【取材】エア ジョーダン生みの親、単独インタビュー ─ 映画『AIR/エア』主人公ソニー本人が語る秘話【後篇】

──本作について僕は、リスクテイキングや決断についての物語であると感じました。あなたがキャリアの中で下した最高の決断はなんだと思いますか?
NCAA(全米体育協会)からアメリカのアスリートたちに自由をもたらしたことです。連中は、“アマチュア”という世界最悪の言葉を使って、15~19歳の年端も行かない若いアスリートたちを支配しようとした。みな大学に行って、食っていくのに必死になる。オバノン事件判決※は、人間としての私の人生で最も大きな達成でした。私は家族や妻にも恵まれ、お金も稼ぎ、とても成功した人生を送ることができましたが、あれが全てを変えてくれた。
※オバノン事件判決:自身の肖像権が無断使用されていたことを受け、バスケットボール選手のエド・オバノンが、アマチュア選手への報酬提供を禁ずるNCAAの規制を不当だと訴えた裁判。学生選手が収入を得ることを容認する判例となった。ソニー氏はこの訴訟の中心人物のひとり。
日本には、全てのスポーツにファンがたくさんいますね。特にゴルフやテニスはそうですが、女性のアスリートも、男性と同じように活躍できるようになった。かつては3番手、4番手だった者が、オバノン事件判決によって、今ではきちんと稼げるようになったのです。年齢に関わらず、何かに支配されることがなくなった、これまで彼らは人生を操られ、奨学金の形で握られてしまっていたのにです。それは最悪だったと思います。
長い年月を要しましたが、今では若い学生選手が大金を稼いで、自分で学費を払ってプレーできるようになるのも日常茶飯事になった。一体どこに生活費を稼ぐことを否定する世界がありますか?今や、15歳や20歳の若者でもお金を稼げるのです。新しいものがたくさん登場していて、TikTokだとかZoomだとか……私には良くわかりませんが、素晴らしいものでしょう?何か得意なことをやって、人のためにお金を稼げる世の中を、なぜ分かち合わない?
そうした世の中を作ったオバノン事件判決は、そもそもマイケル・ジョーダンのおかげなのです。彼のおかげで、私の人生は大きくなったのですから。私が有名人になったのは、私の友人が有名人だったからです。私があるのは、友人たちのおかげです。
結局のところ、人生とは大勢の人のために何ができるかです。私はオバノン事件判決でお金を稼いだわけではありません。お金を稼げるようになったのは、これまでアマチュアと呼ばれていたアスリートたちなのです。
──ソニーさん、貴重なお話を本当にありがとうございました。
ありがとうございました。私はこのインタビューを楽しみにしていました。いつか実際にお会いしましょう。
取材後記
ソニー・ヴァッカロ氏と話して最も驚かされたことの一つは、時間、期間、距離といった「数字」を詳細に記憶されていたことだ。たとえば、脚本を務めたアレックス・コンベリーが過去の作品で「60時間にも及ぶ映像素材を、6年がかりで作業をしてした」ことや、その初打ち合わせのために彼が「140マイルかけて私の家にやってきて、3時間半話した」こと。本作の打診を受けたのが「14〜15ヶ月前の月曜日」だったこと、湾岸戦争やバルセロナオリンピンクの年号など……。84歳のソニー氏は、これらすべてを詰まることなくスラスラと話している。
語り口は滑らかでスピーディーながらも、その一つ一つの言葉の響きには、長年スポーツやマーケティングの厳しい世界でいくつもの局面を潜り抜けてきたことによる重みが感じられ、また、その経験から滲み出される余裕もあった。マイケル・ジョーダンやフィル・ナイトとは、映画『AIR/エア』で描かれた後にさらなるドラマがあった雰囲気も漂わせつつ、「自分がいなくなっても、シューズとこの映画は残り続ける」「人生とは大勢の人のために何ができるか」と力強く語った姿が何より印象的だった。
映画『AIR/エア』は絶賛公開中。