【インタビュー】『アメリカン・アニマルズ』史上最も愚かな強盗犯たちは、なぜ一線を超えてしまったのか ─ 監督が語る真実の物語

ワーオ、すごい質問だ(笑)。(しばし考えて)ドキュメンタリー作品の主たる目的は、出来うる限り真実に忠実であるよう試みることだと思います。でも、今作はドキュメンタリーではないんです。まったくもってドキュメンタリーではない。大部分がドラマであり、脚本も用意されている。でも全ては事実に基づいている。「真実に基づく実話」と謳われるどんな映画よりも真実に基づいていると思います。
この映画は、可能な限り真実に肉迫しています。しかし、真実とは証言に基づくものです。その証言が真実かどうかは分からないじゃないですか。人の記憶なんて不正確で、それこそドキュメンタリーではないので、コロコロ変わるもの。たとえば、あなたも小さい頃の記憶を持っていると思いますが、それってどこかで変わったかもしれないですよね。
この映画では、冒頭で「真実に基づく物語ではない。真実の物語である」と示されます。でも、それが真実かどうかは分からないわけですよ。
獄中からの証言と脚本執筆
──映画の大筋は実際の4人の証言に基づいて書いたそうですが、その証言こそ不正確な記憶に基づいているというわけですね。今作の脚本執筆のプロセスについて教えてください。
彼らが獄中から書いてくれた手紙を元に脚本を書いていました。出所してからは、会ってインタビュー。そこで初めて聞く証言がポロポロ出てきたので、脚本に戻って書き直しました。プロセスとしてはかなり異端だったと思いますよ。普通のドキュメンタリー作品なら脚本なんて書きませんからね。ドキュメンタリー作品とは、すなわち観察ですから。脚本ナシのリアルなもの。言って欲しい事の指示なんて出来ませんし。ただカメラを回して、そこで起こることを観察するのみです。『アメリカン・アニマルズ』のドラマ部分では脚本を書きましたが、実際の4人の登場部分は一切脚本ナシです。
──つまり、監督にとって今回は脚本を書くのも初めてだったわけですよね。チャレンジングでしたか?
かなりチャレンジングでした。
──恐れもありましたか?
ありました。最初の頃は、自分が何をやってるのか分からなかったですね(笑)。だから知人の脚本家たちにアドバイスを貰いましたよ。サンダンスにラボがあって(スクリーンライターズ・ラボ)、そこで幸運なことに、素晴らしい脚本家たちに出会ったんです。

──この題材を映画にする時、おそらく人によってはコメディ風に撮ることもできたと思います。監督はシリアスで悪夢風に仕上げましたね。
そうです。シリアスに仕上げて、観た人に考えを起こさせる知的な作品にしたかったからです。コメディは僕のスタイルではなかったので。
なぜ犯人たちは出演できたのか
──実際の4人もこの映画を観たんですか?どんな反応でしたか?
この映画を観て、彼らは安心していました。本当に安心していましたよ。彼らには恥ずべきことが沢山あって、今でも恥ずかしいそうです。両親や家族の顔にも泥を塗ったでしょう。すごく後悔していました。でも、映画が事実に忠実で正確だったと安心していました。
──そもそも、よく4人に出演してもらえましたよね…。
彼らが獄中にいる頃から、時間をかけて文通しましたからね。手紙を通じてお互いの事を知っていきました。
──最初は断られませんでしたか?
断られました。最初は疑われましたしね。だから時間をかけて信頼してもらって、教訓になるような映画を作りたいというコンセプトを理解してもらいました。
──信頼してもらえるまで、どれくらいかかったんですか?
確か、1年くらいですね。
ポスターの裂け目が意味する「一線」
──ところで、なぜこの映画のタイトルは『アメリカン・アニマルズ』で、彼らはアニマル(動物)と呼ばれるのですか?
彼らが盗もうとした本※がアニマル(鳥)についての本だったというのもありますが、彼らの若気の至りがアニマルのようだからです。
※4人が盗もうとするのは、オーデュボンの巨大な画集「アメリカの鳥類」。
──劇中に登場する本と図書館は本物ですか?
本はレプリカですよ。本物は何千万ドルもするので借りられません(笑)。劇中に登場する図書館は実際の現場とは違いますが、実在の図書館です。かなり手を加えました。セットをゼロから建てるわけにはいかなかったので、アメリカの大学にある図書館を利用させてもらったんです。でも、そこには特別展示室がなかったので、その部分は作りました。