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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の革新、ブラッド・ピットの「見分けがつかない」老人メイクの真髄

ベンジャミン・バトン 数奇な人生
© Paramount Pictures 写真:ゼータイメージ

「M-1グランプリ2023」の決勝戦2本目で、「ヤーレンズ」がネタ内で映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)を取り上げたことで話題だ。『ベンジャミン・バトン』といえば、老人の状態で生まれ、歳をとるごとに若返り、赤子として死んでいく主人公ベンジャミン・バトンの“数奇な人生”を描く人気映画。監督はデヴィッド・フィンチャーで、主演のブラッド・ピットとは『セブン』(1995)『ファイト・クラブ』(1999)に続くタッグ作となった。

この映画でピットをさまざまな年齢の老人姿に見せるため、メイクアップアーティストのグレッグ・キャノムは18ヶ月もの試行錯誤と共に“エイジング・メイク”プロセスを確立させた。

キャノムが頼ったのは、シリコンを使ったメイクだった。これならティッシュペーパーのように薄くメイクを施すことができ、肌のシワを自然に表現できる。また、ピットら役者が一日演じても違和感を感じない装着感でもあったという。日々の撮影で、ピットはこのメイクアップのために5時間ものあいだ椅子に座っていたという。

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老人状態の小柄な身体の演出には、当時最新のCG技術が用いられた。ボディダブルが身体を演じ、顔はピットが演じたものにデジタルで置き換えられた。Mova Contourと呼ばれるこのモーションキャプチャー技術は、『ベンジャミン・バトン』で初めて使用され、その後、『インクレディブル・ハルク』(2008)でエドワード・ノートンの表情をキャプチャしてハルクに重ね合わせられるなど、数々のハリウッド映画に普及することとなる。デジタルヘッドの制作は、後に『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)と『スキャンダル』(2019)でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞に輝いて注目される日本出身のカズ・ヒロが行った。

本作でピットは人の一生を演じており、バトンは加齢とともに若返っていく。若返りはデジタル技術によって表現されたが、「デジタル効果と私のメイクアップがとてもスムーズに融合しているところが気に入っています」と、キャノムは当時のインタビューにて話している。「どこからどこまでがデジタルで、どこからがブラッドなのか、見分けがつかないのです。全てデジタルで加工されていると思われがちですが、実際には違うのです。何がどうなっているのかわからない。我々もデジタル映像を見て、どうなるんだろうと思いました。でも実際に見てみると、本当に見分けがつかないんです」。

バトンの衣装には、歴代の映画スターたちがインスピレーションの源となった。衣装デザイナーのジャクリーン・ウェストによれば、40代のバトンはゲイリー・クーパーを、50代はマーロン・ブランド、そして60代はスティーブ・マックイーンを参考にしたのだという。

第81回アカデミー賞でキャノムはメイクアップ賞に、ウェストは衣装デザイン賞にノミネートされ、キャノムは見事受賞を果たした。この年のメイクアップ賞には、ヒース・レジャーをジョーカーに仕上げた『ダークナイト』(2008)もノミネートされていた。そのほか、本作は美術賞と視覚効果賞も獲得した。

私は究極のメイクアップ映画を作りたいと思っています」と、キャノムは理想を語っている。「そして、この映画はほとんど究極のメイクアップ映画でした。毎作、より良い表現方法が見つかるものです。本作の加齢メイクアップには非常に満足しています」。

メイクアップ技術を指導するカナダのCMU College of Makeup Art & Designは、本作について「実用的なメイクアップとデジタルSFXの連動を示した作品である。この映画はSFXが用いられている時と、補綴物で変装したピットの見分けがつかないほど、両者を実用的に活用し、そして融合させている」と評している。「これは、境界線を打ち破り、映画制作とメイクアップ芸術の新たな道をもたらした映画なのである」。

Source:Variety(1,2),CMU,Below the Line

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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