『ズートピア』には盗作疑惑があった ― ベテラン脚本家はなぜ2度もディズニーを訴えたのか

ウォルト・ディズニーが2016年に発表し、全世界で絶賛を集めた映画『ズートピア』。動物たちの社会に現実世界の構造や情勢を映しながら、圧倒的に力強く、そして“ちゃんと前を向いて”“進んでいく”というメッセージを打ち出した本作は、全世界で高い人気と評価を獲得した。
しかし公開の翌年にあたる2017年、この映画はハリウッドのとあるベテラン脚本家から「盗作」だと訴えられることになる。映画『トータル・リコール』(1990)に携わり、『マイノリティ・リポート』(2002)では製作総指揮を務めたゲイリー・ゴールドマン氏だ。

実はこの訴訟、2017年7月に一度終結を迎えながらも、2018年2月に再び始められている。すなわちゲイリー氏は、かのディズニーを相手取りながら、「『ズートピア』は盗作である」と2度にわたって訴えたわけなのだ。実になんともいえない気持ちになる、本件の経緯を今回は振り返っていくことにしたい。

『ズートピア』盗作疑惑をめぐる2度の訴訟

最初にゲイリー氏が訴訟に踏み切ったのは2017年3月21日(米国時間)のこと。『ズートピア』は自分が2000年に考案した企画の盗作であるとして、ディズニーを相手取り、米国連邦裁判所に訴え出たのだ。ゲイリー氏はキャラクターのデザインや設定、物語のテーマや流れ、劇中のセリフ、さらには「ズートピア」という名称を無断で使用されたと主張していた。

このときゲイリー氏は、2000年8月に全米脚本家組合へ自身が登録した実写映画の脚本(厳密には要約である)『ルーニー(Looney)』を盗作の根拠としている。
ゲイリー氏によれば、『ルーニー』は「ズートピア」シリーズの第1作として構想されたもので、のちに「ズートピア」というタイトルのアニメ作品も予定されていたという。このアイデアには、動物たちの世界に人間社会を反映し、階級や権力の構造をさまざまな種族の特徴にもとづいて描くというコンセプトが含まれていたとゲイリー氏は主張。キャラクターを制作するためにゲイリー氏はアニメーターを雇っており、当時描かれたデザインと『ズートピア』のキャラクターは非常に似ているという。
実際にディズニーの幹部に対して、ゲイリー氏はこれらのアイデアを2000年と2009年の2度にわたって提案している。しかし、当時のアイデアはディズニー側から映画として制作することを拒まれたというのだ。

この訴えの中で、ゲイリー氏は「ディズニーは自社の著作権を厳密に守らせるが、他人の作品を無許可で複製することは認め、奨励している」と断固たる態度を見せている。この訴訟に応じて、ディズニーはゲイリー氏の主張を「虚偽の主張に満ちている」と真っ向から否定。裁判で徹底的に戦うことを明言した。

こうして2017年3月に始まった1回目の訴訟は、約4ヶ月後の2017年7月11日(米国時間)に判決が下されている。ゲイリー氏は膨大な資料を用意して裁判に臨んだようだが、「『ズートピア』は盗作である」というゲイリー氏の訴えは退けられた
この判決について、マイケル・フィッツジェラルド裁判官は、盗作が事実であるという根拠をゲイリー氏が十分に提示できなかったこと、むしろ主張の内容が具体的な部分を曖昧にしていくものだったことを主な理由としている。

 

しかしゲイリー氏はくじけなかった。判決から約7ヶ月後の2018年2月13日(同じく米国時間)、連邦裁判所ではなく、今度はロサンゼルス高等裁判所に再び訴えを提出したのだ。“あきらめないでいこう、どんなことがあったとしても”とはこのことである。主張は1回目の訴訟と同様、キャラクターのデザインや設定、物語や「ズートピア」という名称はすべて自身のアイデアの盗用だとする内容だった。とにかく“少しずつ進めばいい、出来ることをやるだけ”という姿勢が見てとれるというものだ。
ただし、このときディズニーは、もはやゲイリー氏の訴えについて公には応答していない。訴訟を報じた米Deadline誌も「場所を変えることで努力が報われるのを明らかに期待している」と冷ややかな視線を向けたのだった。

Deadline誌の記事では、ゲイリー氏のチームが裁判のため提出した、当時制作されたキャラクターのデザインと『ズートピア』のキャラクターを比較する資料を見ることができる。この記事で同誌は「見比べて楽しんでください」と記しており、あくまでゲイリー氏を突き放した姿勢だ。“ダメだった、うまくいかない、そんなことばかりよね”。

なお2018年6月12日現在、ゲイリー氏による『ズートピア』盗作疑惑をめぐる2度目の訴訟について続報は公に伝えられていない。1度目の訴訟が約4ヶ月で終わったことを鑑みると、今回も遠からず判決が下される可能性があるだろう。ゲイリー氏の訴えが認められるのか、今後の動向に注意しておきたい。

しかしながら2度目の訴訟でも主張を認められなかった場合、ゲイリー氏は今後も“やるのよ、何度も”という姿勢を貫いて問題ないのだろうか。ディズニーを相手に“何度でも、ダメだとしても、向かっていけばいいよ”とは言いがたいわけだが、こればかりは“失敗することでもっと強くなっていくんだから、だからいいの”ということなのか。もちろん“間違えることでやっとわかることだってある”わけだが……どうか“がんばりすぎないでね”……。

映画『ズートピア』のMovieNEXは現在発売中。世の中には“平気よ、うまくいくわ”とは言えないこともある。

Sources: Variety, Deadline
Eyecatch Image: Photo by Mike Mozart Remixed by THE RIVER

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THE RIVER編集部。わかりやすいことはそのままに、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすくお伝えしたいと思っています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp へ。

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