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【特集】『バトルシップ』原作はボードゲーム!物語なき原作を映画化するという困難

Photo by Joe King ( https://www.flickr.com/photos/jking89/1363983490/ )

2012年公開の映画『バトルシップ』は、あらゆる作品が大作映画化されるハリウッドにおいても当時画期的な企画だった。なにせ、紙とペンだけがあれば遊べる「海戦ゲーム」の一種“バトルシップ”を原作に映画を作ってしまおうという試みだったのである。
互いに戦艦を抱え、海戦図に見立てたマス目で真っ向から対決する……単純だがそれゆえに面白いボードゲームも、映画化するとなれば一苦労だったようだ。本記事では劇場公開当時のインタビューなどから、この作品のストーリーが誕生する経緯に迫っていきたい。

Photo by Joe King ( https://www.flickr.com/photos/jking89/1363983490/ )
Photo by Joe King ( https://www.flickr.com/photos/jking89/1363983490/ )

監督がボードゲームに見つけたテーマとは

たとえばマーベル・コミックやDCコミックスが自社のコミックを次々に映画化し、あるいはウォルト・ディズニーがテーマパークのアトラクションを『パイレーツ・オブ・カリビアン』として映画化するなかでも、ボードゲームを映画化するというこの企画は“クレイジー”だったといえるだろう。かのジェームズ・キャメロン監督は、作品の完成前から「物語が危機に瀕している」「映画を劣化させる」と『バトルシップ』を痛烈に批判したのだ。
しかし本作でメガホンを取ったピーター・バーグ監督は、その批判を「言うのは簡単。僕はそうは思いません」一蹴している。では作り手たちは、ストーリーを持たないボードゲームを映画の脚本へといかに落とし込んだのだろうか?

「映画やテレビドラマ、ドキュメンタリー、どんなものを作るときも困難な命題はありますし、すべてのプロジェクトにはそれぞれのチャレンジがあります。『バトルシップ』にも相応の難しさがありましたね。」

そんなピーター監督には、この海戦ゲームを長編映画化する必然性がいくつかあったという。なぜなら海軍の歴史を研究する父親を持っていた彼は、学生時代に同じように海軍の歴史を学び、当時その交戦を映画化したいと考えていたというのだ。

「このゲームでは海軍が戦うんです。5隻の船が、もう5隻の船と対決するんですよ。」

監督が思い至ったのは、それらの船の1隻1隻に人間たちが乗っていること、そこにはそれぞれの問題と力学が存在することを描くということだった。非常に地味な出発点にも思われるが、ピーター監督は「このゲーム特有の、暴力が発生する緊張感が気に入ったんです」と語っている

「こちらは相手を探している、相手もこちらを探している。そしていったん出会ってしまえば、なるべく残酷かつ無慈悲に殺し合うんですよ。これこそ映画のDNAになると思いました。」

もっともそうしたテーマは、映画本編にはやや奇妙な形で表れてくることになる。なぜなら『バトルシップ』は人間同士が激しい海戦を繰り広げるのではなく、突如として現れたエイリアンと海軍・自衛隊などが対決するストーリーだからだ。この転換はピーター監督が重要視していたことで、脚本を執筆したエリック&ジョン・ホーバーも「あくまで楽しい夏休み映画です。これでオスカーを獲ろうとはしませんよ」語っていることである。
とはいえ原作のボードゲームにエイリアンは登場しない。しかしそれゆえだろう、監督は劇中でのビジュアル表現に強いこだわりを見せたのだという。

「エイリアンは地球によく似た星からやってくるんです。太陽との関係も似ていて、気候も近い。エイリアンを人間に少し似せるべきだと僕は考えていました。そこが譲れない原則だったんです。ILMのデザイナーやその他のアーティストと話し合って、人間のような、でも明らかに人間ではないエイリアンを作りました。」

おそらく監督が意図したのは、ボードゲームを原作とした“楽しい夏休み映画”のなかで、いかに“生命同士の戦い”を自らの思惑通りに見せるかという点だったのだろう。『バトルシップ』ののち、『ローン・サバイバー』(2013)や『バーニング・オーシャン』『パトリオット・デイ』(ともに2016)といった実話路線に転じているピーター監督は、自身の興味をこのように語っているのだ。

「基本的に僕の興味は、暴力的だったり危険だったりする状況に人々が自ら入っていくことにあります。暴力の心理学みたいなものに魅力を感じるんですよ。西部劇でもアメリカ海軍の映画でも、あるいはSF映画でも、僕はその点を掘り下げなければいけないと思っています。どういうわけだか、そこに惹きつけられ続けているんです。」

ところでそんな本作には、実はボードゲームの要素も巧みに取り入れられている。
たとえば主人公の名前はアレックス・ホッパーだが、“アレックス”とはゲームのマニュアルにプレイヤーの対戦相手として登場する名前だ。また異星人の放つ砲弾(船に刺さって爆発する)はボードゲームで船に“挿す”ピンを模したデザインとなっている。さらに劇中、津波ブイで海中にいる敵の位置を測定する場面では、ディスプレイにボードゲームの海図そのままのマス目が映し出されるのである……。

物語なきボードゲームを原作とした映画『バトルシップ』では、そのテーマがいかに長編映画として読み換えられたのか、またいかに“映像化”されたのか。ピーター・バーグ監督をはじめとした作り手たちのこだわりにぜひ注目してほしい。

映画『バトルシップ』のブルーレイ&DVDは現在発売中。

Sources: https://www.theguardian.com/film/2012/apr/07/battleship-hasbro-adaptation-rihanna
https://www.newsarama.com/9533-battleship-director-talks-adapting-board-game-to-film.html
http://www.bbc.com/news/entertainment-arts-17588527
https://www.hasbro.com/common/instruct/Battleship.PDF
https://www.hasbro.com/common/instruct/BattleShip_(2002).PDF
http://www.ccd.nyc/2012/05/5-reasons-why-battleship-was-not-t
hat.html
Eyecatch Image: Photo by Joe King ( https://www.flickr.com/photos/jking89/1363983490/ )

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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