現代に生きるすべての女性たちに観てほしい短編映画『嘘をついて』レビュー 【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

ほんの少しだけ、嘘をつく。

『嘘をついて』は、女性たちの心の中を丁寧に浮き上がらせた作品だ。

『嘘をついて』あらすじ

英語教師のチエコ、一児の母のミカコ、駆け出し小説家のショウコ。女3人、仲の良い友達。それぞれ悩みを抱え、小さな嘘をつきながら人生を送っている。彼女たちは、その先に何を見出すのか。

その一歩を踏み出すために。

30代女性3人による”女子会”の様子から始まる本作。それぞれが近況や現在の心境を語っているのだが、モノローグで「嘘」という言葉が差し挟まれる。完全なねつ造ではないけれど、実情にほんの少しだけ色付けした「嘘」。それは、友人に対する虚勢なのか。それとも自分自身に対する虚勢なのか。

『嘘をついて』			(C)YUJI MITSUHASHI

『嘘をついて』 (C)YUJI MITSUHASHI

場面は変わり、3人それぞれの生活が映し出される。ネイティブスピーカー教師の存在により、授業コマ数を減らされるチエコ、小説に書くべき言葉が出てこなくて苦しむ汚部屋住人のショウコ、夫と子供から2人目を切望されている5歳男児の母親ミカコ。「このままではいけない気がする」と思っている彼女たちは、各々に近しい男性との関わりの中で、それぞれが小さな一歩を踏み出す力を得る。(ひとりの一歩だけはかなり大きいものだが)

『嘘をついて』というタイトルから、女性のドロドロした胸のうちや、友人に対するドス黒い感情が明らかになるといったタイプの作品なのかと想像していたが、その予想は完全に裏切られた。これは、すべての女性に対する賛歌だ。

私はこの『嘘をついて』を鑑賞した後で、谷川史子や魚喃キリコ、原点としては吉田秋生といったような、女性の心理描写に長けた漫画家たちの作品を思い出した。マドラーが見当たらずに歯ブラシの柄でコーヒーをかき混ぜるショウコ、夫との会話にイラついた気持ちを静めるため、眠る息子の頭の匂いを嗅ぐミカコ……そんな細部の描写のひとつひとつが実に見事で、そういった仕草や眼差しを見ているうちに、スクリーンに映る彼女たちと自分との境界が消えていくようだった。彼女たちは、私だ。

『嘘をついて』の脚本は女性演劇ユニット「チタキヨ」の劇作家、米内山陽子の手によるものだが、監督は男性である三ツ橋勇二だ。懸命に生き、迷いながら少しだけ「嘘をつく」。本作に登場するそんな女性たちに注がれる三ツ橋の眼差しは、どこまでも静かで優しい。きっと、この監督は女性の強さを信じている。だから、私も少しだけ強くなれる。

現代に生きるすべての女性たちに観てほしい。心からそう思える作品だった。

『嘘をついて』 (C)YUJI MITSUHASHI

About the author

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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