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【解説】映画『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』愛あふれる6つの見所 離れていても心はずっとそばにいるよ

スティーブン・スピルバーグ監督の新作、ディズニー映画『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』。先日のジャパンプレミアのレポートで少しご紹介させて頂きましたが、心優しい巨人BFGと10歳の少女ソフィーが数々の困難を乗り越えて世界を変えていく冒険ファンタジーです。IMAXかそれ以上のスクリーンで観たような、それはそれは美しく色彩豊かな映像と音響の良さに心を奪われました。

スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』で助演男優賞を獲得したマーク・ライランスのBFG役はほとんとCGだと思われますが目は同じなのです。柔和な眼差しが優しく、マークのお人柄を感じさせます。ソフィー役のルーン・バーンヒルは、スピルバーグ監督がオーディションで「この子だ!」とひらめいたそうで、ピンクのメガネが似合う可愛らしい顔立ちをしています。今後どんな女優さんに成長していくのか楽しみです。

是枝裕和監督の『そして父になる』がカンヌで審査員賞を受賞した時、スピルバーグ監督は是枝監督に子どもの撮り方を質問したそうです。いかに子どもの演技を自然に引き出すかを常に考えているのですね。

原作

原作は、イギリスの児童文学の巨匠ロアルド・ダールの『オ・ヤサシ巨人BFG』。ほかの著書には『マチルダは小さな大天才』などがあり、映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作者でも有名です。1916年、イギリス生まれで『007は二度死ぬ』や『チキ・チキ・バン・バン』の映画の脚本も手掛けています。生前はウォルト・ディズニーとも親交がありました。宮崎駿監督はダールのファンで『紅の豚』と『風立ちぬ』にはオマージュとして挿入されたエピソードがあります。

音楽

音楽は、あの『スター・ウォーズ』シリーズのジョン・ウィリアムズ。1932年、アメリカ生まれのウィリアムズはジュリアード音楽院のピアノ科を卒業後、しばらくピアニストをしていましたがテレビや映画の音楽も担当するようになります。本作の監督スピルバーグの『ジョーズ』でアカデミー作曲賞を受賞し、一躍その名を世界に轟かせ(とどろかせ)ました。
ボストン・ポップス・オーケストラの指揮者もしています。1971年『屋根の上のバイオリン弾き』で編曲賞を、1975年『ジョーズ』で作曲賞を、1977年『スター・ウォーズエピソード4/新たなる希望』で作曲賞を、1982年『E.T.』で作曲賞を、1993年『シンドラーのリスト』で作曲賞を受賞しています。『シンドラーのリスト』のテーマを奏でるのはヴァイオリニストのイツァーク・パールマンで、その哀愁に満ちた音色とメロディーに涙を誘われます。アカデミー賞の受賞は編曲賞を含めると5回。ノミネートはなんと47回です!

脚本

脚本は、あの『E.T.』の脚本家のメリッサ・マシスン。原作があるので実際には脚色となります。1950年、アメリカ生まれ。『E.T.』でアカデミー脚本賞にノミネートされています。宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』では英語版脚本を担当。残念ながら2015年11月4日、病気のため亡くなられています。65歳、本作が遺作となってしまいました。

【注意】
この記事は、映画『BFG』のネタバレ内容を含みます。

https://youtu.be/0smkfIaBP7M

身長7mのBFGはユニークな巨人

人間が住む場所とは遠く離れたどこかにある巨人の国に住むBFG。マズそうな“おばけキュウリ”と緑色の炭酸飲料“プップクプー”が大好物。プップクプーの泡が上から下にいく“さかさま”であることを指摘したソフィーの前で、ゲップではなくて身体が飛び上がるほど豪快にオナラをするBFG(お下品!)。理論的には合っていますが摩訶不思議。この“さかさま”がまたあとで登場します。

ほかの巨人たちはBFGより2倍位大きい人食い巨人。BFGの家を訪れた人食い巨人たちは、人間マメの匂いがすると言ってソフィーを捜すのです。スルスルと逃げ回るソフィーと、上手く彼女を隠そうとするBFGの息の合った“小さな逃走劇”はハラハラしながらも見どころです。人間を食べない優しいBFGとは違う人食い巨人たちは、そんなBFGをいつも仲間外れにしていじめます。されるがままのBFGを見て「それじゃいけないわ!」と心配するソフィー。彼女は正義感を持っている強い女の子。一緒にいるうちに二人はだんだんと仲良しになっていくのです。

赤い服とある部屋

おばけキュウリの中に逃げ込んだびしょ濡れのソフィーに、着替えの服をたくさん出してあげるBFG。その中でソフィーが選んだのは赤いジャケット。BFGはそれを見て哀しそうな顔をします。後に、以前ここで一緒に暮らしていた人間の男の子が着ていたジャケットだったと教えてくれました。ソフィーがその赤いジャケットを選んだのは必然だったのです。再びソフィーを捜しに来た巨人たちから逃れるために行った部屋も…。まるで「僕のような目に遭う子どもを助けて!」と訴えているような上手い演出です。
ソフィーが赤い服を選ばなかったら?あの男の子の部屋に行かなかったら?肖像画を見てひらめいたソフィーの“プラン”は実行されなかったのです。亡くなった男の子が手を差し伸べてくれたのかもしれません。ソフィーが赤いジャケットを裏返しに着ていたのは、汚さないようにという想いとBFGが男の子のことを思い出さないように、という思いやりからだったのでしょう。

幻想的な名シーン

BFGの仕事は毎晩、眠っている子どもたちに幸せな夢を吹き込むこと。仕事部屋に置いてあるのは夢が入っているたくさんの瓶たち。その中に“ソフィーの夢”と書かれていた瓶がありソフィーは気になります。それがあのエンディングにつながるなんて…。
BFGと共に夢を取りに行った先は“さかさま”の世界、夢の国。ドリームツリーの周りを蛍のような光がフワフワと舞っていて、幻想的で美しすぎる映像に魅了されました。この場面だけでも観る価値があるのではないでしょうか。BFGの大きな耳は、虫の歌声や植物のささやき、風や星の声まで聞こえます。それはBFGの心が綺麗でピュアだから…。神様の贈り物なのです。

イギリス王妃との会食

王妃様が出てくるエピソードは、これから起こる何かの予感でワクワクするところです。ステキな洋服を着て髪も整えたソフィーは可憐で微笑ましい!おもてなしの食事はとっても美味しそうで視覚を刺激されますが、マイペースなBFGは自分流を通します。よりによってあのプップクプーを王妃様や兵隊や犬にまで飲ませるとは。飲んで少したった「あれ?」という皆の表情。犬もしていましたね。(ここはツボでしたが周りは誰も笑ってないのはなぜ?)
悪意はなくても失礼なことをしているのに、人間として器の大きい王妃様で良かったですね。ここはスピルバーグ監督らしいお茶目な性格が出ていたと思います。
実際、スピルバーグ監督は「お気に入りのシーンはBFGがプップクプーを飲むシーンで、マーク・ライランスはワイヤーをつけて彼がオナラをするだびに勢いよく引っ張らないといけなかった。舞台出身の彼も初めての経験だったようで、とても気に入っていたよ。爆笑しない日は一日もないくらい。」とコメントされています。

引き寄せ合った二つの魂

児童養護施設で友だちがいない読書好きなソフィーと、人間の男の子を死なせてしまった痛みを抱えたBFG。ソフィーもBFGも一人ぼっちであることを恐れていません。自然と心が通い合っていったのです。 BFGは痛みを知っているからこそ優しく、人の気持ちを察する繊細な心を持ち、ソフィーのような“ほんの少しの勇気”がなかっただけです。お互いに共通する“強さ”を持ちながらも、ないものを補い合っています。
はたから見て孤独に思えても孤独を恐れない者は強い。つまり孤独ではないのです。そして二人のように自分を孤独だと思わず、自分の世界を持っている者は心のレベルが高い。だから周りとなじめなくても友だちがいなくても大丈夫。

いつかきっと人の役に立つ時がくるのだから。
いつか必ず輝ける時がくるのだから。  

エンディングの素晴らしさ

原作にはないエンディング。BFGが果物に囲まれ豊かな暮らしをし、ソフィーとも会話ができる日常。でも、それはあの瓶に入っていた“ソフィーの夢”。本当はBFGの生活は今までと変わっていないと推察します。その後、二人は会っているのかどうかも分かりません。BFGはソフィーが自分のことを気にかけ一緒にいたいと知っていて、安心させるためにそんな夢を作って吹き込んだのです。なんて温かくホロリとするラストなのでしょう。これはメリッサ・マシスンの女性ならではの脚本の力ではないでしょうか。

BFGの小指とソフィーの手を結んだ『E.T.』を思い出させるシーン。固く結ばれた絆。それは「たとえ離れていても心はいつも一緒だね」と語っているようで救われます。このラストのためにあったのかもしれません。別れても繋がっているんだよ、というメッセージは『E.T.』へのオマージュだったのです。
11~12年前から本作の脚本を書き始め、去年、公開を待たずに亡くなってしまった脚本のメリッサ・マシスン。私は『E.T.』が大好きでDVDを買って数えきれないほど何度も観ています。そのたびに心を躍らせ涙し、励まされました。大切な大切な宝物です。どうもありがとうございました。どうか天国でゆっくりなさって愛に溢れた物語を創って下さいね。

このレビューはメリッサ・マシスンさんに捧げます。

©Disney

Writer

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プルーン

ピアノ教師、美容研究家、ライターetc.