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『007』シリーズ、女性「00エージェント」過去にも存在していた ─ 黒人女性が「007」継ぐ報道受け、ファンの指摘相次ぐ

BOND 25(仮題)
Jasonbellphoto

『007』シリーズ最新作『BOND 25(仮題)』で、黒人女優ラシャーナ・リンチ演じる新キャラクターが、ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドから「007」のコードネームを受け継ぐ。英国のタブロイド紙を発端とする――それゆえ信憑性に疑問も残る――この話題は、たちまち世界中を駆け巡った。もちろん反応は賛否両論、なかには「ポリティカル・コレクトネスによってシリーズがぶち壊されてしまう」との意見すら聞かれたのである。

経緯はこちら

しかし、あわてるのはまだ早い。今回の騒動を受けて、『007』シリーズのファンは非常に冷静な指摘を繰り出した。そもそも『007』シリーズには、過去にも「00」のコードネームを持つ女性エージェントが存在したというのである。本記事では既報や関係者による過去のコメントを含め、『007』シリーズの歴史や『BOND 25』の内容に迫っていくことにしたい。

女性の00エージェント、過去にも登場していた

そもそも「007」とは何か。イギリス秘密情報部(MI6)に所属する、特別に殺人許可証(殺しのライセンス)を与えられたエージェントのチーム「00セクション」の一員であることを示すコードネームである。「007」ことジェームズ・ボンド以外にも、「00」のコードネームを持つエージェントは存在しており、たとえば『007 ゴールデンアイ』(1995)の悪役アレックは、MI6時代に「006」として活動していた。

先日の報道によると、『BOND 25』ではジェームズ・ボンドがMI6を去り、「007」をラシャーナ・リンチ演じるノミが引き継ぐことになるという。あくまで、ジェームズ・ボンド自身はジェームズ・ボンドのまま。英Daily Mailに証言した関係者によれば、「映画冒頭に、Mが“007、入りなさい”と呼ぶと、ラシャーナ演じる美しい黒人女性が入ってくるという重要なシーンがある」というのだ。

公式発表されているあらすじによると、『BOND 25』では「ジェームズ・ボンドは現役を退き、ジャマイカで穏やかな日々を過ごして」いるとのこと。そこに「旧友のCIAエージェントであるフェリックス・ライターが、誘拐された科学者を救い出してほしいとボンドのもとを訪ねて」くるのだ。冒頭時点でボンドが引退している以上、別の人物が「007」となっていても不思議ではないだろう。そこから物語がどう転がるのか、ボンドが再び「007」に復帰するのかはまた別の話だ。

BOND 25(仮題)

では、過去に女性エージェントが「00セクション」に所属していたことはあったのか。「ボンド・ファン」を肩書にするライターのマーク・オコネル氏は、「女性も00エージェントになれるし、もちろん2020年のボンド映画も同じ。1965年の時点で実現されている」と指摘する。『007 サンダーボール作戦』(1965)で、00エージェントが集合するシーンに女性の姿が確認できるのだ。

同じくライターのダニエル・ロビンソン氏は、『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)にも女性エージェントが存在すること、彼女が「004だと思われる」ことを記している。

さらに米ScreenRantは、『007 スカイフォール』(2012)でナオミ・ハリスが演じたイヴが、冒頭ではMI6のフィールド・エージェントとしてボンドと任務にあたっていたことも参照している。MI6のエージェントとして活動している以上、彼女も能力次第では「00セクション」に入ることができたかもしれない。もっともイヴの場合、冒頭でボンドを誤射するという大ミスをかましてしまうわけだが、黒人女性が00エージェントになることはシリーズの歴史を鑑みても不思議ではないのである。ただ、「007」への就任がイレギュラーであるというだけだ。

『007』シリーズと女性キャラクター

『BOND 25』における女性の扱いについて、特に大きな役割を担っていると思われるのが、ダニエル・クレイグに招かれて脚本家として参入した、「Fleabag フリーバッグ」(2016-2019)「キリング・イヴ/Killing Eve」(2018-)のフィービー・ウォーラー=ブリッジだ。後者は女性ふたりを主人公とする息もつかせぬスリラー作品で、その類まれなる筆力が高く評価された。

本作のストーリーが『007』やジェームズ・ボンドに大きな変化を与えるものでないこと、一部で言われているような「ポリティカル・コレクトネスによってシリーズを破壊する」意図をもって作られていないことは、2019年5月、米Deadlineのインタビューでフィービー自身が明らかにしている。

「ジェームズ・ボンドという人物について、また彼が女性をどのように扱っているかという点から、(『007』シリーズは)現代にもふさわしいものかどうかという話し合いを重ねてきました。くだらないことだと思います。彼は現代にも絶対に通用しますよ。だけど成長する、進化する必要はあります。大切なのは、女性を適切に描く映画であること。彼自身はそうでなくても良いんです。彼はキャラクターに忠実であるべきですから。」

さらに『007』シリーズを手がけてきたバーバラ・ブロッコリ氏が、2018年10月、ジェームズ・ボンドは男性であるべきだと明言していたことも振り返っておこう。

「ボンドは男性のキャラクターです。男性として(原作小説に)書かれていますし、きっと今後も男性としてありつづけると思います。[中略]男性のキャラクターを女性に変更する必要はありません。(必要ならば)女性のキャラクターを生み出して、女性のキャラクターに合った物語を作りましょうよ。」

とにかく現時点で、あらぬ心配は無用だろう。むしろ気になるのは、ラシャーナ・リンチ演じるノミが「007」を継ぐという設定が事実なのであれば、そこにはストーリー上の大きな狙いがあるはずだ、というところである。この設定がどんな展開につながり、どんなテーマに結びつき、そこで何が描かれるのか、どんな世界を観客に見せてくれるのか、それこそがフィクションの面白味ではないか。

映画『BOND 25(仮題)』は2020年 日本公開予定

Sources: SR, Deadline, Daily Mail

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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