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伝説のクソゲー『E.T.』はいかに生まれ、墓場に埋められ、そして発掘されたのか

Photo by taylorhatmaker https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Atari_E.T._Dig-_Alamogordo,_New_Mexico_(14036097792).jpg CC BY 2.0

スティーブン・スピルバーグ監督の代表作E.T.(1982)は、映画史に燦然と輝く傑作映画だ。少年と地球外生命体の心の交流を描いた同作が後世に与えた影響は計り知れない。思い出の作品として、今なおお気に入りに挙げるファンも多いことだろう。

しかし、そんな『E.T.』にも、数少ない「不名誉」がある。今なお「伝説のクソゲー」と称されるゲーム、アタリの『E.T. ジ・エクストラ・テレストリアル』である。

1980年代までに飛ぶ鳥を落とすゲームメーカーだった、アタリ(Atari)。1982年に発売されたアタリ2600用ソフト『E.T. ジ・エクストラ・テレストリアル』(以下『E.T.』)は、後に「アタリショック」と呼ばれる北米テレビゲーム市場崩壊の誘い水になったとされ、同社は倒産にまで追い込まれることになる。

一体、どんな経緯で開発されたのか。破滅の運命はいかにして出来上がったのか。

たった5週間?無茶すぎるスピード開発

このゲームのデザインと開発を手掛けたのは、映画『レイダース/失われたアーク』のテレビゲーム化や大ヒットゲーム「ヤーズリベンジ」などを手掛けた経験を持つハワード・スコット・ウォーショウ。これはスピルバーグからのご指名だったという。

最近になってNetflix「ハイスコア:ゲーム黄金時代」に出演したハワードが語ったところによれば、開発依頼の連絡を受けてから指定の納期まで、わずか5週間しかなかったという。当時、アタリでは1作の開発に6~8ヶ月を要したというから、いかに“無茶振り”だったかがわかる。

これは、その年のクリスマス商戦に無理やり間に合わせるためのスケジュールだったようだが、ハワードは「誰もそんな短期間でしたことがないし、誰もしようとも思わない。バカげたアイデアです」と振り返っている。ゲーム化のライセンス獲得交渉に時間がかかったため、そのしわ寄せが開発に来たのだ。

しかし、当時のハワードの答えは「絶対にできます」だった。自信満々でそう答えてしまったのが火曜日の夜で、そのまま「じゃあ木曜日の朝8時にサンノゼ空港のVIPターミナルへ来い」「それでスピルバーグのところへ行って、ゲームデザインのプレゼンをして来い」と命令されたという。つまりハワードには、36時間でゲームデザインを済ませなければならないという難題が押し付けられたのだ。

「スピルバーグは自分にとってアイドル」というハワードが緊張しながらプレゼンに挑むと、「彼は座ったまましばらく考えてから、“もう少しパックマンみたいにできない?”」と言ったという。ハワードは「最も革新的な映画監督の1人のくせに、他のゲームのパクリみたいなことを自分の素晴らしい映画でさせるのか?」……と言いたい気持ちをおさえ、「他のゲームの真似事のようなことをするのは、ある意味この映画に失礼です」と話した。とは言え、実際の本音は、「『パックマン』は5週間じゃ作れないぞ!」という事情によるものだったらしい。

それからハワードは、超短期間で『E.T.』を完成させるために“モーレツ”に働いた。「ハイスコア」で語られるところによると、四六時中コードのことを考えていたハワードは自宅に開発システムを移し、「どこにいても1分以内にキーボードにたどり着き、必要なコードを書くことができました」。

「人生で一番仕事をした5週間」をなんとか乗り切ったハワードの尽力の甲斐あって、『E.T.』は指定の納期までに開発を完了させた。スピルバーグの承認も無事に獲得し、400〜500万本製造されたこのゲームは、1982年の年末商戦最大の目玉として、全米の販売店に送り込まれた。サンタクロース姿のE.T.が、クリスマスプレゼントに贈られた本作をリビングでプレイするという胸躍るTVCMも製作された(映像はYouTubeにも残っている)。

しかし、ゲームの評価は散々だった。

アタリショック

ゲーム内容は、E.T.を操り、落とし穴の中にある部品3つを集めて通信機を完成させ、“ウチニデンワ”することが目的。いくら大ヒット映画のゲーム化とは言え、5週間の急ごしらえで製作されたためクオリティは低く、プレイヤーを満足させることは出来なかった。

当時のレビューを横断的に紹介したGame Historyでは、その当時の他のゲームと比較しても「グラフィックが雑」との批判が代表的だったと分析されている。また、ゲーム最大の欠陥として「落とし穴」が挙げられている。E.T.がやたら穴に落ちてしまう上、画面端に隠れて見えない落とし穴もあり、「非常にイライラする」。

結果として、『E.T.』は150万本売れた。全く売れなかった……、というわけではないのだ。事実、多くの名作タイトルを輩出したアタリ史上、第8位の記録である。

Writer

THE RIVER編集部
THE RIVER編集部THE RIVER

THE RIVER編集部スタッフが選りすぐりの情報をお届けします。お問い合わせは info@theriver.jp まで。

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