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『七人の侍』を最高のヒーロー映画として再解釈する – まるで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』?

みなさん「午前十時の映画祭」はご存知でしょうか。全国各地の映画館で実施中のリバイバル上映企画です。基本的には1週間ごとにラインナップを入れ替えて過去の作品を上映しています。名画座が減りつつある今、大スクリーンで往年の名作が楽しめる貴重な機会です。

「午前十時の映画祭」で10月8日から絶賛上映中なのが『七人の侍』です。

http://asa10.eiga.com/2016/cinema/611.html

映画ファンでなくとも名前は聞いたことがあるであろう、邦画界に燦然と輝く不朽の金字塔です。しかし、実際に映画ファンの全員が見ているような作品かというと、必ずしもそうとは言えない気がします。おそらく日本映画史で最も高い評価を受けている黒澤明監督作であること、それから1954年公開のモノクロ作品で、3時間40分の長尺であることも重なって、少々鑑賞のハードルが高いのです。いわゆる”名作”としての評価を受けていることも、気軽に手をつけづらい堅苦しさに拍車をかけています。でも、本当はものすごく楽しい、究極のエンターテイメント作品なのです。気負ってみる必要はありません。熱く燃えるヒーロー映画の原点的作品と言っても過言ではないでしょう。それは一体どういうことなのか、詳しくその魅力を紹介します。

魅力その1:個性豊かな七人の侍たち

https://mubi.com/lists/my-favorite-films-in-no-particular-order--2
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この映画はタイトルになっている通り、侍たちが主人公なのですが、各キャラクターの性格はとても濃く、それぞれに異なる魅力を持っています。
指揮官の勘兵衛は常に冷静さを保ち、ほかの侍や百姓たちを優しく見守る父親ポジション。
七郎次は彼の忠実な家臣で唯一長槍を使う、五郎兵衛は穏やかな参謀役。平八はどんな時も笑いを忘れないムードメーカー。久蔵は寡黙ながら内に熱いハートを秘めた職人タイプの侍。勝四郎は誠実だがどこか未熟さに溢れた若造タイプ。菊千代はどこまでも間抜けだけど戦わせたらめっぽう強いコメディリリーフ、といった感じです。
観客の誰もが必ず一人はお気に入りのキャラクターを見つけるはずです。人気筆頭は菊千代とか久蔵でしょうか。ちなみに筆者の私は久蔵ファンです。多くを語らず、背中で語る漢といった感じで、ザ・サムライの風格が漂っています。それでいてキビキビ動くところもカッコいい(そしてちょっと面白い)ので強く推します。

魅力その2:泥臭くリアルな戦国時代の生活

世田谷に建てられたオープンセットで撮影された戦国時代の生活模様は、まさに人々の生活が息づいており、非常にリアルです。ドロドロの小道、崩れかかった木造の家々、着古して穴の空いた服、どれもこの村で暮らしてきた百姓の過ごしてきた時間の長さをダイレクトに伝えてくれます。最近の時代劇や大河ドラマのような小綺麗さはなく、ひたすら汚く百姓たちを描いているため、きっと本当にそうだったのだろうという気持ちにさせられます。私は、昔の日本人はこういう生活をしていたのだと感慨深い気持ちにもなりました。4Kデジタルリマスターで鮮明に蘇った映像の迫力は相応なもので、観賞後しばらく目にこびりついて離れなかったほどです。言葉では表現しきれない説得力がありました。

魅力その3:卑しく汚いけど憎めない百姓

『七人の侍』では傭兵として野武士打倒に精を尽くす傭兵としての侍とは対照的に、卑しく汚い存在として百姓は描かれています。彼らは社会的に弱い立場にいるため、侍の言うことには絶対服従だし、常に上層の人に対しては媚びへつらっているのですが、その本性は意地汚いものです。平然と嘘をつき、金目の物は裏に隠して困窮を装います。そしていつも自己の利益のみを考え、そのためには泥を啜りながら地面を這いずりまわることも平気でやってのけるような人間なのです。
しかし、賤しさの一方で、というかその表裏一体として彼らは子どものような無邪気さや純粋さと力強さを持っているのです。百姓は社会的地位の上ではかなり低い位置にいますが、侍よりよっぽどしぶとく強いのではないかと思います。この映画自体、タイトルは『七人の侍』だけど、本当の主役は無数の百姓たちなのではないでしょうか。

魅力その4:熱く燃える最高の”ヒーロー映画”

最後に『七人の侍』最大の魅力をご紹介します。それはこの映画が紛れもなく最高の”ヒーロー映画”だということです。
百姓たちが野武士対策で集めた傭兵たちこそ七人の侍なのですが、そもそも百姓に雇われようとする侍などなかなかいません。報酬もお金や地位ではなく、「お腹いっぱいご飯を食べられること」です。そんなわけで集められた7人は相当の変わり者、もしくははぐれ者なわけです。しかし彼らは百姓たちと協調し、頭脳と作戦で凶悪な野武士たちを倒していくのです。惨めな百姓と、仕事もなくフラフラしていた侍たちがチームアップして困難に立ち向かい、やがてヒーローのように活躍していく。まるで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ですね。とても熱いです。燃えます。

 

以上4つの観点から魅力を紹介しましたが、いかがだったでしょうか。劇場で『七人の侍』を見られる機会なんて滅多にありません。3時間40分とかなり長く、間にインターミッションが入るぐらいなので、なかなか時間を確保するのは難しいかもしれません。しかし、逃してはもったいないチャンスです。ぜひ、映画館に足を運んで不朽の名作を肌で感じてみてください。

 

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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