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映画化実現が現実味を増したミュージカル『アメリカン・イディオット』ってどんな作品?【グリーンデイ】

映画化に向けて進行中であると発表されたミュージカル『アメリカン・イディオット』。グリーン・デイの同名アルバムを舞台化したこのミュージカルが、果たしてどのような内容なのかを解説する。

Green Dayの名アルバム『American Idiot』

アメリカを代表するパンクバンドであるGreen Dayが、2004年に発表したアルバム『American Idiot』は、ストーリー性のあるコンセプトアルバム。このアルバムの高評価により、Green Dayはアメリカの音楽シーンを代表する存在のひとつとなった。

ほぼ台詞ゼロ!ロック・ミュージカル『American Idiot』はこんな内容

『春のめざめ』で大きな成功を手にしていたブロードウェイの演出家マイケル・メイヤーの働きかけにより実現した、アルバム『American Idiot』のミュージカル化。マイケル・メイヤーとGreen Dayのフロントマンであるビリー・ジョー・アームストロングが共同で脚本を執筆した。2010年にブロードウェイで開幕し、400公演以上のロングランとなった。トニー賞ミュージカル作品賞ノミネート、グラミー賞最優秀ミュージカル・ショー・アルバム賞受賞などある程度の評価も得、2013年の8月には来日公演も実現した。

本作の大きい特徴としては「台詞がほとんどない」ということが挙げられるだろう。他のアルバムから追加した楽曲はあったものの、ほぼそのまま『American Idiot』の世界観を舞台にたという印象で、上演時間も休憩なしの100分とミュージカルとしては異例の短さだった(一般的なミュージカルは、休憩込で2時間半~3時間が普通)。生演奏による迫力の歌唱はもちろん、モニターが多数配置された個性的な美術セット、個性的で激しいダンスなど、幕が開いた瞬間から目が離せなくなるインパクトで、類い稀なる疾走感と熱量が印象的な作品だった(筆者は日本公演を鑑賞)。

ミュージカル『American Idiot』のストーリーはこちら

アメリカ郊外で満たされない日々を過ごしている3人の若者(ジョニー、タニー、ウィル)。都会に出ようとバスのチケットを手に入れた3人だったが、出発のそのとき、ウィルのガールフレンドであるヘザーが妊娠を告げに来る。町にとどまることを決めたウィルを置き、ジョニーとタニーはバスに乗り込んだ。

都会についたものの、孤独に苛まれるジョニーとタニー。眠れない日々に追いつめられたタニーは、軍への入隊を決める。完全にひとりになったジョニー。そんな彼の前に、St.Jimmyという男が現れた。彼に唆されるように初めてヘロインを打つジョニー。そして、ジョニーにはWhatsernameという彼女ができた。

一方、町に残ったウィルはカウチに座り、無気力にマリファナを吸っている。ヘザーと子供のことにはまるで興味がなく、ただただ現状から解放されることを願っている。タニーは戦場で負傷する。

ジョニーはWhatsernameとの恋にのめりこみ、2人はクラブへ。邪魔しにきたSt.Jimmyに渡された注射器を、嫌がる彼女の腕に打ってしまうジョニー。町では、無関心なウィルに愛想を尽かし、ヘザーが赤ん坊を連れて出て行った。

負傷して病院にいるタニーは幻覚を見る。幻覚の中で見たのと同じ姿をした看護師が現れ、彼を介抱する。Extraordinary Girlだ。彼女と恋に落ち、幻覚に苦しまなくなったタニーは退院する。

Whatsernameの寝顔を愛おしく見つめながら、薬物への誘惑に抗おうと苦しむジョニー。一度は彼女への愛が勝るが、結局はSt.Jimmyのパワーに負けて薬物に手を出し錯乱状態に陥り、Whatsernameにナイフをつきつけてしまう。そんなジョニーに「あなたは何と戦っているの?」と問いかけるWhatsername。

Whatsernameがいない間に、St.Jimmyはジョニーに手紙を書かせる。「ずっとお前のことなんて好きじゃなかった。St.Jimmy最高」。激怒したWhatsernameはジョニーの元を去る。どんどん孤独へと突き進むジョニー。車椅子に座り故郷を想うタニー。すべてを失い後悔の念にかられているウィル。遂に、目を覚ます時がきた。

St.Jimmyが登場し、St.Jimmy自身の死を歌う。そして、St.Jimmyの自殺。我に返ったジョニーは働き始めるが、都会が肌に合わないことを痛感し、故郷に帰ることを決意する。

泣きながらヘザーのことを想いカウチに座るウィルの元に、新しいボーイフレンドを連れたヘザーがやってきた。逃げ出したウィルは、そこで帰ってきたジョニーを見つける。タニーもExtraordinary Girlと一緒に帰ってきた。仲直りする3人。そこへ来たヘザーは、ウィルに赤ん坊を抱かせてくれた。

ジョニーはWhatsernameのことを想うが、自分の人生を受け入れる。

決して”わかりやすい”ミュージカルではない

こうしてストーリーを見ても分かるように、ミュージカル『American Idiot』は決して単純明快なストーリーではない。この作品で最も重要なのは、St.Jimmyという存在だ。彼はもう1人のジョニーであり、メフィストフェレスでもある。ブロードウェイでは、このSt.Jimmy役を度々ビリー・ジョー・アームストロングが演じたことが大いに話題になった。ジョニーを破滅へと導こうとするSt.Jummyの悪魔的な魅力を肝ととしつつ、3人の若者の人生をバラバラに、ときに同じ楽曲内で並列させつつ描写していく。台詞がほとんどないので、歌詞に神経を集中させながら、ステージ上で起きていることに隈なく注意を払い、想像力を働かせながら鑑賞しないといけない。目も耳も脳も大いに刺激される作品だといえる。

一方で、非常にチャレンジングでエネルギッシュな作品であることは間違いないものの、厳しい評価もあった。『RENT』のような雰囲気、『PIPPIN』のような物語展開、『HAIR』のような反戦の描き方……このように、どことなく他のミュージカルを彷彿とさせてしまうところがあるのは否定できない。また、極端に台詞を排除したことにより、感情面の掘り下げに物足りなさを感じる部分もある。

しかしながら、『American Idiot』の疾走感やエネルギーは確実に観る者の心を打つ。あの高揚感はGreen Dayの音楽性ならではであり、他のミュージカルでは味わえない独特の快感。筆者にとっても忘れられない作品として、記憶に深く刻まれている。

映画化でどうなる?

『American Idiot』映画化では、ミュージカルと同じくマイケル・マイヤーが監督を務めると伝えられている。ステージで感じたあの疾走感や熱量が、そのまま生かされるのではないかと期待している。舞台同様に台詞がほとんどないかどうかは分からないが、他のスタッフによる脚本の書き直しが行われたということのようなので、きっともう少し分かりやすいドラマ部分が増えるのではないだろうか。

そして、なによりも気になるのが、St.Jimmy役にビリー・ジョー・アームストロングがキャスティングされるかどうか。今のところ、彼が演じると報じられてはいる。本作の心臓ともいえる最重要ポイントなので、ここだけは外さないでもらいたいところ。逆にいえば、彼による魅力的なSt.Jimmyが実現してさえいれば、本作の成功は間違いだろう。

Source:http://nme-jp.com/news/27721/

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umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。