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【低評価アメコミ映画を再考①】『バットマンandロビン Mr.フリーズの逆襲』

マーベルシネマティックユニバースやDCエクステンデッドユニバースなど作品の規模もお金の掛け方も前代未聞な一大フランチャイズが映画界を席巻する昨今、”アメコミ映画”は立派なジャンルの一つになりました。かつてピクサーやドリームワークスがハイクオリティのアニメーション映画を安定供給してある種のブランドイメージを構築したように、”アメコミ映画”=ハズレなしのイメージが固定されてきた感すらあります。アメコミ映画ファンの私の主観でそう言っているのではありません。たしかに、最近のアメコミ映画は公開すれば大ヒット確実と言えるレベルで高い水準の興行成績を上げています。

しかしアメコミ映画の長い歴史を振り返ってみると、これだけコンスタントにレベルの高い作品を見られるのはむしろレアであると言えます。今ではほとんど埋もれてしまった映画もたくさんあるのです。

そこで、アメコミ映画がブームの今だからこそ、これまでのアメコミ映画に目を向けるのは面白いんじゃないかと思い、特集記事を組むことにしました。先日『グリーンランタン』の再評価を試みて大変たくさんの反響を頂いたので、これまであまり評価の高くなかった作品に注目し、むしろ最近のアメコミ映画にはない良さを改めて発掘していこうと考えています。第一弾は『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』です。

『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』とは?

『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』は1997年に公開された作品です。『バットマン フォーエバー』のヒットを受けて製作され、監督もジョエル・シュマッカーが続投しています。主役のブルース・ウェイン/バットマンを演じるのはジョージ・クルーニー。ご存知の通り興行的に大失敗、批評家からもコテンパンに叩かれ、ゴールデンラズベリー賞では9部門受賞、辛口批評サイトRotten Tomatoesでは批評家支持率12パーセントという輝かしい功績を残しています。のちのインタビューでシュマッカー監督自身がファンに謝罪の意を述べ、ジョージ・クルーニーも「失敗作だった」と本作に批判的な態度を示しているようです。

たしかに『バットマン&ロビン』には首を傾げたくなるポイントが多々あります。バットマンとロビンのコスチュームに乳首が付いているのは有名です。よくネタにされていますね。無意味にバットマンの尻や股間を接写する演出も多く、下品な印象を与えます。またたくさんの要素を詰め込みすぎた結果、それぞれのディテールが甘くなり混沌としてしまったプロット、あまり笑えないジョーク、子どもの観客を意識したレベルの低いコメディ演出や寒い効果音など、あら探しをしたらキリがありません。そもそもバットマンは夜の街に隠れて戦う闇のヒーローであり、常に苦悩する重々しいキャラクターです。どちらかというと軽いイメージのあるジョージ・クルーニーを主演に迎え、ファミリー向けのアクション娯楽作を目指すことにムリがあったとは思います。

しかしこの記事は『バットマン&ロビン』を貶すために書くのではありません。新しい楽しみ方を見つけるのが目的です。これから『バットマン&ロビン』の素晴らしいポイントについて考えていきます!

バットマンを苦しめる豪華なヴィランたち

『バットマン&ロビン』最大の魅力といえば、ヴィランたちの活躍ではないでしょうか。タイトルにも名前のあるMr.フリーズ、バットマンとロビンを振り回す妖艶な強敵ポイズンアイビー、それから彼女の手下として働くベイン…なんと3人もヴィランが登場するのです。ひとつの映画に複数のヴィランが暴れまわるなんてかなりの贅沢ではないでしょうか(おかげでストーリーが散漫になってしまいましたが)。

特にポスターでも「主役はオレだ!!」と言い張ってしまうほどの存在感を放つMr.フリーズは強烈な印象を残します。極端にコミック的なデフォルメはオモチャのように安っぽいため、あまり評判は良くないのですが、アーノルド・シュワルツネッガーがアメコミ映画のヴィランをやっているのがまず珍しいですよね。一度見ておいて損はないと思います。

またもう一人のメインヴィラン、ポイズンアイビーも妖艶な魅力を放つファムファタールです。もともと真面目な女学生だった彼女が植物のエキスを浴びてなぜこれほどエロくなってのかはよくわかりません。体から放つ植物由来?のフェロモンでバットマンとロビンを惑わし、二人の仲を引き裂こうとします。演じるユマ・サーマンの怪しく刺激的な美しさが存分に発揮されており、画面のこっち側にもフェロモンが漂ってきそうですよ!

ちなみにベインも登場しますがほとんどケモノ的な扱いで知性の欠片も感じさせない設定に改変されています。本来は頭の良いキャラのはずなのですが…このあとトム・ハーディ演じる『ダークナイト ライジング』のベインと比較すると興味深いでしょう。

これらのヴィランは現在シーズン2まで製作されている『GOTHAM』にも登場します。『GOTHAM』ファンの方はサブテキストとして『バットマン&ロビン』を鑑賞してみるのも面白いでしょう。きっとキャラクターへの理解も深まり、イマジネーションが刺激されるはずです。

詰め込みまくって過多気味のストーリー

先ほどプロットについて「詰め込みすぎた結果、それぞれのディテールが甘くなり混沌として」いると表現しました。しかし裏を返せば、ちゃんこ鍋のように種々の具を入れた本作のプロットは贅沢とも言えないでしょうか?ブルースと婚約者のすれ違い、一人前の大人として対等の関係を築きたいロビンとそんな彼を子ども扱いするバットマンの対立、Mr.フリーズの苦悩、突然ウェイン邸に転がり込んできたバーバラの秘密、アルフレッドの危機、裏で暗躍するポイズンアイビーなどなど…よくもまあこんなに欲張ってストーリーに盛り込んだなというぐらい様々な事件が発生します。おかげで緻密さには欠け、矛盾だらけの映画なってはいるものの、観客を楽しませようとする作り手の熱意は伝わってきて愛おしく思えてきます。こういうことを言い出すとほとんど末期な気はしますが、せっかく2時間使って1本の映画を見るのならば、ポジティブに楽しむ姿勢を心がけることも大事ではないかとおもうのです。

“失敗作”ゆえの切なさ

実は『バットマン&ロビン』には続編の計画がありました。しかし本作がいろんな意味で大失敗に終わってしまったため、続編の製作は中止、計画は頓挫してしまいました。その後、仕切り直しとしてクリストファー・ノーランを監督に起用したのが『バットマン ビギンズ』なのです。『ダークナイト』シリーズが近年の映画やゲームに与えた多大な影響を考えると、これはこれで良かったのかも…?と考えてもしまいます。そして、そのことを知ってから『バットマン&ロビン』を見ると…最後の続編の存在を匂わすようなエンディングにはなんとも言えない切ない気持ちになるでしょう。“失敗作”と呼ばれる作品によくある切なさがこの映画には詰まっています。

アメコミ映画ファンを自称するならば、見て間違いはない作品だと思います。もしかしたら思わぬ良さを見つけ出せるかもしれません。記事のタイトルに第一弾と銘打ってある通り、今後もアメコミ映画の山に埋もれてしまった作品をしっかり見直していくつもりです。

 

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。