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3D映画は普及しなかった?「ひどい状況、フィルムメーカーが悪いし、映画館も悪いし、業界全体が悪い」とアン・リー監督

ジェミニマン
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『ブロークバック・マウンテン』(2005)の名匠アン・リー監督は、10年以上にわたり「3D映画」の可能性を開拓してきた。『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(2012)では3Dのドラマ映画を手がけてアカデミー賞監督賞に輝き、『ビリー・リンの永遠の一日』(2016)と『ジェミニマン』(2019)では4K・3Dカメラでの撮影に加え、通常の5倍にあたる毎秒120フレームで高速撮影する技術を開発した。

しかし今、リー監督は3D映画からの撤退を認めている。米IndieWireにて、次回作となるブルース・リーの伝記映画が3Dではないことを明かし、今ひとつ3D映画が普及しなかったことは映画業界に問題があるという本音を語った。

「私は高フレームレートや3Dを試し、新しい映画の作り方も試しました。すべてが難しく、常に大きなプレッシャーがありましたね。どうやって映画を作ってきたか、詳細は言えませんが、誰もあんなスケールで撮ることを1分、1秒さえ試していない。私は長編映画を2本撮ったのだから、それは大きなプレッシャーでしたよ。経済的なプレッシャー、スタジオからのプレッシャー、誰も知らないことをやるプレッシャー。観客の目には見えない複雑さがありました」

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リーの野心と挑戦心とは裏腹に、『ビリー・リンの永遠の一日』と『ジェミニマン』は興行的に惨敗を喫した。これもまた、新たな3D映画に取り組めない理由のひとつだろう。今、リーは「全体的に3Dはひどい状況です」と言い切る。

フィルムメーカーが悪いし、映画館も悪いし、業界全体が悪い。(3Dのために)準備されていないんです。(3Dという)メディアのせいにしたくはないし、そこに文句を言いたくもない。準備不足だったのは観客や業界のほうだったんですよ。

映画館は予算がなく、3Dだと薄暗くてよく見えないし、ちらつきも出る。そこでダメな仕事をされると、頭が痛くなるし、純粋にひどいものになる。ダメな上映である以上、観客が(3Dを)好まないことに文句は言えません。しかも、彼らはより多くの料金を払わされている。良い上映であれば好きになってもらえる、シンプルな話です」

なぜ、リーは3D映画の可能性にこれほど賭けてきたのか。彼は、3Dを「映画監督にとっての新たな言語であり、時間がかかるけれど観客も慣れていくべきもの。まだ始まったばかりで、監督も何をしているのかわかっていない段階」と言っている。「3Dと2Dは別物で、(作り手や観客の)心の動きも違います。ふたつを比べることはできません」

同じく3D映画に大きな可能性を見ている映画監督に、ヴィム・ヴェンダースがいる。3Dのダンス・ドキュメンタリー映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)を経て、最新作となったドイツの芸術家アンゼルム・キーファーのドキュメンタリー映画『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』(6月21日公開)は3D&6Kで撮影された。

ヴェンダースもまた、「(3Dが)映画言語として発展する機会をほとんど得られないまま、アクションやアニメーションで乱用されるようになったのは映画史において恥ずべきこと」語ったことがある。「3Dは詩的なメディアです。平面のスクリーンよりもはるかに多くを見ることができる。被写体の存在感やオーラのすべてが見えるんです」と。

しかしながら、リーは少なくとも次回作では3D映画から離れる意向だ。「2本を撮ったあと、再び3Dをやるのは過酷すぎる。私は通常の方法、昔ながらの映画の作り方に戻ります。素晴らしい物語があり、探求すべきことがたくさんあるので、今はそこに取り組んでいるんです」

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Sources: IndieWire, Los Angeles Times

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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