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【インタビュー】『ヴェノム』視覚効果スーパーバイザー、ポール・フランクリンに聞く「映画版ヴェノムのつくりかた」

ヴェノム
©&TM 2018 MARVEL

映画『ヴェノム』(2018)は、マーベル・コミックのファンにとって記念碑的作品といえるだろう。長年愛されてきたヴェノムという人気キャラクターをスクリーンにて誕生させた本作は、エディ・ブロック&ヴェノムを主人公とするバディムービーとして、もはや意外なほど爽やかに完成している。史上最悪のダークヒーローは、そのテイストを確かに残しながら、新たな方向性へと巧みに舵を切ったのだ。

クールかつグロテスク、しかしユーモラス。そんな“映画版ヴェノム”を造形するにあたって、主演のトム・ハーディと並ぶ立役者となったのが、視覚効果スーパーバイザーのポール・フランクリン氏だ。これまでに手がけた作品は、『ダークナイト』3部作や『インターステラー』(2014)、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)、『ブレードランナー 2049』(2017)などそうそうたるラインナップ。THE RIVERでは、そんな業界の第一人者であるポール氏から「映画版ヴェノムのつくり方」をたっぷりと教えてもらった。

ポール・フランクリン氏
ポール・フランクリン氏

コミックのヴェノムから、映画のヴェノムへ

「ヴェノム」というキャラクターが初めてコミックの世界に登場したのは、今(2019年)から約30年前にあたる1988年のこと。アーティストとしてデザインを担当したのは、『スポーン』の原作者としても知られるトッド・マクファーレンだ。

長い歴史を持ち、多くのファンに紙面で愛されてきたキャラクターをスクリーンへと“変換”する。ポール氏は映画のプリプロダクション(準備段階)から、「映画でうまく活きる、しかもコミックの世界で積み上げられてきた歴史に敬意を払ったデザインにしなければ」と考えていたという。「一番最初の時点から、説得力のあるデザインにするのが大切だということはわかっていたんです」

もちろん、それはやすやすと越えられるハードルではなかった。ポール氏は、ヴェノムをVFXで再創造するにあたっていくつもの課題が立ちはだかったことを明かしている。

「ヴェノムには、必ずデザインに組み込まなければいけない細かな特徴があります。巨大な歯、とても長い舌、表情豊かな目。そうした特徴をすべて理解したうえで、実写の世界で違和感のないものにしなければなりません。なかには、ゼロから生み出す必要のあった部分もありました。たとえば、ヴェノムの皮膚はどういう質感であるべきなのか。スクリーンでキャラクターに命を吹き込むため、VFXチームは素晴らしい仕事をしたと思います。」

ヴェノム
©&TM 2018 MARVEL

ハリウッドにおけるVFXのトップランナーであるポール氏は、これまで『ハリー・ポッター』シリーズなどで、ヴェノムと同じく現実には存在しないキャラクターに実在感を与える仕事を数多くこなしてきた。それでも『ヴェノム』が難しかったのは、本作の独自性がヴェノムという存在そのものにあったためだという。

「これまで手がけた映画と一番違ったところは、まさにヴェノム自身です。コミックにおいて、ヴェノムは抽象的なキャラクターだといっていいと思います。きちんと型が決まっているキャラクターでありながら、アーティストによって、登場するコマによって、(姿が)つねに変化している。しかもヴェノムには、形や状態を変化させる能力もあります。本当に難しいチャレンジでしたね。ヴェノムを正しく理解すること、映画全編を通じてコントロールすることが一番難しかったんです。」

そんなヴェノムを、ポール氏は「興味深い融合体」だと形容する。エディ・ブロックという人間と、シンビオートという液状の地球外生命体がひとつになっていることがヴェノムの最大の特徴だが、これはVFXチームにとって大変な難関となったようだ。

「ナメクジのようなシンビオートとエディが融合し、進化して、ヴェノムが生まれたように見える方法を発明しなければいけません。初めてヴェノムの姿が完全に見えるシーンには膨大な手間がかかっているんですよ。クリーチャーのアニメーションと複雑な流動体のシミュレーションとを組み合わせることで、エディの身体からヌメヌメしたものが這い出して、ヴェノムの形になるというエフェクトを作り上げました。」

ヴェノム生みの親、トッド・マクファーレン氏インタビューはこちら

VFX表現の「縛り」を「エネルギー」に

コミックにおけるキャラクターの設定や表現をVFXで変換していく一方、『ヴェノム』にはもちろん実写映画ならではの課題もあった。表現の土台であり、しかし場合によっては一種の足かせともなりうる、トム・ハーディをはじめとした俳優たちの演技もそのひとつである。

製作当初、『ヴェノム』の撮影にはモーションキャプチャーが採用されると伝えられていた。しかしトム自身よりも巨大で、なおかつ人間とは似ても似つかない顔のパーツを持つヴェノムを描くにあたって、モーションキャプチャーの使用はあっさりと見送られている。ポール氏も、キャラクターの見た目に俳優の容姿が反映されているわけではないことを認めている。

ヴェノムやライオットといったキャラクターの見た目は、俳優の姿を直接のベースにしたものではありません。ただし、彼らの身体的な演技がその出発点になっています。たとえばカールトン・ドレイクが初めてライオットに変身する場面は、リズ(・アーメッド)のダイナミックな演技から直接生まれたものですし、あそこでトムはリズの演技に反応しているんです。悪のモンスターが恐ろしい形で姿を現すことができるよう、シーンのエネルギーをキープして、さらに増幅させることに努めました。」

ヴェノム
(C) 2018 Columbia Pictures Industries, Inc. and Tencent Pictures (USA) LLC. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: c & TM 2019 MARVEL.

ここでポール氏は、VFXの土台として俳優の演技を捉え、そこからキャラクターの表現を生み出し、さらにシーンそのものや俳優の演技がもつエネルギーを増幅させるという発想を口にしている。これは表現上の縛りを活かし、そこにある余白を埋めていく作業ともいいかえられるだろう。ポール氏をはじめとするVFXチームは、コミックに描かれたヴェノムとも同様の姿勢でかかわってきたようだ。

「映画『ヴェノム』で素晴らしかったのは、まったく白紙の状態からデザインを始めたわけではなかったことでした。30年の歴史を持つコミックがありますから、考えうるかぎり、ほぼすべての状況におけるヴェノムを確かめることができる。つまり、最高の出発点があったわけです。しかも僕たちには、キャラクターの可能性を掘り下げていく自由も与えられていました。ファンのみなさんが見覚えのあるキャラクターを維持しながら、映画独自の部分を作り上げていくことができたんです。」

なおポール氏いわく、ライオットの造形には、ヴェノムよりも「少しだけ自由にやれる余地があった」とか。コミックにヴェノムほど多くのアートが存在しないことが理由だというが、「特徴である“ギザギザの目”はきちんと残しました」と強調している。

ヴェノム
©&TM 2018 MARVEL

ちなみに日本の視覚文化にも精通しているポール氏は、学生時代に葛飾北斎や歌川広重をはじめとする浮世絵師について学び、その構図やスタイルにも大きな影響を受けたとか。黒澤明や宮崎駿の大ファンであるほか、かつて作家・安部公房の戯曲を舞台作品として上演した際には、舞台美術とポスターのデザインを担当したという。あらゆるものからインスピレーションを得てきたことは、コミックの特徴をきちんと押さえながら、実写映画ならではの表現へとキャラクターを変換していく『ヴェノム』の仕事にも活かされているのだろう。

コミックから実写映画へと見事に移植されたヴェノムは、スクリーン狭しと暴れまわり、今度はブルーレイ&DVDとなってご自宅のテレビやモニターにも“感染”する。ポール氏がこだわり抜いた造形を、ぜひメイキングも含めて細部まで堪能してほしい。

ヴェノム
(C) 2018 Columbia Pictures Industries, Inc. and Tencent Pictures (USA) LLC. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: c & TM 2019 MARVEL.

『ヴェノム』ブルーレイ&DVDは、2019年3月6日(水)発売、同時レンタル開始。デジタル配信中。
日本限定の完全数量限定となるプレミアム・スチールブック・エディションには、劇場公開時に話題を呼んだ特典グッズを新カラーにした「オリジナル・ミニフィギュア(巻き付くベロ付き)」クリアカラーバージョンほか特典もたっぷり。限定ブックレットには、日本屈指のアメコミライターである杉山すぴ豊氏と、当メディア「THE RIVER」の編集長・中谷直登による特別コラムも掲載される。

ブルーレイ&DVDには、アクションシーンやVFXなどの撮影の舞台裏を描いたメイキング、未公開シーン集、エミネムによる主題歌「Venom」のミュージック・ビデオや、本編再生中にトリビア情報が表示される『ヴェノム』ポップアップトリビア、実写化までをミニドキュメンタリー仕立てで描いたメイキング映像「スクリーンに飛び出したシンビオート」を収録。2019年3月8日(金)に日本公開される話題作『スパイダーマン:スパイダーバース』の先取り映像も楽しむことができる。

■ブルーレイ&DVDセット 4,743円+税(2枚組)
■4K ULTRA HD & ブルーレイセット【初回生産限定】 6,800円+税(2枚組)
■日本限定プレミアム・スチールブック・エディション【完全数量限定】 9,200円+税(3枚組)
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式ホームページ:http://www.venom-movie.jp/
(C) 2018 Columbia Pictures Industries, Inc. and Tencent Pictures (USA) LLC. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: (C) & TM 2019 MARVEL.

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。