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まさにマジック!映画界に映像革命をもたらし続けるVFX工房『ILM』の過去、現在、そして未来

映画ファンならば、ILMという名称を目にしたことがあるという人が多いはずだ。ILMとは、主にハリウッド映画などのビジュアルエフェクト(VFX=視覚効果)やスペシャルエフェクト(SFX=特殊効果)を支える工房、「インダストリアル・ライト&マジック(Industrial Light & Magic)」の略称であり、現在公開中の『ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー』をはじめ、これまでに数多くの大作映画を中心に担当している、言わば老舗だ。

さかのぼると、ILMはジョージ・ルーカスが自身の監督作である1977年公開の『スター・ウォーズ 新たなる希望』のために立ち上げた工房になる。X-ウィングやミレニアムファルコン号が活躍する宇宙空間の戦闘シーンだけでなく、スター・デストロイヤーなど巨大戦艦を舐めるように撮影した「モーション・コントロール・カメラ」を開発したのもILMだ。

スター・ウォーズシリーズ以降、さまざまな事業展開を経て、視覚効果界のトップに上り詰めた現在のIMLの形がある。これまでに関わった本数は数知れず、アカデミー視覚効果賞(以下、視覚効果賞)の常連でもある。2011年にはフルCGアニメーションも製作し、その第一弾作品となったゴア・ヴァ―ビンスキー監督の『ランゴ』がいきなりアカデミー長編アニメーション部門を受賞していることからも、やはり同社の技術力の水準の高さが伺える。

名立たる監督からの信頼も厚く、スピルバーグやマイケル・ベイ、ジェームズ・キャメロン、ロバート・ゼメキス、J・J・エイブラムスといった映画史に名を刻む作品を演出する面々が並ぶ。また、『ジュマンジ』や『ジュラシック・パークⅢ』のジョー・ジョンストン監督もILMの視覚効果部門出身であり、自身が視覚効果賞の受賞経験者でもある。『セブン』、『ゴーン・ガール』のデヴィッド・フィンチャー監督も一時ILMに在籍していた過去がある。俳優のマシ・オカもILMの正規開発エンジニアというのも面白い。

ここで、ILMの過去から現在、未来に至るまでの作品を辿ってみよう。

過去

スター・ウォーズシリーズで始まったILMのキャリアはルーカスからスピルバーグへと引き継がれる。80年代、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』、『E.T.』、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』は立て続けに視覚効果賞の受賞を果たした。85年から始まったスピルバーグ製作総指揮、ロバート・ゼメキス監督の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズPart1~3での功績も大きい。90年には黒澤明監督作品である『夢』のVFXにも携わっている。

その90年代に、ILMの技術はさらなる飛躍を見せる。「液体」の表現だ。ジェームズ・キャメロン監督の『アビス』での技術を持ち込んだ『ターミネーター2』は、敵のT-1000型が液体金属となって滑らかに自在に姿を変える映像は大きな話題となり、『アビス』に続きVFXマンのデニス・ミューレンはこちらもで視覚効果賞を獲得している。ちなみに、その技術を揺らめく炎に応用したのが、ロン・ハワード監督の『バックドラフト』だった。

『永遠に美しく…』で視覚効果賞後の、1993年。のちに映画史に残る傑作となり、ILMの映像革命を高らかに象徴する映画が登場する。スピルバーグが恐竜を現代に蘇らせた『ジュラシック・パーク』だ。この作品では、当初ILMのフィル・ティペットによるストップ・モーション・アニメで恐竜を表現する計画だったが、技術の進歩を予見したデニス・ミューレンが、CGでの表現をスピルバーグに提言。その結果、ティペットのデータをCGに取り込み、クローズアップ部分を特殊メイク・造形アーティストのスタン・ウィンストンがアニマトロニクスで担当するという新旧の技術の融合することによって、まさに本当に目の前に生きて存在しているかのように、恐竜たちをスクリーンの中に蘇らせた。咆哮し、駆け、執拗に迫り来る恐竜たちの姿は多くの観客の度肝を抜き、今なお愛され続けるシリーズの記念すべき第一作となった。

96年には『スピード』のヤン・デ・ボンが監督した『ツイスター』で、空中に舞う埃や瓦礫で竜巻を表現(砂塵の表現はのちに『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』の砂の津波に応用。そのモデリングも『パーフェクト・ストーム』における、ビルの高さに匹敵する巨大な高波へと発展させている)。『ツイスター』と同時期公開となった『ミッション・インポッシブル』では、トム・クルーズの変装シーンやラストの走行するTGV上でのファイトシーンなど、往年のスパイアクションの復活に拍車を掛けた。翌年には同じVFX工房の「デジタル・ドメイン」(こちらはジェームズ・キャメロンとスタン・ウィンストンが設立。二人の退任後、マイケル・ベイが買収。現在は閉鎖されている)と分担する形で、『タイタニック』の視覚効果も担当している。

現在

2000年代に入り、日進月歩で技術革新は進む。01年にはマイケル・ベイ監督と初タッグとなった『パール・ハーバー』で、零戦の大編隊をハワイ島上空に配置し、40分に渡る真珠湾攻撃を描いた。03年の『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』では、朽ちた海賊や海中生物と合わさったおぞましい姿のキャラクターを生み出すと同時に怒涛の海戦も展開。海賊映画を復権させ、第二作の『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』では視覚効果賞を受賞。現在も続くシリーズになっている。

07年、スピルバーグとマイケル・ベイが手を組んだ『トランスフォーマー』が、再び映画界に映像革命を起こす。日本の玩具を基にした変形ロボットものを、ハリウッドが「本気」で映像化した結果、車がワンカットでロボットにトランスフォームしたり、あまりにも複雑なプロセスを辿りながら細かなパーツが変形してロボットになりつつ、そのままバトルシーンへとなだれ込んでいく圧巻のシーンの連続にファンは歓喜。このILMの技術力は、シリーズを追うごとにもはや異常とも言えるほど増していく、マイケル・ベイがワンフレームに収める情報量の多さの要因にもなっている。

2010年代になると、ILMによるロボット・マシーン描写にますます磨きが掛かることになる。多くのファンに愛される『バトルシップ』、『パシフィック・リム』もILMの緻密なVFX技術に思わず息を吞んでしまうほどだ。CG特有の白っぽさ、嘘っぽさは完全に取り払われ、どこが実写でどこがCGか見分けがつかなくなっている。

また、『アイアンマン』を皮切りにILMはマーベル作品にも参画するようになる。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、『アベンジャーズ』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』、『アントマン』などが挙げられる。

そして、未来

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』から一年。『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』が公開され、物語と同時にILMの歴史も原点に立ち返り、再び帝国軍の支配する宇宙へと舞い戻る。デス・スターのビーム砲による攻撃がついに観客に披露され、大崩壊のスペクタクルシーンを目に焼き付ける。『ドクター・ストレンジ』では、街をぐにゃりと曲げ、魔術を現代に蘇らせる。『キング・コング:髑髏島の巨神』で謎の島に辿り着けば見上げるほどの巨猿に遭遇し、『スパイダーマン ホームカミング』ではニューヨーク・マンハッタンのビル群を飛び回る、親愛なる隣人の勇姿を目撃できるはずだ。

映画にVFX、SFXが持ち込まれ、観客は太古の昔から未来まで、地底から宇宙まで、現実から別世界まで、夢の旅行チケットを手に入れた。そこで出会うものはまだ見たこともない生物だったり、あるいは人工知能搭載のロボットかも知れない。映画が見せる魔法の時間は実に魅力的だ。ILMの映像革命は、まだまだ続く。

ILM公式サイト(英語)

All Images:http://www.ilm.com/archive/
Eyecatch Image:Screen Shot from http://www.ilm.com/

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Writer

ashimigawa

映画・映画音楽ライター。愛知県出身。
竜巻映画『ツイスター』で映画に覚醒。映画音楽に魅了されてからはサウンドトラックも買いあさり、映画と映画音楽漬けの日々を送る。

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