【考察】『20センチュリー・ウーマン』のアビーに見る、「葛藤を抱えた女性キャラクター」描かれ方分析

2012年公開『人生はビギナーズ』から5年。マイク・ミルズ監督の最新作『20センチュリー・ウーマン』が2017年6月3日より公開されました。
監督自身のお父さんとのエピソードを軸とした『人生はビギナーズ』に代わり、今回は監督のお母さんがモデルとなっています。その意味で、『人生はビギナーズ』の続編としても興味深い本作。母・ドロシア役を演じているのは、アネット・ベニング。『人生はビギナーズ』に登場した主人公の母・ジョージア(メアリー・ペイジ・ケラー)を彷彿とさせる、奇怪でクールな人物として描かれています。
しかしそれ以上に注目したいのは、アビーというキャラクターです。奇抜なファッションと言動で皆を触発していく存在ですが、このタイプのキャラクターには、表面上の明るさの奥に深い葛藤を抱えているという共通点があります。
『20センチュリー・ウーマン』のアビー、そして同じ葛藤を有する別作品のキャラクターたちを通して、損得抜きに行われる活動を通じた、切実な自己表現について考えてみたいと思います。
葛藤を有する女性キャラクターたち
アビー(写真家)/『20センチュリー・ウーマン』
Fall in love with Greta Gerwig all over again. She’s a magnetic, heartbreaking wonder in #20thCenturyWomen. pic.twitter.com/ww9sLAVVeL
20th Century Women (@20thCentWomen) 2016年12月6日
演じているのは『フランシス・ハ』や『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』で主演を務めたグレタ・ガーウィグ。エキセントリックで自由奔放なキャラクターを得意とする、注目の女優さんです。
『20センチュリー・ウーマン』は1979年のサンタバーバラを舞台とした群像劇。15歳の少年・ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)とシングルマザーの母・ドロシアの、監督曰く“親子というよりは夫婦”のような関係を軸として、ジェイミーの幼馴染であるジュリー(エル・ファニング)や、ドロシアの部屋を間借りしているアビーらの青春が紡ぎ出されています。
アビーは写真家として、自分をどう表現するかに日々苦悩しながら、芸術活動に打ち込んでいる24歳の女性。髪の毛から服装に至るまで真っ赤に染まっている彼女は、社会通念から外れた行動で周囲を戸惑わせていきます。
かつてはアーティストとしてニューヨークへ憧れを抱いていましたが、子宮頸がんを患ったことで地元・サンタバーバラへと帰郷。記者として働きつつ、自らを形成するパンクと写真に熱中する日々を送っています。私物を一つずつ写真に収めて自分を定義したり、男性と関係を持つ際はドラマ仕立てだったりと、独特の基準を持つアビー。年頃のジェイミーを気にかけたドロシアによって、ジェイミーに“生き方を教える存在”に任命されます。
しかし偏った性教育を施したり、夜のクラブに引っ張りまわしたりとやりたい放題。自らの人生哲学を教え込んでいきます。むしろジェイミーの方がアビーを見守っているようでさえあり、一回りも離れたジェイミーとは同い年のように気が合い、姉弟のような関係になっていきます(実際に監督のお姉さんがモデルになっているそう)。
時にはジェイミーやジュリーに白い目で見られたり、食事の席で性教育の持論を白熱させてドロシアを怒らせたりしますが、そんなアビーが苦難を乗り越える際に身に付けた哲学を、音楽や本、そして写真を通してジェイミーに継承していく姿には胸が熱くなります。エンターテイメントを通して自分を解き放つ彼女のアプローチは、まさしく映画を通して様々な人生の一端に触れようとする観客の心に、切実に届くのではないでしょうか。
演じたグレタの魅力もあり、不謹慎で不格好ながらも愛おしいキャラクターであるアビー。その雰囲気はどことなく、リブート版『ゴーストバスターズ』のホルツマン(ケイト・マッキノン)を彷彿とさせるデンジャラス感なのですが、何とグレタとケイトは舞台で共演した仲であり、親友なのだそう。
ジリアン・ホルツマン(メカニック)/『ゴーストバスターズ』
超絶的な存在感でリブート版『ゴーストバスターズ』に寄与したケイト・マッキノン演じるジリアン・ホルツマンもまた、悩めるアーティストの一人。奇抜すぎるファッションにエキセントリックな頭脳を持つ天才メカニックですが、かつては孤独だったらしく、時折見せるコミュ障な一面こそが最大の魅力だったりもする猫系かまってちゃんです。