やる気が出ない、挑戦が怖い時に読む ─ 『天才たちの頭の中』監督に聞いた「クリエイティブ」になれる方法

はぁ。やる気が出ない。やらなくちゃいけないのは分かっているのに、どうにもやる気が出ない。
もしくは、やるのが怖い。失敗するんじゃないか。こんなことをやるって言ったら、周りの人になんて思われるか。実行に移すのは、もうちょっと準備をしてからにしよう。
分かってる。「やりたい」とか、「やる」とか、「やらなきゃ」と言ってから、もう随分と時間が経っている。時間が経てば経つほど、自分に対する罪悪感が沸いてくる。自己承認ができなくなる。やっぱり自分は出来ないやつだって、落ち込んだりもする。気晴らしにSNSを開く。タイムラインでは、他のヤツがまた華々しい成果を報告している。みんなが「いいね!」と言っている。
はぁ。ますますやる気が出ない……。
時々、シャイア・ラブーフが「Just Do It!」と叫んでいたのを思い出す。シャイアはあの珍妙なビデオを投稿して、みんなから笑われた。でも、彼の言っていることは真理だった。世界中のレジェンド級に凄い人たち、例えばデヴィッド・ボウイとか、スティーブン・ホーキング博士、ダライ・ラマ、ネルソン・マンデラ、それから北野武なんかにも、「なぜあなたはクリエイティブなんですか?」と30年間も執念と共に聞き続けた映画監督のハーマン・ヴァスケも、全く同じことを僕たちに教えてくれたのだから、間違いない。
なぜあなたはクリエイティブなんですか

このハーマン・ヴァスケという人も、凄い人だ。ドイツ出身で、もともとはロンドンの名門広告代理店にいた。“クリエイティブ・ディレクター”の下で“クリエイティブな案件”を産み出す“クリエイティブ部門”で働いていたハーマンは、「BMW」とか「フォルクスワーゲン」みたいなナショクラ案件をバリバリこなしていた。でも、ハーマンにも悩みはあったらしい。「クリエイティブって結局なんやねん」と。
だから、さっき書いたようなレジェンド級の人たちに会いに行って、ただ一問「なぜあなたはクリエイティブなんですか?(“Why are you creative?”)」と聞いて回った。カメラとスケッチブックを担いで、世界中だ。時にアポなし、時にぶら下がり取材でアタックしたのは1000人以上。見上げた実行力だ。その集大成を、『Why Are You Creative?』という映画にまとめた。日本では『天才たちの頭の中 ~世界を面白くする107のヒント~』というタイトルで公開中だ。このポスターを観ただけでも、そのメンツの凄まじさは分かるだろう。

筆者は、ハーマン・ヴァスケに会いに行った。この映画を観て、頭の中の霧がすこし晴れたような気がしたからだ。だって、この映画に登場する人たちは、みんなそれぞれの立場から「クリエイティブとは」を教えてくれるんだけど、それぞれ言うことがやっぱり独特だし、言っている内容がバラバラだったりする。てっきり、こういう人たちは「クリエイティブとは」みたいな本質を崇高に語れるもので、その語りを集合させれば、すごく尊い真理みたいなものが浮かび上がると思っていた。でも、そういうわけでもない。クリエイティブの真理に対しては、これほどの人たちであってもショートカットなぞ存在しないのだと教えてくれるのだ。
もちろん、映画に登場する107人もの凄い人達が紡ぎ出す言葉の中には、誰にでも1つは「ハッ」とさせられる考え方が混じっている。ピンポイントで気付きを貰って、大局的に納得できる。クリエイティブな面で悩んでいる人なら、観ておいて損はないドキュメンタリー映画だ。
だから筆者は監督に会ったとき、まず始めに実直に伝えた。「この映画を観た時、僕は自分自身をクリエイティブに持っていくことが出来なくて悩んでいたんです」とか、「スランプだったと思います」と。「でも、この映画がヒントと安心をくれました」と。そうしたら監督は「そう思ってもらえるのは興味深い」と答えた。
なんでも、この映画をフランスやドイツ、オーストリアで上映した時、終映後に筆者みたいな人がやってきて「頭の中で何かが塞がっている気がしていたんです。何をしたら良いのか分からなくて。でも、この作品を観て、何をすべきかアイデアが得られました」というようなことを何度か言われたらしい。