方で『アクトン・ベイビー』には「ワン」のような名バラードも収録されているのが印象的だ。どんなにセットが豪華になろうとU2はコンサートのアンコールで「ワン」を歌い続けている。ダンスミュージックと美しいラブソングが共存した本作は、多くのファンが最高傑作に挙げている)

1995年にはアメコミ映画『バットマン・フォーエヴァー』に“Hold Me, Thrill Me, Kiss Me, Kill Me”を提供。1997年発表のアルバム「ポップ」ではU2流テクノサウンドの限界に挑む。ただ、次々とイメージを更新していく一方で、さすがにファンもついていけなくなったのか、「ポップ」はセールス的に落ち込んでしまう。

2000年、ヴィム・ヴェンダース監督『ミリオンダラー・ホテル』でボノは原案と製作を手がけた。U2がサントラに提供した“The Ground Beneath Her Feet”と“Stateless”の2つの新曲を聴いてファンは驚いた。音楽的にシンプルなバンドサウンドへと回帰していたのだ。同年リリースされたアルバム『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』もやはりバンドサウンドを主体としながら、ところどころに90年代U2らしいエレクトロニクスの味付けが加えられた充実作だった。セールス的にも復調し、続く2004年の『ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』の2枚はともに2000年代以降を代表する名盤に数えられている。

一方で『トゥームレイダー』(2001)や『トランスフォーマー/ダークサイドムーン』(2011)などの超大作に楽曲提供するなどのフットワークの軽さも板についてきた。柔も業も使いこなせるようになったU2はまさしく完全無欠…そうファンが思っていた矢先に起こったのがiTunes騒動だったのである。三つ子の魂百までも。やはりU2はどこまでも過剰でめんどくさいバンドだったのだ。

Photo by U2start
Members of U2 take a curtain call after a performance in Glasgow on November 7, 2015 Photo by U2start

それでも、筆者のようなファンがU2を愛して止まないのは「最後には必ず最高の音楽を届けてくれるから」という一点に尽きる。“You’re The Best Thing About Me”のアートワークを手がけるのは盟友のアントン・コービンだ。世界的な写真家で映画監督でもあるコービンは80年代からU2のビジュアル面で重要な役割を担ってきた。メディアを騒がせてしまった前作の反省もこめて、バンドの気持ちをリセットしようとしているのだろうか。

 君は僕にとって最高の存在

 少年に起きた中で一番素敵なこと

 君は僕にとって最高の存在

 僕は君が楽しむためのトラブルさ

 君は僕にとって最高の存在

 でも素晴らしいものほど簡単に壊れてしまう

 (“You’re The Best Thing About Me” 訳は筆者)

いかにU2がめんどくさいトラブルを繰り返し、世間で築き上げた信頼を壊してしまっても、最高のシングルをリリースしてくれるたび、自分は何度でもU2を許してしまう。“You’re The Best Thing About Me”という最高のシングルをきっかけに、あなたもU2というトラブルを心から楽しんでみてはどうだろうか。

Eyecatch Imge: U2start

Writer

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石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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