『ティファニーで朝食を』日本人への偏見「ユニオシ」の変化と、真田広之がたどり着いた栄冠の意義

第76回エミー賞では、「SHOGUN 将軍」が作品賞や主演男優賞(真田広之)など最多で総取りする歴史的快挙となった。長年ハリウッドで孤軍奮闘し、“正しい日本描写”のために戦い続けた真田の努力がようやく報われた。なおも真田は、「今後の業界、若い俳優たちに大きな布石になる」と、次世代への思いを馳せる。
日本人が米テレビ界の最高峰として認められるまでには、途方もなく長い道のりがあった。その苦節の原点のひとつとなるのは、1961年公開のオードリー・ヘプバーン主演映画『ティファニーで朝食を』の“ユニオシ”だと言えるだろう。
ユニオシは白人俳優のミッキー・ルーニーが演じた日本人カメラマン。ヘプバーンが演じた主人公ホリー・ゴライトリーのアパート階上に住み、ホリーが流すレコード音楽に口やかましく苦情を入れる住人だ。
背が低く、出っ歯で、吊り上がった目に黒縁メガネ。妙な日本趣味の部屋にひとりで住み、癇癪持ちで、カタゴトの英語で口角泡を飛ばす。清潔感があって、煌びやかで、穏やかなオードリー・ヘプバーンとは真逆の存在であるように、劇中では奇妙で、厄介で、脂ぎったアジアの中年として描かれる。ユニオシは原作小説では紳士的なキャラクターだったのだが、映画版ではアメリカ社会における日本人への偏見や不理解が無礼な形で表されているとして、現在では大きな批判と反省の対象となっている。
1961年の映画公開以来、近年までにアメリカでのユニオシへの印象はいかに変化したのだろうか。業界誌The Hollywood ReporterやVarietyにて公開当時に掲載された批評記事のアーカイブを確認すると、この頃は単にユニオシのキャラクター自体が「不快」であったり「不必要に不自然」であったりとされるばかりで、日本人に対する偏見が混じっていやしないかなどの検討には至っていない。ちなみに、当時ブルース・リーが恋人と映画館で本作を鑑賞していたところ、ユニオシの描かれ方とハリウッドでの自身の経験とが重なり、動揺して途中退席したというエピソードが残っている。
ユニオシについて「不快なステレオタイプ」であるとの批判の声が高まるようになったのは、公開から30年が経過した1990年代ごろのことだ。さらに2000年代に入ると、「明らかに人種差別的だ」「マヌケで無礼な人物として描かれたというだけではなく、メイクを多量施した白人俳優によって演じられたということで、アジア人コミュニティに二重の打撃を与えた」と強く批判されるようになった。
「『ティファニーで朝食を』の最大の欠点は、公開当初は問題視されていなかった。しかし、40年(編注:当時)の時を経て振り返ってみると、ミッキー・ルーニーが演じたMr. ユニオシというステレオタイプ的なアジア人キャラクターを登場させたことは、不愉快極まりない」と、映画評論家ジェームズ・ベラーディネリは書いている。ユニオシの描写が大きく問題視されるようになった近年、アメリカでの上映会企画ではボイコットが起こるほどに至っている。
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