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【インタビュー】『WAVES/ウェイブス』トレイ・エドワード・シュルツ監督が語る音楽と家族 ─ 「登場人物と一体化して欲しい」

WAVES/ウェイブス
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

フランク・オーシャン、ケンドリック・ラマー、カニエ・ウェストなど豪華アーティストによる、現代を映す楽曲が全編を彩るWAVES/ウェイブスが7月10日(金)より公開となった。

監督・脚本を務めたのは『クリシャ』(2014)で全米のインディペンデント映画界の話題を集めた、トレイ・エドワード・シュルツ。『イット・カムズ・アット・ナイト』(2017)でも批評家から高い評価を獲得して、世界が最も注目する監督の一人だ。この度、THE RIVERはシュルツ監督に単独インタビューを実施。本作に込めた音楽やテーマなどについて尋ねてみた。

WAVES/ウェイブス
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シュルツ監督作品に共通する「家族」のテーマ

──前作『イット・カムズ・アット・ナイト』に引き続き、ケルヴィン・ハリソン・Jr.を起用した理由は何故でしょうか?

自然の流れでしたね。ケルヴィンとは『イット・カムズ・アット・ナイト』で出会い、そこから少しずつ仲良くなりました。彼は本当に素晴らしい俳優で、お互いにまた仕事をしたいと思ったんです。なので、次回作でも必ず演じられる役があると確信してましたよ。どんな役になるのかまでは決まっていませんでしたけど、ケルヴィンには事前に伝えていました。そこからポスト・プロダクションやプロモーション活動を重ねて、さらに仲を深めることになったんです。それで、実際に『WAVES/ウェイブス』の脚本を執筆することになった時、彼を起用したいと思う気持ちが強くなったんですよ。

脚本を執筆する前にケルヴィンとカウンセリングのようなことを何度か行いました。お互いがどこでどのように育ったのか、もしくは友人・家族・恋人について。そこで、ケルヴィンとタイラーの共通点が見つかって、私の中でキャラクターが確立されたんです。ケルヴィンはタイラーにもルークにも成り得たでしょうね。ただ、彼が話してくれたことがタイラーというキャラクターに繋がったんですよ。

その後も、話し合いを重ねながら脚本を執筆して、完成した初稿を彼に渡したら、とても気に入ってくれました。絶対にタイラー役をやりたいとも言ってくれたんです。それで、撮影開始の1年前ごろにケルヴィンと再び仕事をすることに決まりました。

WAVES/ウェイブス
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──本作の物語を思い付いたきっかけについて詳しく教えてください。

脚本を書き始める前までは、基本的に私の高校時代の個人的なことだったり、愛する人たちのことだったりを織り交ぜながら物語を構築しました。それと、ケルヴィンが教えてくれたことも反映してます。ただ、基本的には前々から自分の頭の中にあったものですね。とにかく、いつかは必ず作りたいと思ってました。そこから次々と描きたいことが増えて、今がその時だと最終的に考えるようになったというわけです。

──白人監督として黒人家族について描くにあたり、役者陣からの助言はありましたか?

この映画では、出来る限り詳細に物事を描く必要がありました。私が白人監督なので、本作で描かれる黒人家族が誰が見ても本物らしく見えるように、ケルヴィンから助言を貰いましたよ。例えば、「僕の父親だったら、こんな感じの喋り方をします」みたいなことですね。

あと、出演者の全員が納得するような黒人家族像を描きたかったので、間違っていると感じたり、違和感を芽生えたりする要素が含まれていないかなどはその都度、撮影前に話し合いました。私はそういう風に作品を作り上げていくのが好きなんですよ。

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──シュルツ監督は一貫して「家族」に焦点を当てた作品を手掛けている印象があるのですが、それは意識されているのでしょうか?

私にも正直わかりません。自然と導かれてしまうんです。作品を重ねるごとに、「家族」について深く考えるようになって。家族は私にとって何よりも大切で、誰にとっても身近な存在ですよね。これまでに手掛けた作品は全て個人的な内容で、それこそ私の身近な出来事や人から着想を得ています。なので、「家族」という存在に魅了されて、自然と導かれていくのでしょうね。この先も「家族」に焦点を当てた作品を作り続けたいですね。

息を呑む演出や圧巻の演技

──監督が最も気に入っているシーンについて教えてください。

そうですね……。本当に難しいですね。大好きなシーンが沢山あるので。作品の核となるような、湖の前でのエミリーと父親のシーン、寝室でタイラーと両親が口論するシーン、タイラーと父親が自宅で繰り広げる会話のシーン、クリニックに行った後にタイラーとアレクシスが大喧嘩するシーンとか。

音楽と映像が共鳴する、ミュージカルのような瞬間も気に入ってます。特に「I Am A God」(カニエ・ウェスト)が流れるシーンとか。あとはエミリーとルークが旅に出る時に流れるフランク・オーシャンの「Siegfried」、エミリーが車の中から身を出す時に掛かるSZAの「Pretty Little Birds」の場面も大好きですし、とにかく数え切れないほどありますよ(笑)。

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──画面のアスペクト比の縮小・拡大も印象的でした。この演出を活用した理由は何故でしょうか?

登場人物の心理状態や感情を観客に共有し、一体化して貰えればと思いました。そこで、観客と登場人物の距離感を縮める為にも「画面のアスペクト比の縮小・拡大」は絶好の方法だと気が付いたんですよ。

まずは「1.85 : 1」のワイドスクリーンで始まって、タイラーの世界に誘います。タイラーの物語が繰り広げられていくのを肌で感じながら、今度は彼の世界が崩壊していくと同時に画面も狭くなる。その後タイラーの世界が再び広がると、アナモルフィックレンズに切り替わり、「2.35 : 1」で映し出されていきます。そして、タイラーにある出来事が起こると、「1.33 : 1」へと一気に画面が縮小してしまう……という感じですね。

──実際の撮影現場では、役者たちにどれだけ自由に演技をさせたのでしょうか?

私たちは基本的に、撮影前に納得するまで役者と話し合うことにしているんです。リハーサルはやりませんけどね。頭が狂いそうになるので(笑)。それと、私は台詞に厳しくはありません。スターリング(・K・ブラウン)に関して言うと、最初の内は脚本に忠実でありながらも、そこから自分自身の解釈や微妙な表現を付け加えていくといったプロセスを繰り返すことが好きなんです。一方でケルヴィンは、そのやり方はあまり好きではなかったみたいですけど。

私が何よりも重要視していたのは物語から逸れないことだったので、そんなことにさえならなければ問題はありませんでした。それに、撮影時に予期しないことが起きるのも楽しみの一つなんですよ。「カット!」と言わずに撮影を続けて、役者たちがどんな感じで演じ続けるのかを観察するのも面白いですしね。もちろん、大半は使いものにならないものばかりですが、そこから想像もし得なかった瞬間が生まれることもあるんですよ。

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テレンス・マリック監督との出会いと影響

──以前、テレンス・マリック監督の作品でアシスタントとして働いていたそうですが、そこから学んだことや影響を受けたことは何かありますか? 

テリー(テレンス・マリック)は興味深い人ですからね。彼は天才かつ偉大な存在なので、全くもって同じことをやったとしても上手くいかないんですよ。それが、テレンス・マリックですから。自分のスタイルを探求する必要があるということですね。

19歳頃に初めて彼の作品に参加したんですけど、とにかく全てが衝撃的でしたよ。その後、私は短編映画を作り始めることになりました。散々な仕上がりの作品ばかりでしたが、その中で映像作家としての自分らしさや、世界に伝えたいことについて模索していったんです。

私はこれまでに、いわゆる正統派の撮影現場には参加したことがありませんでした。テリーの現場にしか入ったことがいないんですけど、彼の場合はとにかく型破りなんですよ。でも、それがテリーには上手くいくみたいで。そこで、彼には独自のやり方があることを知って、「そうだ。私も自分自身のスタイルを探し出す必要があるんだ」と思ったんです。だからと言って、テリー以外の人と同じことをしても意味がないですよね。なので、とにかく自分らしさを追求することが大事だと思います。若い頃にテリーと仕事を共に出来ていなかったら、今の私は一体どうなっていたことか。

WAVES/ウェイブス
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── テレンス・マリック監督は『WAVES/ウェイブス』をご覧になられていますか?

どうでしょうね。私の作品をご覧になったことがあるのかさえ知りません。彼とは『ソング・トゥ・ソング(原題)』(2017)でご一緒して以来、お話をしていないので。ただ、彼の妻アキー(アレクサンドラ・ウォレス)が『クリシャ』をSXSW映画祭でご覧になったことは伺ってますよ。とても気に入って頂けたみたいで。何にせよテリーには元気でいて欲しいですね。

登場人物の感情を表現した劇中曲

──本作で重要な役割を果たしている劇中曲の選曲基準について教えてください。

脚本を書き始めた時、劇中曲は様々な効果を発揮するものであるべきだと考えたんです。タイラーやエミリー、もしくは彼らの愛する人たちのように誠実でなければならないと。彼らがどんなことに直面しているのか、詩的・感情的・実験的に捉える必要があったんですよ。あとは当然、私が好きな曲である必要もありましたね。そこで、作品に当てはまりそうな曲を探して、脚本に書き起こしていくことにしたんです。そこから、プレイリストに入れたり外したりする作業に移行して、最終的に曲を上から順に並べたら、作品の核となるものが見えてくれば良いなと思って。それに加えて、音楽のリズム・ペースは私の思考と完璧に一致する必要がありましたね。

最終的に、劇中曲の選定は脚本を書いている時から編集作業まで続きましたよ。その過程で変更した曲もありましたけど、基本的には最初の段階で想定していたように仕上がりました。ただ、こんなにも楽曲の使用許可が下りるとは思いませんでしたけど。本当に運が良かったです。

──出演者は事前に音楽を聴かれてましたか?

どうでしょうね。脚本に書いてあったはずなので、事前に聴いていた人もいるとは思います。ただ、役者それぞれに別の考え方があるので、詳しくは知りません。ケルヴィンを含めて、テイラー(・ラッセル)とルーカス(・ヘッジズ)は物凄い音楽好きだったのですが、実際に何を聴いていたかまでは私にもちょっと……。

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──他に挿入したかった楽曲はありますか?

Spotify上のプレイリストには、劇中曲として採用しなかったものが50曲以上も多く含まれていたんですよ。それも作品の精神性に繋がるような。ただ、「この曲を挿入できたら良かった……」みたいなのは正直言ってありませんでした。もちろん、他にも好きな曲で使いたかったのはありましたけど。

──フランク・オーシャンがお気に入りのようですが、予告編で流れていた「Godspeed」は本編では何故、使用しなかったのでしょうか?

脚本の中には組み込まれていましたよ。ただ、最終的に「Godspeed」に近い要素のある「Seigfried」に変更することにしました。その理由というのは、編集にあるんです。実のところ、脚本は元々150ページ以上も長くて、最初に完成したバージョンは3時間半もあって。私自身は気に入っていたのですが、そこまで長いと誰も見てくれませんからね。ですので、最終的に削ることにしたんです。

──どんなシーンで「Godspeed」を使用する予定だったのですか?

元々、湖のシーンと旅に出るシーンの間に、さらに2つの場面があったんですけど、編集段階で削除することにしたんです。その結果、「Godspeed」が文脈上合わなくなり、「Seigfried」に変更しました。結果的に、完璧に当てはまったんですよ。むしろ、さらに詩的に機能していて、凄く美しい化学反応を引き起こしてくれました。それと私にとって「Seigfried」はフランク・オーシャンの中でもお気に入りの楽曲であり、恋人との大切な曲でもあるんですよ。

それでも「Godspeed」が予告編で流れているのは、最初の3時間半バージョンを基に作られたからじゃないですかね。本当に美しい曲なので、予告編だと輝きますよね。もちろん、「Godspeed」を使いたかったのですが、結果的にフランク・オーシャンの他の曲が使えたので最高でした(笑)。

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──音楽が相当好きのようですが、ミュージカル映画を手掛ける予定などはありますか?

えっと……。現時点では無いですけど、可能であればいつかはやってみたいです。ただ、今は『WAVES/ウェイブス』の製作を終えて疲れているので、とりあえずは創作について考え直しながら、次回作に向けてインスピレーションやアイデアを探求したいです。是非、やってみたいですけどね。

『WAVES/ウェイブス』作品情報

高校生のタイラーは、成績優秀なレスリング部のエリート選手で、美しい恋人のアレクシスと幸せな日々を送っていた。厳格な父親のロナルドとは距離を感じながらも、恵まれた家庭で不自由のない生活を送っていたタイラーだったが、ある日、肩の負傷が発覚し、選手生命の危機を告げられる。さらに恋人の妊娠も判明、人生の歯車が狂い始めたことでタイラーは自分を見失っていくのだった。そして、タイラーと家族の運命を変える悲劇が起こる。その1年後、心を閉ざした妹のエミリーの前に、全ての事情を知りながらも好意を寄せるルークが現れた。ルークの優しさに触れ、エミリーは恋に落ちるが、ルークもまた心の傷を抱えていた……。

傷ついた若者たちの物語を、息を呑むほど美しい映像と独創的なカメラワーク、圧倒的サウンドで描き出したのは『イット・カムズ・アット・ナイト』(2017)のトレイ・エドワード・シュルツ監督。タイラー役は同作に続いて監督とタッグを組むケルヴィン・ハリソン・Jr.、妹エミリー役は「ロスト・イン・スペース」(2018-)のテイラー・ラッセルが務める。エミリーに思いを寄せるルーク役の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)のルーカス・ヘッジズの他、ドラマ「THIS IS US」のスターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリーらが脇を固めた。

映画『WAVES/ウェイブス』は7月10日(金)より全国公開。

Writer

南 侑李
minami南 侑李

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「まるで、映像を見ているかのように読者が想像できるような」文章をモットーに映画の記事を執筆しています。四六時中、「映画」のことばかり考えている映画人間です。どうぞ、宜しくお願い致します。

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