【特集】『アトミック・ブロンド』怒涛のワンカット・アクション舞台裏 ― キャスト・スタッフ全員消耗

映画『アトミック・ブロンド』で観客の度肝を抜くのは、約7分半に及ぶ、クライマックスの“ワンカット”による怒涛のアクションシーンだ。
本作を手がけたデヴィッド・リーチは、『ジョン・ウィック』(2014)の共同監督や2018年公開『デッドプール2(仮題)』でメガホンを取る、今もっとも勢いのあるアクション映画監督。数々の作品でスタント・コーディネーターを務めてきた彼は、初めての単独監督作品となった『アトミック・ブロンド』でこのシーンをどうしても撮りたかったのだという。
“映画史に残る”とまで評されるこのシーンで、主演のシャーリーズ・セロンは自ら数々のスタントに挑んでいる。監督やスタント・コーディネーターの予想をしのぐ身体能力は、劇中のアクションシーンをより洗練させるほどだったのだ。本記事では、そんな壮絶なアクションシーンの背景やスタッフの証言をご紹介したい。
キャスト・スタッフ、渾身のアクションシーン
『アトミック・ブロンド』のクライマックスでは、シャーリーズ・セロン扮する主人公ロレーンがベルリンのビルで大立ち回りを演じたのち、場面はカーチェイスへとつながっていく。
このシーンをワンカットで見せようと監督が決意した背景には、映画としての大胆な作戦が必要だという意志や、きっと本編を観て想起した人も多いであろう映画『トゥモロー・ワールド』(2006)の存在、そして『ブレードランナー 2049』などを手がけた名撮影監督ロジャー・ディーキンスの存在があったという。かつてデヴィッド監督が『TIME/タイム』(2011)でセカンド・ユニットの撮影を務めていた際、撮影監督のロジャーに「どうやって登場人物に寄り添う?」と問われたというのだ。また、通常の方法でカーチェイスを撮ると予算やスケジュールの問題が発生するという事情もあったという。
こうした制約を乗り越えるべく、デヴィッド監督は一連のアクションをワンカットで……正確に言えば「ワンカットのように見せる」ことを選択した。そう、このアクションシーンは厳密にはワンカットではなく、約40カットを精密につなぎあわせる形で作られているのだ。たとえワンカットでないにしても、その労力と執念は想像を絶するものだ。監督の希望を実現したのは、『ジョン・ウィック』でもタッグを組んだ撮影監督のジョナサン・セラ氏、そして編集のエリザベート・ロナルズ氏だった。
米バラエティ誌によると、このシーンの撮影現場に編集のエリザベート氏は常駐し、つねに撮影されたカットが適切につながるかを判断していたという。撮影監督のジョナサン氏によると、このシーンは時系列に沿って撮影が行われていたようだ。
「(撮影した)テイクが求めていたものかどうか、すぐにチェックしなければなりませんでした。そのテイクが、次に合わせなければならない基準になるんです。」
編集の切れ目を観客に認知させないよう、カメラマンは手持ちカメラであってもその動きを完全にコントロールせねばならない。なぜなら撮影するショットは、その直前に撮られたショットの終わりとほぼ同じアングル、ほぼおなじ動きによって始まる必要があるからだ。また素早くカメラを動かすことは、むしろ編集の切れ目を生み出すことになる。それでもこのシーンでは、編集点の半分近くにCG処理が必要になったという。
なお建物でのアクションでは、実際にベルリンに存在するビルがロケ地として使用されている。ただし実物にはエレベーターが存在しなかったため、主人公ロレーンの移動は美術スタッフの力で大きく支えられることになったようだ。とはいえ、こうした工夫も編集の切れ目を生む大切な役回りを果たしたようで……気になった人は、ぜひ本編を注視してみてほしい。
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