圧倒的な魔術を描いた異端のホラー映画、静寂なる闇の胎動『A DARK SONG』の片鱗を垣間見る

この世界には「魔術」というものが存在する。

魔術などという怪しげな世界にはあまり関わったことがないよ・・・、と思っている方が多いかもしれないが、身近なところで言えば「占い」もまた魔術の一種である。そう考えると、昨今ではちょっとした占いの類は世に溢れているから、接したことのない人のほうが少ないかもしれない。

今日見るような魔術の原型は古く、その誕生は五千年以上も前の古代エジプトだと言われている。

原始的な魔術はその後紆余曲折あり、ここではその詳細の解説はあまりにも膨大になるので割愛させて頂くが、そこからカバラやヘルメス学などが生まれ、中世以降には大枠として3つの魔術に分類されている。1つはカバラとヘルメス学からなる本流魔術、1つは土俗信仰の魔術、そしてもう1つは前者2つ、本流魔術と土俗魔術の混合の魔術である。

A Dark Song

https://vimeo.com/user19562863

これら3種類の魔術はキリスト教の対抗勢力として闇の中で伝えられてゆくのだが、十字軍の遠征が幕を閉じるとカトリック教会は敵をヨーロッパ内部に求めるようになる。ご存じの方も多いと思うが、それがかの暗黒時代、異端審問や魔女狩りの熱狂につながってゆく。しかし近代的な合理主義の台頭とともに時代は移り変わり、その動乱の時代をなんとか生き延びた魔術師たちの秘儀はいまでも脈々と受け継がれているという。

というわけで、今回はそんな魔術を圧倒的なテーマとして描き出した作品をご紹介したい。

『A Dark Song』

先日、米国で行われたファンタスティック映画祭でも上映された『A Dark Song』である。

監督と脚本を務めるのはリアム・ギャビン(Liam Gavin)であり、これが長編のデビュー作となる。そして主演を務めるのはキャサリン・ウォーカー(Catherine Walker)とスティーブ・オラム(Steve Oram)。

物語の軸は前述の通り魔術、それもいわゆる黒魔術と呼ばれる部類のものであり、主人公であるソフィア・ハワードという女性が、ある魔術の儀式を執り行うためにジョセフ・ソロモンというオカルティストを雇うところから始まる。そして、その魔術を成就させるにはなんと6ヶ月という期間が必要になるという、正に魔術に塗れた作品。ホラー映画というジャンルの中でも、独特のスタイルを持った珍しい作品だとの声も多いという。

それでは予告編をご覧いただこう。

A DARK SONG TEASER from David Collins on Vimeo.

 

打ちひしがれた女性と寡黙なオカルティスト、その共同生活の静寂、徐々に胎動を現しだす黒い魔術。美しい映像ながらも、重厚な恐怖の描き出された作品であるように伺える。

そして予告編の冒頭に掲げられる以下の言葉。

“For he shall give his angels charge over thee, to keep thee in all thy ways.”

PSALM 91

これは旧約聖書の詩篇91の一説、以下の部分である。

「これは主があなたのために天使たちに命じて、あなたの歩むすべての道であなたを守らせられるからである。」

ぼくは聖書学には精通していないので詳細な解説は控えさせて頂くが、詩篇91は、さまざまな困難を歩むときに常に守っていてくれる存在について語ったものだという、なるほど、実に意味ありげで恐ろしい。また個人的に興味深かったのは、オカルティストのソロモンがソフィアの背中に描いてる怪しげな文様の中に「漢字」に似たものが含まれてたことである。

A Dark Song

https://vimeo.com/user19562863

ソロモンと言えば魔術にも深い関連のある名前、作者不明のヨーロッパの古典的魔術書に『ソロモンの鍵』というものがあり、ソロモン王に由来すると偽った文献群、いわゆる「偽ソロモン文書」というべき魔術書群の中のひとつである。

長きにわたってユダヤ教の伝承では、ソロモン王は「知恵文学」の著者とされており、一説には神から知恵(指輪)を授かった、もしくはユダヤ教の秘儀カバラが記された『ラジエルの書』を託されたとも言われ、多くの天使や悪魔を使役したとされている。また中世盛期以降には、魔術師が悪霊を呼び出す術(ネクロマンシー)について記した、それまでとは趣を異にする偽ソロモン文書がヨーロッパで流布するようになったと言われている。

A Dark Song

https://vimeo.com/user19562863

予告編の後半にはなにやら異形めいたものが蠢いているのが描き出されているが・・・、この魔術は前述の悪霊を呼び出す、あるいは死者を呼び出すと言われるネクロマンシーに関係しているのだろうか。

というわけで、予告編に触発されて余計な魔術の話に飛び火してしまったが、もしかすると本編鑑賞前に、簡易的にでも魔術の基礎知識を頭に入れてから臨んだほうが、より作品を満喫できるのではないだろうかというのが、ぼくの個人的な助言である、余計なお世話とも言う。

「魔術の基礎知識なんてどこので頭にいれるんだよ?」という方は、まあ、手頃なオカルティストを雇うか、近所を徘徊するネクロマンシー使いの老婆、つまりネクロマンサーを探すより他はないであろう。

「餅は餅屋」という言葉通りである。

About the author

普段はあまり摂取しないコーヒーとドーナツを、無駄に欲してしまう今日この頃。You know, this is - excuse me - a damn fine cup of coffee.

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