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人生の形?『メッセージ』で描かれるテーマを、宇宙人たちの文字から考えてみる

2017年5月19日、ついに公開された『メッセージ』
突如地球に現れた巨大な宇宙船。それに乗っている者たちが使う文字を、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)が解読していく…という物語である。

原作はテッド・チャンによるSF短編小説『あなたの人生の物語』だ。監督は『複製された男』や『灼熱の魂』『ボーダーライン』、そしてこの秋ついに公開される『ブレードランナー 2047』の製作も務めるドゥニ・ヴィルヌーヴ。 

ご覧になった方は感じたことと思うが、かなり難解な作品だ。『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』、『パッセンジャー』などといった近年のSF作品とはまた全く雰囲気の異なる作品である。今回はそんな『メッセージ』を、宇宙人たちが使う文字に大きく注目しながら考えていきたいと思う。 

【注意】

この記事には、映画『メッセージ』に関するネタバレ内容が含まれています。

盛り込まれたテーマの数々 

この映画『メッセージ』は、様々な角度から考えることができるのではないだろうか。

謎の宇宙船の到来によって騒然となる地球。各地では暴動などの事件も起こってしまう。宇宙船の謎を解読しようとする科学者たちのチームも、なかなか協力体制がうまく整わない。しかし最後はルイーズが彼らの“メッセージ”を読み解き、中国の将軍の武装措置を解除させたことで再び世界に平和が訪れる。同じ人間同士、言葉が通じ合うからといってや協力しあうことがうまくできるわけではない。この物語は“平和”や“コミニュケーションをとることの難しさ、大切さ”もテーマの1つであるだろう。

また劇中にこんな台詞があった。「人間のとる行動は、その人が使う言語に影響されている。」ルイーズが説明する言語の歴史や聞いたことがない言葉について、思わず「なるほど」と思った方もたくさんいるのではないだろうか。まだ自分が触れたことがない、世界の言語のこと。何気なく日常で使っている言語が自分の行動にどう影響しているのか。そんなことを映画を観終わったあとふと考える、知的好奇心を刺激してくれる作品でもあった。“言語”もテーマの1つだろう。そしてもう1つ、『メッセージ』の大きなテーマは“時間”なのではないだろうか。 

『メッセージ』で描かれる“時間” 

“時間”や“時空”。SF映画に限らず、このテーマについて描いた映画はたくさんある。私たちは毎日“時間”に無意識の内に触れて過ごしているわけだが、この時という概念について考えると何が正解なのか、どうやって説明すればいいのか、よく分からなくなってしまう。

Unlike anything you’ve seen before. #WhyAreTheyHere

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『メッセージ』はルイーズのこんな台詞から始まる。「私は彼らが来るまで、時間は流れているものだと思っていた。」
夫と離婚し、最愛の娘を亡くし、悲嘆にくれているルイーズの姿が冒頭では描かれている。しかしこのルイーズの姿は実は未来の彼女の姿、宇宙船が来て過ぎ去ったあとの姿ということが判明するのだ。ルイーズは(自分でも知らなかったのだが)
未来を見ることができる能力があり、彼女が過ごしていたと思っていた時間はこれから起こる出来事であったのだ。

この『メッセージ』で人生の時間は、過去から未来に一直線で描かれているものではなく、もうすでに“存在している”ものとして描かれている。未来も“これから起こる、まだ存在していないこと”ではなく、“もうすでにあること”なのだと。 

そんな私たち1 人1人の人生の時間は、いったいどのようにイメージしたらいいのだろうか。ここであの宇宙人たちが使っている文字“ヘプタポッド語”のビジュアルを思い出してみよう。

私たちの“人生”の形 

“時間”は一直線ではない。流れているものではない。過去も現在も未来も、同じ空間にあるもの。もちろん人生の形を描く時、なだらかな線ばかりというわけにはいかない。ルイーズのように離婚や家族の死など、大きく波あり谷ありの時もあるだろう。このヘプタポッド語の文字は、そんな人間の人生の形を現しているのではないだろうか。人は生まれていずれは死に、また同じ地点に帰る。でこぼことした道を進みながら、終わった途端に始まりの地に戻るのである。“輪廻転生”という言葉のように、また生まれて魂は続く。

映画の中盤で、宇宙人たちがたくさんの細かい文字を壁に書くシーンがあった。異なる形の丸い文字が一面に散らばっている様は、まるで世界地図のようでもあった。みんな形は丸いが、飛び出ているところやうねうねとした曲線は少しずつ違う。あのヘプタポッド語の文字は多種多様な人の生き様、人間1人1人の魂の形であるのかもしれない。 

「あなたの人生の物語」 

ルイーズはヘプタボット語と宇宙人たちのメッセージを無事に解読し、平常な世界が無事に戻ってくる。そして彼女は一緒に解読作業にあたっていた数学者のイアン(ジェレミー・レナー)が、結婚する夫であると知る。

しかし彼女には自分たちの娘が死に、そして離婚もするということが分かっている。ひょっとしたら自分の能力を知った今、そうなってしまわないように心がけ多少なりとは変わるかもしれないが、ルイーズは自分のこれからは幸せなことばかりではないと分かっている。世界に平和は戻ったが、自分自身の人生は穏やかなことばかりではいられないと。そして宇宙船が去ったあとの世界は描かれることはなく物語は終わる。 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品では登場人物たちが多く語ることはあまりない。 映画が終わったあと、「あれはどういう意味だったのだろう」「この映画ではどういうことが描かれているのだろう」「最終的にはどういう解釈をしたらいいのだろう」と考えさせられる作品ばかりだ。この『メッセージ』も同様、終わったあとに「この物語はどうやって咀嚼したらいいのだろう」と考えてしまう。

この映画の原作のタイトルは『あなたの人生の物語』。これは宇宙船がやってきた世界の物語であるが、ルイーズという1人の女性の物語だ。“時間”は流れているものではないとこの映画で描かれているが、未来を見ることができる能力を持っているのはルイーズのみ。イアンも、軍人も、他の学者たちも、誰もがこの能力を持っているわけではない。もちろん私たちもこの映画を観ることにより“時間”についての新しい考え方を知ることはできるが、だからといって自分の未来について知ることができるわけではない。

そこにある程度は決まった未来があるとしても、今はまだ分からない。この映画のようにいきなり宇宙船がやってくることもおそらくないだろうから、「時間ってやっぱり流れているというわけじゃなかったんだ!」と体感することもないだろう。だからこそ“今”という時間を丁寧に生きようと、この映画にはそんな普遍的なメッセージも込められているのではないだろうか。娘が生まれた瞬間、一緒に遊ぶ時間、寝る前に読み聞かせをする時間。悲劇がこれから起こるとしても、ルイーズの娘と過ごしている時間の1つ1つはどれも叙情的で美しかった。そこには確かにかけがえのない時間が存在していたのだ。 

Special Edition @MondoTees Poster Artist 🎨 || @tragicsunshine

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映像も音響も素晴らしい今までにないこのSF映画は、様々な角度から考えたくなる“一筋縄ではいかない”物語だ。時間について、人生について。生きているうちに完璧な答えが見つかるか難しいテーマではあるが、しかし私たちもルイーズのようにしっかりと“自分の人生の物語”を歩んでいきたいものである。『メッセージ』のこの解釈、みなさんはどうお考えだろうか。

 

Writer

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)